第36話 帝国の諜報組織
「アルゲントゥム商会の奴ら、ヘーロース商会だけじゃなくて、他の商会にも圧力をかけてる」
俺は黙って報告書を見る。
最初から分かっていた。
アルゲントゥム商会は、ヘーロース商会を潰したいだけではない。
ヘーロース商会を潰す。
その市場を奪う。
中規模商会を従わせる。
王都の交易路と物流を握る。
そして、その経済力を利用して王国内の情報網を広げる。
――そこまでが敵の目的だ。
ならば俺はアルゲントゥム商会を潰す。
それは決まった。
もう、選択肢ではない。
あの商会が王都経済を掌握する前に。
帝国の工作網が王国内に根を張る前に。
そして――俺の家族に、これ以上手を出す前に。
潰す。
ただし。
感情で動くつもりはない。
怒りに任せて斬れば、商会一つを消すことはできても、その後に残る混乱を止められない。
それでは意味がない。
必要なのは復讐ではない。
敵を消した後も、国が動き続ける状態を作ることだ。
だから、先に準備する。
商会がなくなっても交易が止まらないようにする。
商人がなくなっても物流が止まらないようにする。
そして、アルゲントゥム商会を支えている金と人と情報の流れを、一つずつ切っていく。
逃げ道は残さない。
言い訳もさせない。
帝国の手先としてではなく――。
王国を侵食した組織として、王国の法によって処理する。
それが一番確実だ。
そして俺は、そのために必要なものをすべて集める。
時間ならある。
七歳の俺には、それだけは十分にある。
「……なるほど」
俺は地図を見る。
王都の市場。
港。
倉庫。
街道。
商会の支店。
それらを眺めながら考える。
アルゲントゥム商会が王都経済を握れば、王国はアルゲントゥム商会を無視して政策を実行できなくなる。
さらに、その商会が帝国と繋がっている。
ならば、帝国は商会を通じて王国の経済と情報を同時に掌握できる。
これはもう商会抗争ではない。
国家安全保障の問題だ。
俺はそこで結論を出した。
アルゲントゥム商会は潰す。
迷いはなかった。
母上を殺した連中と繋がっているからでもない。
第二王子派の味方だからでもない。
帝国の手先だからでもない。
それらすべてを抜きにしても――。
王国の内部に、外国勢力の工作部隊などが配備された諜報組織が存在し、経済と情報を掌握しようとしている。
それだけで十分だった。




