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氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 佐藤湊
第2章 巡り合うには遠すぎて
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第5話 顔合わせ

教室へ入ると、すでに何人もの貴族令息や令嬢が席についている。


去年までとは明らかに空気が違った。


俺が教室へ入った瞬間、何人もの視線がこちらへ向く。


第一王子。


それだけで、俺は注目される。


「殿下」


声をかけてきたのは、一人の少年だった。


十歳ほど。


整った顔立ちに、貴族らしい落ち着いた身なりの母に似た水色の髪と翡翠の瞳。


「ウィーヌム子爵家長男、ルリウス・デイ・ウィーヌムと申します」


母上の実家。


つまり、俺にとっては母方の親族にあたる家の嫡男だ。


「知っている。母上から話は聞いている」


「光栄です」


ルリウスは一礼する。


その後ろには、数人の令息と令嬢が控えていた。


「こちらは、第一王子殿下を支持する家の者たちです」


なるほど。


どうやら、ただの顔合わせではないらしい。


俺は教室を見渡した。


そして気づく。


第一王子派の貴族子弟が、自然とこちらへ集まっている。


まだ十歳。


爵位も領地も持っていない。


それでも、家同士の関係はすでに親から子へと引き継がれている。


「殿下の御身をお守りすることは、我々にとっても重要なことです」


ルリウスがそう言った。


俺は少しだけ目を細める。


「そうか」


それ以上は言わなかった。


子供同士の派閥争い。


そう考えればくだらない。


だが――この国では違う。


ここにいる者たちは、十年後、二十年後には王国の政治を担う。


今の友人関係が、将来の派閥になる。


その意味では、今日の顔合わせは決して軽いものではなかった。


そのとき。


教室の反対側から声が聞こえた。


「随分と賑やかですね」


振り返る。


そこにいたのは、第二王子派の貴族子弟たちだった。


その中心に立っているのは、一人の紫の髪と漆黒の瞳の少年。


「ガルディシア伯爵家次男、アウルス・デイ・ガルディシアと申します。」


第二王妃の実家。


そして第二王子派の中心となる家。


アウルスは俺を見ると、礼儀正しく頭を下げた。


「第一王子殿下にお会いできて光栄です」


「こちらこそ」


俺も最低限の礼を返す。


それだけ。


敵意を剥き出しにする必要などない。


学院は戦場ではない。


少なくとも、今は。


しかし。


俺の周囲には第一王子派。


アウルスの周囲には第二王子派。


教室の中に、二つの小さな集団が生まれていた。


そして俺は思った。


――十歳の子供たちが、もう派閥を作っている。


少し滑稽だ。


だが同時に、妙に現実的でもあった。


俺たちはまだ子供だ。


けれど、俺たちの後ろには、それぞれの家と親と派閥がいる。


そして、この学院で築いた人間関係が、やがて王国の政治へ繋がっていく。


俺は席に座った。


周囲では、令息や令嬢たちが互いに挨拶を交わしている。


俺も何人かと言葉を交わした。


名前を覚える。


家柄を確認する。


誰と誰が親しいのかを見る。


ただ、それだけ。


俺はまだ十歳だ。


今すぐ政治を動かせるわけではない。


それでも――


この教室にいる全員が、十年後には王国の重要人物になっているかもしれない。


ならば。


今はただ、顔を覚えておけばいい。


俺は静かに周囲を見渡した。


そして、新しい一年が始まった。

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