第35話 三大商会
俺は一軒の家を購入する。
表向きは普通の家。
しかし実際には、浮浪児たちの拠点だった。
「ここを使え」
子供たちは戸惑う。
「俺たちが?」
「そうだ」
綺麗な服。
食料。
最低限の金。
そして護身用の道具。
ただし、条件がある。
「仕事をしてもらう」
子供たちは頷く。
仕事とは情報収集。
「市場で何が売れているか」
「どの商人がどこへ向かったか」
「誰がどの路地へ入ったか」
「アルゲントゥム商会の人間を見かけたか」
最初は小さな情報だった。
しかし――。
一週間。
二週間。
一か月。
情報が積み重なっていく。
俺は気づく。
一人の人間では見えないものが、十人なら見える。
十人では見えないものが、百人なら見える。
そして彼らは、王宮の諜報員とは違う。
誰も彼らを諜報員だと思わない。
それこそが最大の強みだった。
ある日、浮浪児から新しい情報が入る。
「アルゲントゥム商会と揉めてる商会がある」
「どこだ?」
「ヘーロース商会」
レノウィウスは王都の商会勢力を調べる。
王都には三大商会が存在していた。
アルゲントゥム商会
巨大な商会。
商隊だけではなく、船隊も保有する。
大量の交易を行い、多数の傭兵を護衛として雇っている。
そして――帝国との繋がりが強い。
ただし表向きは普通の商業活動だ。
帝国との交易を利用しながら情報を集めている。
ヘーロース商会
アンティクイランド国内を中心とする商会。
アルゲントゥム商会ほど巨大ではない。
だからこそ、他の中規模商会と結びついている。
アルゲントゥム商会に市場を奪われれば、自分たちの商売が終わる。
だから対抗する。
メルカトル商会
三大商会の一つ。
しかし、他の二つとは少し違う。
政治的な派閥を作らない。
誰かのために裏工作もしない。
ただ商売をする。
商隊を送り、船を出し、商品を売る。
その過程で得られた情報を利用する。
そして、その情報をさらに商売へ利用する。
商売そのものが情報収集になっている商会だった。
俺はさらに調査を進める。
すると奇妙な構図が見えてきた。
アルゲントゥム商会は、巨大すぎる。
王都の中規模商会を次々と圧迫している。
そこで――。
ヘーロース商会を中心に、中規模商会が結びつき始めていた。
目的は単純。
「アルゲントゥム商会から自分たちの商売を守る」
そのために、彼らは傭兵を集める。
この世界では傭兵は珍しい存在ではない。
商会は隊商や船隊を護衛するため、傭兵を雇う。
国は盗賊討伐を依頼する。
戦争になれば、傭兵団が国軍の一部として編成されることもある。
つまり――。
傭兵は商業と軍事の中間に存在する。
そして今、その傭兵たちが商会同士の抗争に利用されようとしている。
俺は報告書を読みながら考える。
「……商会が、実質的な軍隊を持っているのか」
いや。
正確には違う。
彼らは軍隊を持っているのではない。
金で軍事力を調達できる。
それが、この世界の商会だった。




