表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 佐藤湊
第2章 巡り合うには遠すぎて
PR
48/311

第2話 王立貴族学院

政争後編開始です!

十歳になった。


 そして――明日。


 俺は王立貴族学院へ入学する。


 王都の中心部に建つ、アンティクイランド王国最高峰の教育機関。


 貴族の子弟が集まり、将来の官僚や騎士、領主、そして王族が学ぶ場所だ。


 前世の俺にとっての高校とは、まるで意味が違う。


 あちらでは、ただの高校生だった。


 教室に座り、授業を受け、放課後になれば友人と帰る。


 それだけの場所だった。


 だが、この学院は違う。


 ここで出会う人間の多くが、将来この国を動かす。


 伯爵家の嫡男。


 子爵家の令嬢。


 有力貴族の子弟。


 王族。


 そして、王国各地から集まる次代の支配者たち。


 つまり。


 明日から俺は、子供たちの中に入るのではない。


 未来の政治家たちの中へ入る。


「……面倒だな」


 思わず呟いた。


「何が面倒なのです?」


 背後から声がする。


「……ゼバズか」


「はい」


 振り返ると、いつものようにゼバズが立っていた。


 相変わらずの老け顔……いや、老け顔どころか普通にジジイである。


「明日から学院ですよ。第一王子殿下がそのような顔をされていては、下の者にも示しがつきません」


「俺は楽しみで仕方がない少年の顔を作るより、面倒なものを面倒だと思える顔でいたい」


「……その言い方はどうかと思いますが」


 ゼバズがため息をつく。


 俺は再び窓の外へ視線を向けた。


 遠くに学院の建物が見える。


 あそこへ、明日から毎日通う。


 そう考えると、不思議な感覚だった。


 転生して十年。


 俺は王子として生きてきた。


 政治を学んだ。


 剣を学んだ。


 魔法を学んだ。


 王都の人間関係も少しずつ理解してきた。


 だが、学院には今までとは違うものがある。


 同年代の人間と、同じ場所で長い時間を過ごす。


 これは王宮ではなかったことだ。


 そして――。


 俺は机の上に置かれた名簿へ視線を落とした。


 入学予定者。


 貴族家。


 王族。


 それぞれの名前が並んでいる。


「……カイもいる」


「当然でしょう。明日から三年生ですから」


「ああ」


 カイは今や十二歳。


 王立貴族学院の三年生だ。


 俺が学院に入学すれば、校内で会う機会も増えるだろう。


「マリーも、グラフィルもいるんだったな」


「はい」


「……本当に微妙な組み合わせだな」


「殿下」


「なんだ?」


「本人たちに聞かれますよ」


「……」


 まあ、いい。


 どうせ否定しても仕方がない。


 俺は椅子へ座った。


 明日から生活が変わる。


 王宮の中だけで人間関係を築く生活ではなくなる。


 学院という閉じた空間の中で、貴族の子供たちが互いを見て、競い、仲間を作り、敵を作る。


 俺自身も、その中の一人になる。


 第一王子という身分は隠せない。


 むしろ、隠すことなどできない。


 俺が教室へ入れば、全員が俺を見るだろう。


 誰が俺に近づくのか。


 誰が距離を置くのか。


 誰が第二王子派なのか。


 誰が第一王子派に近づこうとするのか。


 そして――。


 誰が、俺自身を見ようとするのか。


 それを考えると、少しだけ楽しみでもあった。


「……まあ、行ってみるか」


 十歳の今の俺にとって、学院はただの学校ではない。


 王子としての人生で、初めて自分と同じ世代の貴族たちと長期間接する場所。


 ここで何を得るのか。


 誰と出会うのか。


 何が起こるのか。


 まだ分からない。


 だが――。


 これまで十年間、俺はずっと準備してきた。


 剣も。


 魔法も。


 知識も。


 人を見る目も。


 足りないものは、まだ多い。


 それでも。


 今できることは、全部やってきた。


「殿下」


「なんだ?」


「明日は早いです。そろそろお休みください」


「……分かった」


 俺は立ち上がった。


 最後にもう一度、窓の外を見る。


 月明かりの下に、学院の建物が静かに浮かんでいる。


「明日からか」


 前世では、学校に通っていた。


 そして今世でも、また学校へ通う。


 ただし――。


 今度の俺は、普通の学生ではない。


 アンティクイランド王国第一王子。


 レノウィウス・ゲンス・デイ・アンティクイランド。


 それが、今の俺だ。


「……寝るか」


 俺は部屋の明かりを落とした。


 明日。


 俺は王立貴族学院へ入学する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ