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氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 佐藤湊
第1章 誕生と王国の影
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第39話 終結

戦闘が終わった。


アルゲントゥム商会の徒党集団は、大きな損害を受けていた。


ヘーロース商会と中規模商会の連合による攻撃。


そして――その背後から加わった、俺たちの襲撃。


結果として、アルゲントゥム商会は王都における勢力を大きく失った。


「……思った以上だな」


後日、カイから報告を受けた。


アルゲントゥム商会は、これまで王都周辺の陸上交易だけでなく、港を利用した水上交易にも大きな影響力を持っていた。


だが、そのために必要だったのは――人だった。


商会が所有する船。


隊商。


倉庫。


それらを守る大量の傭兵。


ところが今回の一件によって、その護衛戦力が大幅に減少した。


陸上の隊商護衛兵も。


水上交易を守る護衛兵も。


どちらも不足している。


「つまり……」


俺は報告書に目を落とす。


「商売は続けられても、今までと同じ規模では動けない」


「はい」


カイが頷く。


「新たに傭兵を雇い、隊商護衛部隊を再編する必要があります。しかし、それだけの人数を短期間で集めるのは難しいでしょう」


当然だ。


商会が弱体化したからといって、傭兵まで突然増えるわけではない。


むしろ問題は逆だった。


アルゲントゥム商会が必要としていた大量の護衛兵を確保できなくなれば、その交易能力そのものが落ちる。


そして――。


「そこへ入ってきたのが、商会連合か」


「はい」


ヘーロース商会を中心として、複数の中規模商会が共同で隊商を編成する。


一つの商会だけでは不足する資金、人員、護衛兵を、それぞれが分担する。


陸上では共同隊商を。


水上では共同船団を。


護衛には、それぞれの商会が雇っていた傭兵を組み合わせる。


これまで個別に交易していた商会が、必要に迫られて手を組み始めたのだ。


「……なるほど」


俺は地図を見る。


アルゲントゥム商会が弱体化したことで生まれた空白。


そこへ、ヘーロース商会と中規模商会が入り始めている。


誰かが命令したわけではない。


俺が商会連合を作らせたわけでもない。


ただ、アルゲントゥム商会が失ったものを埋める必要が生まれた。


その結果――。


商会同士が協力する理由が生まれた。


「これなら……」


俺は小さく呟く。


一つの商会が王都経済を支配するのではない。


複数の商会が、それぞれ交易路を持つ。


それぞれが傭兵を雇い。


それぞれが隊商を組む。


そして必要なときだけ互いに協力する。


アルゲントゥム商会が握っていた経済的な空白は、一つの商会によって埋められるのではなく――。


複数の商会によって分散して埋められ始めていた。


俺は報告書を閉じる。


「……これでいい」


まだ完全ではない。


アルゲントゥム商会そのものが消えたわけでもない。


帝国との繋がりも、母上の暗殺との関係も、まだ証明できていない。


それでも。


今回の一件で、少なくとも王都経済が一つの商会に依存する状況は崩れた。


そして俺は、まだ七歳だ。


今の俺には、商会を命令で動かす権力などない。


だからこそ――。


人間が自分たちの利益のために動いた結果として、国にとって都合のいい形が生まれる。


それが一番いい。


「……商人というのは、面白いな」


俺はそう呟いた。


こうして、王都の商業勢力図は少しだけ変わった。


アルゲントゥム商会は大きく弱体化し。


ヘーロース商会は勢力を維持した。


そして、中規模商会たちは互いに手を組み始めた。


後に王都経済の中枢と呼ばれることになる連合の動きは____


この日を境に、静かに始まった。

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