第75話 反攻作戦開始
第一防壁からの後退作戦は、甚大な損害を伴いながらも、どうにか完了した。
帝国軍は開かれた城門から侵入し、城壁に梯子を掛けて市街地への進出を続けていたが、アイティクィランド軍は第三軍団と第五軍団を中心に殿を務めさせ、その間に残存部隊を第二防壁まで後退させることに成功していた。第一防壁そのものは失われたものの、軍の指揮系統が完全に崩壊する事態だけは避けられたのである。
第二防壁には、予備兵力として温存していた第一軍団二千二百人、士官候補生部隊千百人、傭兵団の半数に当たる三千五百人、合わせて六千八百人が既に展開していた。さらに、第一防壁での戦闘を生き延びた部隊も順次後退し、第四軍団と第二軍団については貴族街の軍港への移動を終えていた。負傷兵の搬送も既に済んでおり、第二防壁では、後退した各部隊を再編しながら新たな防衛線を構築する作業が進められていた。
もっとも、これで王都の防衛が安定したわけではない。帝国軍は第一防壁を突破し、城門と城壁の双方から市街地へ進出することに成功した。後退作戦によって兵力の一部を温存できたとはいえ、戦闘による損耗は大きく、各軍団の戦力には無視できない差が生まれている。負傷した兵士も多く、指揮官を失った部隊や再編を必要とする部隊もあった。
そして何より、次に失敗すれば、王都の防衛そのものが危機に陥るという現実があった。
第二防壁は、平民街と貴族街を隔てる位置に築かれている。第一防壁から後退した帝国軍の追撃を、ここで食い止めなければならない。
王都レクィエリアは、単に城壁が幾重にも重なっている都市ではない。平民街には多くの住民が暮らし、貴族街には貴族たちの邸宅や各種施設が集まっている。さらに、貴族街には王立貴族学院の広大な敷地や軍港も存在しており、部隊を配置するための空間をある程度確保することができた。第四軍団と第二軍団が貴族街の軍港へ後退したことも、その施設の配置や敷地の広さを利用して部隊を収容できたからである。
しかし、第三防壁の内側は事情が異なる。
そこにあるのは、第二次諸国連合の本部や王族の居住区域など、王都の統治と連合の指揮に必要な施設が中心だった。貴族街のように広大な敷地を持つ場所や、大量の人員を収容できる施設が十分にあるわけではない。第三防壁まで後退すれば、そこを軍事的な防衛線として利用することはできても、貴族街に暮らす貴族たちとその一族、使用人などをまとめて避難させることは難しかった。
かといって、貴族たちを貴族街に残し、帝国軍の手に委ねることもできない。
帝国は、征服した土地の支配を確立するため、相手国の支配層を利用することを考えるだろう。貴族を捕らえれば、身代金を要求することもできるし、帝国側へ取り込んで、占領地の統治に利用することもできる。王都の貴族たちが帝国の手に落ちれば、アイティクィランドの政治体制だけでなく、第二次諸国連合の内部にも深刻な影響が及ぶことになる。
それは、単なる領土の喪失では済まされなかった。
貴族たちは、王国の政治や行政、軍事、経済を支える存在である。その多くが帝国に捕らえられ、あるいは取り込まれれば、残された王政府は国内を統治するための基盤を失いかねない。さらに、第二次諸国連合にとっても、盟主国の支配層が敵の手に落ちることは、連合全体の指揮や外交に影響する重大な事態となる。
だからこそ、第三防壁は最後まで残しておくべき防衛線であり、その内側へ後退することは、単純に一つの城壁を捨てるという意味にはならなかった。そこまで追い詰められれば、貴族街を帝国軍へ明け渡すことになり、貴族たちを安全な場所へ移す余地もなくなる。王族と連合本部だけを守ることができたとしても、王国全体を支えている政治的な基盤を失うのであれば、それは防衛の成功とは呼べなかった。
つまり、第二防壁こそが、レクィエリアを守るための最終防衛ラインだったのである。
俺は、第二防壁の配置を示す地図を見つめながら、その現実を改めて受け止めていた。
第一防壁を失った以上、次の戦闘では敵をどう食い止めるかだけでなく、こちらの兵力をどう維持し、次の行動へつなげるかが重要になる。第三軍団と第五軍団が後退時にどれほどの損害を受けたのか、各部隊にどの程度の兵力が残っているのか、第一軍団をはじめとする予備兵力を今後どのように使うのか、確認すべき問題はいくらでもあった。
それでも、ただ第二防壁に兵力を集め、敵の次の攻勢を待つだけでは、状況を好転させることはできない。帝国軍は第一防壁を突破したことで、王都の防衛線を一つ崩した。こちらが防衛に徹すれば、敵は十分な準備を整えたうえで第二防壁への攻撃を開始することができる。長期戦によって兵力を消耗しているのは帝国側も同じだが、だからといって、こちらが必ず有利になるわけではなかった。
必要なのは、守りを固めることと並行して、戦局を動かすための手段を講じることだった。
そのため、王宮司令部では、各軍団の再編と第二防壁の防衛準備を進める一方で、反攻作戦の具体的な調整が続けられていた。
今回の反攻作戦は、レクィエリアの戦場だけで完結するものではない。帝国と第二次諸国連合の戦いは、シルウァニア戦線やウィムーヌ戦線にも広がっており、それぞれの戦線が互いに影響し合っている。レクィエリアで帝国軍を押し返したとしても、他の戦線で同盟側が敗北すれば、その成果を生かすことは難しい。逆に、別の戦線で帝国軍に圧力をかけることができれば、レクィエリアへ投入される敵の戦力を制限することにもつながる。
俺たちは、それぞれの戦線が独立しているわけではないことを理解していた。
◇
戦線の再編が進められていた頃、帝国軍の周囲に潜伏していた同盟側の部隊から、重要な報告が届いた。
その報告は、矢に結びつけられた書状によって届けられたものだった。帝国軍の動向を探るために周囲へ潜伏していたエクィトゥム軍、カヴィーレスターン軍、そして亡命政府軍の者たちが、それぞれの情報を集約し、同盟側へ伝えたのである。
俺は、届けられた書状を手に取り、記された内容を確認した。
そこには、ノルマデース軍と亡命政府軍が、帝都の貴族街への潜入に成功したという報告があった。
彼らは、帝国に内通している貴族たちの護衛兵として、帝都の貴族街へ入り込んだという。貴族の護衛という立場であれば、一般の兵士が立ち入ることのできない場所へ接近することもできる。帝国側に協力している貴族たちの周囲に配置されることで、彼らは帝都の内部へ進出する足掛かりを得たのである。
もちろん、帝都の貴族街への潜入に成功したからといって、それだけで帝国の政治や軍事を自由に動かせるわけではない。彼らがどこまでの情報を得られるのか、また、帝国側に正体を見破られずに行動を続けられるのかは、今後の状況に左右される。しかし、帝国の内部へ接近できる立場を確保したこと自体は、同盟側にとって無視できない成果だった。
これまで帝国軍は、王都レクィエリアへの攻勢を続ける一方で、シルウァニアやウィムーヌを含む複数の戦線で軍事行動を進めてきた。第二次諸国連合としては、各戦線における帝国の動きを把握し、その戦力がどのように配置されているのかを知る必要がある。帝都の内部へ潜入した部隊が活動できれば、戦場の外側からも帝国の動きを探るための機会が生まれることになる。
報告には、ノルマデース軍と亡命政府軍が貴族の護衛兵として配置される形で、帝都の貴族街への進入に成功したことが記されていた。さらに、帝国軍の周囲に潜伏しているエクィトゥム軍、カヴィーレスターン軍、亡命政府軍の部隊が、引き続き情報の収集と伝達を行っていることも確認できた。
俺は、書状を読み終えると、それを机上に置いた。
「……帝都の内部にまで、足場を築いたか」
その事実には、重要な意味があった。
帝国は、軍事力によって第二次諸国連合を押し込もうとしている。しかし、その帝国自身も、すべての地域で自由に行動できているわけではない。帝国の内部には、現在の体制や戦争の進め方に不満を持つ者たちも存在しており、同盟側はそうした人々との接点を通じて、帝国の内側へ影響を及ぼす機会を得ようとしていた。
ノルマデース軍と亡命政府軍が貴族街へ潜入したことが、直ちに帝国の戦争遂行能力を揺るがすわけではない。それでも、帝都の内部に同盟側が活動できる余地が生まれたことは、今後の反攻作戦を考えるうえで重要な要素となる。
戦場の兵力だけを比較しても、戦争全体の行方を判断することはできない。敵の内部にどれほどの不安要素が存在するのか、どのような勢力が帝国に協力しているのか、そして、その関係がどのように変化し得るのか。そうした情報もまた、軍事作戦を決定するために必要だった。
俺は、書状を担当者へ渡し、会議の出席者たちに報告内容を確認させた。
「この情報を反攻作戦の計画に反映させる。帝都に潜入した部隊が今後どこまで活動できるかは、引き続き確認する必要があるが、現時点で得られた内容は各国との調整にも反映しておけ」
「承知しました」
報告を受けた者たちは、それぞれの担当する資料を確認し始めた。
今回の報告は、反攻作戦そのものを一から変更するものではない。しかし、帝国の内部に潜入した部隊が存在し、同盟側がその動向を継続して把握しようとしていることは、作戦を実行するうえで考慮すべき事項だった。今後、新たな情報が届けば、帝国軍の動きに合わせて作戦の調整を行う余地も生まれる。
もっとも、情報があるからといって、すべてを計画に盛り込めばよいわけではない。確実性の低い情報に依存しすぎれば、作戦そのものが不安定になる。現時点で確認できている事実と、今後の可能性として考えられることを区別しながら、各国の軍が実行できる計画へ落とし込む必要があった。
その一方で、俺は王宮司令部に出入りする者たちの動きにも目を向けていた。
反攻作戦の調整が進むにつれ、エクィトゥム領事館から派遣された外交官や、第二次諸国連合の議員たちが王宮司令部を訪れる機会も増えていた。彼らは各国間の連絡や政治的な調整を担う立場にあり、戦況を把握し、必要な情報を集めようとすること自体は不自然ではない。連合として軍事行動を行う以上、各国の政府や議会が戦局を把握しようとするのは当然だった。
だが、彼らの動きを見ていると、単に決定事項を伝達するだけではなく、各戦線の状況や部隊の配置、反攻作戦の準備がどこまで進んでいるのかについても、可能な限り情報を得ようとしていることが感じ取れた。会議の前後に担当者へ質問をしたり、報告の内容から各国の軍の状況を推測したりと、それぞれの立場から情報を集めているようだった。
彼らが情報を求めること自体に、不自然な点はない。外交官は自国の外交政策を決めるために情報を必要とするし、議員もまた、戦争の進捗や自国が負担しているものを把握しなければならない。彼らが同盟の一員として情報を集めることを、俺が一方的に制限するわけにはいかなかった。
それでも、俺は警戒を解くことができなかった。
味方であることと、こちらの手の内をすべて明かしてよいことは、同じではない。
俺が気にしていたのは、機密情報が帝国側へ漏れる危険だけではなかった。むしろ、同盟を構成する国々に、アイティクィランドの軍事的な余力をどこまで知られるべきなのかという問題のほうが、長い目で見れば重要になる可能性があった。
今、俺たちが必要としているのは、帝国軍を撃退し、失われた主導権を取り戻すことだ。そのためには、各国が情報を共有し、互いの軍事行動を調整しなければならない。しかし、戦争は勝利を収めた瞬間にすべてが終わるわけではない。戦争が終われば、各国はそれぞれ自国の損害と戦果を振り返り、今後の立場を考えることになる。その際、戦時中にどれほどの兵力を失い、どれほどの予備戦力を残していたかという情報は、戦後の勢力関係や各国間の交渉にも影響する。
例えば、こちらがどれほどの損害を受けているのか、なおどの程度の兵力を動かせるのか、どこまで戦争を継続できる余力があるのか。それらが詳しく知られれば、同盟国は今後の軍事的な負担を考える際にも、こちらの実情を前提として判断できるようになる。こちらに十分な余力が残っていると判断されれば、その分だけ多くの役割を期待される可能性もあるし、反対に余力が乏しいと知られれば、同盟内での発言力や戦後の交渉にも影響しかねない。
もちろん、各国が自国の利益を考えること自体は当然のことだ。第二次諸国連合は共通の敵と戦うために結成された連合だが、各国の利害が完全に一致しているわけではない。戦争によって受ける損害も異なれば、戦後に確保したい立場や利益も同じではないだろう。だからこそ、こちらの余力や損耗の実態を、必要以上に他国へ明らかにするべきではなかった。
俺は、エクィトゥム領事館の外交官や連合の議員たちが、こちらの情報を不正に利用しようとしていると考えていたわけではない。現時点で、彼らの行動を裏切りと判断できる根拠はなかった。しかし、彼らが善意で集めた情報であっても、各国の政府や議会へ持ち帰られれば、その国の政策を決める材料となる。そして、その情報が戦後の交渉で利用される可能性もある。
戦争中に限って見れば、各国が互いの状況を正確に把握することには、多くの利点がある。だが、戦時中に必要な情報を共有することと、こちらの持つ選択肢を左右する情報まで無条件に開示することは、別々に考えなければならなかった。
加えて、情報が同盟内で共有されれば、それだけ伝達経路も増える。各国の外交官や議員がそれぞれの政府へ報告すること自体は必要だが、その過程で、本来は一部の指揮官だけが把握していればよい情報まで伝わってしまう可能性がある。さらに、その報告が別の立場の者へ渡り、思いもよらない経路を通じて帝国側へ漏れる危険も否定できない。
だからといって、同盟国に必要な情報を渡さず、連携を損なうわけにもいかなかった。情報を隠しすぎれば、各国の判断が食い違い、共同作戦そのものに支障を来す。必要なのは、味方を疑ってすべてを閉ざすことではなく、作戦の遂行に必要な情報と、こちらの余力や損耗の全容を明らかにしてしまう情報とを区別することだった。
俺は、各国との連絡を担当する者たちに、作戦上必要な情報共有は維持しつつ、部隊ごとの残存兵力や予備戦力、損耗の詳細などについては、共有する相手と範囲を慎重に判断するよう指示した。各国が連携するために必要なことは伝える。しかし、反攻作戦の全容や、戦後の交渉にも影響し得る自国の軍事的な余力まで、無条件に開示する必要はない。
それは同盟国への不信からではなく、王として、自国が持つ選択肢を守るための判断だった。
俺たちは帝国軍の周囲に潜伏する部隊から情報を得ようとしている。帝都へ潜入したノルマデース軍や亡命政府軍も、限られた立場と手段のなかで情報を集めている。彼らの報告が帝国側に知られれば、その後の活動を続けること自体が困難になるかもしれない。情報を集めることが重要であるならば、それを守ることも同じように重要だった。
反攻作戦の調整は、単に敵へ攻撃を仕掛ける時期を決めるだけのものではなかった。各戦線の状況を確認し、帝国軍の動きに関する情報を整理し、同盟を構成する各国の軍がどの時点で、どのような行動を開始するかを調整しなければならない。準備が整わないまま作戦を開始すれば、ある戦線が攻勢に出ている間に別の戦線が敵の反撃を受け、互いの行動を支えられなくなる可能性もあった。
そして、各国との調整を円滑に進めながら、戦時中の機密と戦後にも影響を及ぼす情報を適切に管理することも、王宮司令部が果たさなければならない役割だった。
だからこそ、俺たちは時間をかけて各国との調整を進めていたのである。
◇
それからも、王宮司令部では各戦線の状況を確認しながら、反攻作戦の計画を整えていった。
シルウァニア戦線では、帝国軍の動きと自軍の配置を踏まえ、攻撃を開始するための準備が進められていた。これまでの戦闘によって兵力を消耗していることは、どの戦線にも共通する問題だったが、だからといって、戦場の主導権を帝国軍へ渡し続けるわけにはいかない。こちらが攻勢に出るためには、各部隊の再編を終え、必要な兵力を確保したうえで、各国の動きを一致させる必要があった。
ウィムーヌ戦線でも、反攻作戦に向けた準備が進められていた。戦線ごとの状況は異なり、帝国軍の配置や双方の戦力にも違いがある。そのため、すべての戦線でまったく同じ行動を取ることはできなかったが、作戦開始の時期と全体の方針を調整することで、それぞれの戦線が帝国軍に圧力をかけられるようにすることが目指されていた。
そして、レクィエリアの防衛においても、第二防壁を中心とした再編が続けられていた。
第一防壁での戦闘によって、各軍団は少なからず損害を受けている。後退を終えた部隊を再編し、兵力と指揮系統を確認しながら、第二防壁の防衛配置を整えることは容易ではなかった。それでも、ここを突破されれば貴族街を失い、第三防壁の内側に王族の居住区域と連合本部だけが残されることになる。貴族たちを安全に避難させる場所がない以上、第二防壁を最終防衛ラインとして維持しなければならなかった。
さらに、第一防壁での戦闘を通じて、帝国軍が今後も大規模な攻勢を仕掛けてくることは明らかだった。こちらが第二防壁で守りに徹したとしても、敵の損害が増えることを期待するだけでは、戦局を決定的に変えることはできない。防衛線を維持することと、反攻によって敵の行動を制約すること。その両方を成立させるために、各部隊は準備を進めていた。
会議のなかでは、各国の担当者が自らの戦線について報告し、互いの行動を確認していた。どこか一つの戦線だけが先走れば、他の戦線がその負担を背負うことになりかねない。反対に、全戦線が相手の動きをうかがっているだけでは、いつまでも帝国軍の優位を崩すことができない。
各国が必要としていたのは、互いの状況を踏まえたうえで、実行可能な作戦を同じ方向へ向けることだった。
俺は、報告と調整の内容を確認しながら、作戦開始に必要な条件がどこまで整っているのかを見極めていた。
第一防壁からの後退は完了した。第二防壁では防衛体制の再編が進んでいる。シルウァニア戦線とウィムーヌ戦線でも攻撃準備が進み、帝国軍の周囲に潜伏する同盟側の部隊からは、引き続き情報が届けられていた。帝都の貴族街にノルマデース軍と亡命政府軍が潜入したという報告も、各国との調整を進めるうえで共有されている。
同時に、各国との連絡を担当する者たちには、作戦上必要な情報を共有しながら、機密情報の扱いを慎重にするよう指示していた。連合の外交官や議員たちが情報収集を行うことは、同盟の運営という観点から見れば当然のことだ。それでも、自国の予備戦力や損耗の詳細まで広く知られれば、戦争中の共同作戦だけでなく、戦後の交渉にも影響が及ぶ可能性がある。各国との連携を維持しながら、自国が持つ選択肢を守ることも、今回の作戦を成立させるために欠かせない仕事だった。
これらの状況を踏まえ、反攻作戦の計画は徐々に具体化していった。
もちろん、どれほど入念に準備を進めても、戦場のすべてを予測することはできない。帝国軍がどのような行動を取るのか、こちらの攻勢に対してどのような対応をするのか、実際に戦闘が始まるまでは確定できないことも多い。それでも、現在得られている情報をもとに各国の行動を調整し、開始時期を決定しなければならなかった。
そして、ついに各国との調整が完了した。
反攻作戦を開始するための準備は整い、各戦線の部隊にも、それぞれの役割と行動を確認する指示が伝えられていた。残されたのは、作戦を実際に発動することだけだった。
◇
作戦開始の命令が下されると、各戦線で準備を進めていた部隊が動き始めた。
シルウァニア戦線では、アイティクィランド軍が攻撃を開始するために前進を始めた。これまで防衛や再編に充てていた時間を終え、今度は自らが戦場の主導権を取り戻すために動く番だった。各部隊は、事前に定められた計画に従って行動し、帝国軍に対して反攻を開始した。
ウィムーヌ戦線でも、アイティクィランド軍が攻撃準備を終え、反攻作戦の開始に合わせて動き始めていた。戦線ごとの事情は異なるが、いずれも帝国軍の行動を制約し、これまでの戦局を変えるための攻勢だった。帝国軍が一つの戦線へ兵力を集中させようとすれば、他の戦線への対応が難しくなる。反対に、各戦線で攻撃を受ければ、帝国軍は複数の方向へ注意と兵力を割かざるを得なくなる。
レクィエリアでも、第二防壁を中心に再編を進めていたアイティクィランド軍が動き始めた。
第一防壁を失い、甚大な損害を被ったことは事実である。しかし、残された軍は崩壊しておらず、第二防壁にはなお戦うための兵力が展開している。今後の防衛を成立させるためにも、帝国軍が次の攻勢を整えるのを待つだけではなく、こちらからも行動を起こす必要があった。
王宮司令部では、各戦線から届く報告を確認しながら、反攻作戦が開始されたことを把握していた。作戦開始の命令を受けた各部隊は、定められた計画に沿って動いており、これまで進められてきた各国との調整は、実際の行動へと移され始めていた。
帝国軍がすべての戦線で同時に圧力を受けることになれば、これまでのように一つの戦場へ戦力を集中させることは難しくなる。もちろん、反攻作戦が始まったからといって、直ちに勝利が約束されるわけではない。帝国軍は依然として大きな戦力を保持しており、こちらが攻勢に出ることを想定した対応を取ってくる可能性もある。
それでも、第二次諸国連合は、ただ敵の攻撃を受け続ける段階から、自ら戦局を動かそうとする段階へ進んだのである。
俺は、次々と届く報告を確認しながら、地図上に示された各戦線へ視線を巡らせた。シルウァニア、ウィムーヌ、そしてレクィエリア。それぞれの戦場で、同盟の軍が動き始めている。
第一防壁での後退によって、王都の防衛は大きな危機を迎えた。しかし、その損害を受け止めたうえで、各国との調整を進め、次の作戦を実行するところまでたどり着いた。まだ何一つとして勝利が確定したわけではないが、少なくとも、こちらが一方的に帝国軍の攻勢を受け続けるだけの戦争ではなくなりつつあった。
反攻作戦は、ついに開始された。
ここから先は、準備した計画を実際の戦場で成立させられるかどうかにかかっている。各戦線でどのような戦闘が起きるのか、帝国軍がどのように対応するのか、それはまだ分からない。それでも、俺たちはその結果を待つだけではなく、自らの意思で戦局を動かすために、次の一手を打ったのだった。




