第68話 次の一手
カヴィーレスターンは、レクィエリア籠城戦の状況を打開するため、新たな作戦を立案した。
レクィエリア周辺の海域を帝国海軍から奪い返す。それが、今回の作戦においてカヴィーレスターン海軍に与えられた最大の目的だった。
カヴィーレスターン海軍を率いるスルタンの側近にしてラシード族長老の一人、ヴュルジャ・アスファル・ラシードにとって、この海域を取り戻すことは単なる軍事上の成果ではなかった。帝国海軍が制海権を握り続けている限り、レクィエリアを守るアイティクィランド軍は陸上だけでなく海上からも圧迫され続ける。陸上でどれほど抵抗を続けようとも、海からの支援や補給を十分に受けられなければ、いずれ防衛を維持することは難しくなるだろう。反対に、こちらが海域を奪還できれば、帝国軍の行動を制限すると同時に、第二次諸国連合が戦局を立て直すための余地を生み出せる。
もっとも、帝国海軍が容易にそれを許すはずもなかった。すでにレクィエリア周辺の海域を支配していた帝国側にとって、今回の連合艦隊の接近は、その支配を脅かす明確な動きである。海域を維持しようとする帝国海軍と、それを覆そうとするカヴィーレスターン、エクィトゥム、そしてアイティクィランドの艦隊が、同じ海上で相対することになった。
今回の作戦には、カヴィーレスターン海軍だけでなく、エクィトゥム海軍も参加している。それに加え、ガルディシアに駐留していたアイティクィランド海軍第六軍団艦隊の残存艦も合流していた。第六軍団艦隊は、もはや五隻しか残されていない。それでも、その五隻はアイティクィランド海軍の旗を掲げ、同盟の艦隊とともに戦うためにここまで進出してきたのである。
五隻という数は、海戦全体を左右するほどのものではない。しかし、彼らにとっては残された艦隊そのものだった。祖国の海軍が受けた損害を思えば、ここで失われる一隻の重みは決して小さくない。それでも彼らは戦場に赴き、帝国の支配を退けるために戦うことを選んでいた。
ヴュルジャは、各艦から届く報告を確認しながら、前方に広がる海を見つめていた。複数の国の艦隊が共同で行動する以上、各艦の指揮官がそれぞれの判断だけで動けば、戦場での連携は容易に崩れてしまう。とりわけ、帝国海軍との交戦が始まれば、各艦の損傷や敵の動きに応じて、その場で判断を変えなければならない場面も出てくるだろう。事前に取り決めた行動を守ることは重要だが、それだけに固執して全体の動きを損なうようでは、連合している意味がなくなる。
海上では、陸上のように明確な境界線を築いて敵の進出を阻むことはできない。艦隊がどこに位置し、どの方向へ動いているのかによって、制海権を握っている側も容易に変わり得る。敵を一度退けたとしても、その後に再び進出されれば、せっかく得た優位は失われかねない。そのため、目の前の敵を撃退することだけで満足するわけにはいかなかった。
「帝国艦隊に動きがあります」
報告を受けたヴュルジャは、視線を前方から外すことなく、続く説明に耳を傾けた。帝国側は連合艦隊の接近を把握しており、海域の支配を維持するために艦隊を動かしている。これまで帝国海軍が押さえていた水域を、簡単に明け渡すつもりはないということだろう。
「こちらの動きに合わせてきたか」
ヴュルジャは報告を聞き終えると、各艦の位置と周囲の状況を改めて確認した。敵の動きに合わせて対応するだけでは、戦場で主導権を握ることは難しい。帝国側が海域を維持することを目的としている以上、こちらは敵の動きを妨げ、周辺海域にとどまることが困難な状況を作り出さなければならない。
彼は、連合艦隊を構成する各国の指揮官との連絡を確認し、予定していた行動を継続するよう指示した。カヴィーレスターン海軍の艦艇は、帝国艦隊の動きに合わせて位置を変えながら、エクィトゥム海軍と連携して前進を続ける。アイティクィランド海軍の五隻も、連合艦隊の一部として行動し、限られた戦力を無駄にしないよう慎重に動いていた。
やがて、両軍の距離が縮まり、海上での交戦が始まった。
帝国艦隊は、これまで確保していた海域を簡単には手放さず、連合艦隊の進出を阻もうとした。こちらもまた、帝国側の動きを許せば作戦の目的を達成できなくなるため、押し返されないように艦隊の位置を保ちながら前進を続ける。各艦から伝えられる報告は、交戦の進展とともに増えていったが、ヴュルジャは一つひとつを確認し、戦場全体の状況を見失わないように努めた。
艦隊戦では、目の前の敵艦を撃退できたからといって、それだけで勝利が決まるわけではない。敵の一部を押し返している間に別の艦が進出すれば、戦場全体の状況は容易に変わってしまう。逆に、一時的に押し込まれたとしても、艦隊全体の態勢が崩れていなければ、そこから反撃する余地は残されている。ヴュルジャが重視していたのは、目の前の交戦だけではなく、連合艦隊全体がどのような状態に置かれているかという点だった。
帝国艦隊は、なおも海域を維持しようとしていた。しかし、カヴィーレスターン海軍とエクィトゥム海軍が連携して進出し、アイティクィランドの残存艦隊も同じ目的のために動いている以上、帝国側がこれまでと同じように海域を支配し続けることは難しくなっていく。連合艦隊は、それぞれの艦艇の位置を保ちながら帝国艦隊に圧力をかけ、徐々に戦場での主導権を取り戻していった。
ヴュルジャは、帝国艦隊の動きに変化が生じたことを確認すると、しばらく報告を待った。敵が後退しているのか、それとも態勢を立て直すために位置を変えているのか。その判断を誤れば、こちらが追いすぎて連合艦隊の態勢を崩すことにもなりかねない。勝利を急ぐあまり、次の行動に必要な余力を失うようなことがあってはならなかった。
やがて、複数の艦から届いた報告によって、帝国艦隊がレクィエリア周辺の海域を維持できなくなりつつあることが明らかになった。連合艦隊はその状況を確認しながら進出を続け、帝国側の支配を退けることに成功したのである。
ヴュルジャは、各艦からの報告を確認し終えると、ようやく息をついた。作戦の目的であったレクィエリア周辺の制海権は、同盟側に戻った。カヴィーレスターン海軍、エクィトゥム海軍、そして残る五隻のアイティクィランド海軍第六軍団艦隊が、それぞれの役割を果たした結果だった。
「制海権を奪還したか」
ヴュルジャはそう口にしながらも、浮かれた様子を見せることはなかった。今回の勝利は、レクィエリアをめぐる戦いにおいて大きな意味を持つ。しかし、帝国との戦争そのものが終わったわけではなく、これまで帝国が築いてきた軍事的な優位が、今回の一戦だけで完全に覆ったわけでもない。
とりわけ気がかりなのは、帝国海軍の動きだった。レクィエリア周辺の海域で帝国艦隊を退けることには成功したが、帝国が保有する海軍戦力のすべてを相手にしたわけではない。帝国がまだ投入していない戦力をどこに向けるのか、そしてそれがいつ動き出すのかによって、これからの戦局は大きく変わる可能性があった。
ヴュルジャは、今回の勝利を確かな成果として認めながらも、それを戦争全体の勝利と取り違えるつもりはなかった。海域を取り戻したことで、同盟側には新たな選択肢が生まれた。しかし、その選択肢を実際の戦果へ結びつけられるかどうかは、これからの判断にかかっている。
帝国もまた、今回の敗北をそのまま受け入れるほど単純ではないはずだった。海域を失った帝国が、何もせずに次の機会を待つとは考えにくい。むしろ、今回の戦いによって、帝国が次にどのような手段を選ぶのかが、これまで以上に重要になったといえる。
ヴュルジャは、海上で得た勝利の報告をまとめながら、同盟側が次に何をすべきなのかを考えていた。今はまだ、目の前の勝利を確実なものとして定着させる必要がある。しかし、帝国が別の戦場で大規模な作戦を開始した場合、レクィエリア周辺の海域を取り戻したことだけでは、その動きを止められないかもしれなかった。
海は再び同盟側の手に戻ったが、戦局が好転したと結論づけるには、まだ早かった。
◇
帝国軍最高中央司令部では、極秘の会議が開かれていた。
会議室に集められたのは、帝国陸軍大将プブリウス・デイ・マクシムス、帝国海軍大将グナエウス・デイ・オケアヌス、帝国近衛軍大将であり参謀総長を務めるフラウィウス・デイ・コンスタンティヌス、作戦部長ガイウス・デイ・ウァレリアヌ中将ス、兵站総監マルクス・デイ・アエミリアヌス中将、軍務総監ティトゥス・デイ・セウェリアヌス中将、情報総監クィントゥス・デイ・カッシアヌ中将の七名だった。
さらに、少将八名、大佐十六名、中佐三十二名、少佐四十八名が出席しており、軍の各部門から集められた者たちが会議室に並んでいた。いずれも帝国軍の中枢を担う者たちであり、それぞれの分野において相応の権限と責任を有している。しかし、この場で彼らが行使できる権限は、マギステル・エクィス・ミリトゥムの決定によって明確に制限されていた。
会議を主宰するマギステルは、皇帝に代わって帝国の政治と軍事を統べる存在である。その権力は帝国軍の指揮系統の頂点にとどまらず、政治や人事を含む帝国のあらゆる重要事項に及んでいた。大将であろうと、軍の中枢に長年身を置いてきた高級幹部であろうと、彼の承認なしに帝国全体の方針を変更することはできなかった。
マギステルは上座に座り、手元の資料に目を通していた。会議室に集まった者たちは、彼が口を開くまで発言を控えている。彼らに発言する能力がないわけではない。むしろ、それぞれが軍事に関する豊富な知識と経験を持ち、独自の判断を下すことのできる者たちだった。それでも、ここでは誰もがマギステルの意向を確認し、その範囲内で言葉を選んでいた。
彼は、出席者たちを見渡してから、静かな声で会議を始めた。
「レクィエリア周辺の制海権について、最新の状況を報告しろ。グナエウス大将」
「はっ。カヴィーレスターン海軍とエクィトゥム海軍が連合し、ガルディシアに駐留していたアイティクィランド海軍第六軍団艦隊の残存五隻も加わって、レクィエリア周辺の海域へ進出しました。帝国海軍はこれを迎撃しましたが、連合艦隊の進出を阻止できず、当該海域の制海権を失いました」
グナエウスは、今回の海戦の経緯を簡潔に説明した。帝国海軍が制海権を失ったという事実を取り繕うことも、責任を他の部門に転嫁することもなかった。海軍大将として、結果を正確に報告することに徹していた。
マギステルは、報告を聞き終えると、資料に目を落としたまま尋ねた。
「この結果が、現在準備している作戦に及ぼす影響を説明しろ」
「レクィエリア周辺の海域を利用する行動には制約が生じます。ただし、帝国海軍の全戦力を投入したわけではありません。温存している艦隊を含め、海軍全体の運用を見直す余地は残されています」
「制海権の喪失によって、温存している艦隊の運用に変更が必要となるか」
「現時点では、必ずしも変更する必要はないと考えます」
「分かった。海軍の現状を踏まえ、以後の運用計画を整えておけ」
「承知しました」
短いやり取りの間、マギステルの表情に変化はなかった。敗北の報告を受けても、その責任を声高に追及することはなく、反対に、報告を受け入れたからといって、グナエウスの判断を無条件に認めたわけでもない。必要な情報を確認し、次の指示を与える。それだけで、彼は海軍大将に求めるべき仕事を明確にしていた。
グナエウスも、それ以上の弁明はしなかった。今回の敗北について説明する機会は与えられていたが、マギステルが求めたのは敗北の責任をめぐる議論ではなく、その結果を踏まえた今後の運用だったからである。
「続いて、今回の会議の主題に移る。雷撃戦作戦は所期の成果を得られなかった。今後の戦局を考慮し、新たな作戦を実施する必要がある」
マギステルの声音は変わらず、淡々としていた。作戦の失敗を前にしても、それに対する不満や焦燥を口にすることはない。失敗した作戦の経緯をここで繰り返すのではなく、その結果を前提として次の方針を示すことに、彼の関心は向けられていた。
「作戦名は『内海の覇者』とする」
会議室にいた者たちの視線が、マギステルへと集まった。彼は、その反応を確かめるようにしばらく沈黙した後、改めて説明を続けた。
「これまで予備として温存していた帝国海軍を投入する。フレイトゥム内海を越え、カヴィーレスターン各地で上陸作戦を実施する。複数の地点に軍を展開し、カヴィーレスターンに降伏を迫ることが、この作戦の目的である」
その説明によって、出席者たちは新たな作戦の基本方針を把握した。これまで帝国海軍が温存されてきたのは、単に戦力を消耗させないためだけではない。海軍の戦力を必要とする局面に備え、次の作戦で活用する余地を残していたのである。
今回の作戦では、その海軍をフレイトゥム内海の向こう側へ進出させ、カヴィーレスターンの各地に上陸するための戦力として用いる。帝国海軍によって複数の地点に軍が送り込まれれば、カヴィーレスターンは国内各地で帝国軍への対応を迫られることになる。
「カヴィーレスターンが降伏した場合、第二次諸国連合の軍事的な基盤は大きく損なわれる。残る構成国が戦争を継続することは、現在よりも困難になると考えられる」
マギステルは、作戦の目的とその影響を区別しながら説明した。カヴィーレスターンを降伏させることは、単に一国を戦争から脱落させるというだけではない。第二次諸国連合が戦争を継続するための基盤そのものを弱体化させ、帝国に有利な状況を作り出すことにつながる。
「プブリウス大将。上陸後の陸軍運用について、現時点で想定される問題を報告しろ」
「複数の地点へ上陸する場合、それぞれの部隊の行動を調整する必要があります。陸上での作戦を円滑に進めるには、海軍の進出と陸軍の行動を連携させなければなりません」
「その点は参謀本部と調整しろ。陸軍として必要な準備を進め、作戦の実行に支障が生じる事項があれば報告すること」
「承知しました」
プブリウスは、命じられた内容を受け入れた。海軍の行動と陸軍の準備をどのように連携させるかは、作戦を実行するうえで欠かせない問題である。そのため、彼は陸軍の立場から必要な事項を整理し、参謀本部との調整を行うことになる。
続いて、マギステルはフラウィウスへ視線を向けた。
「フラウィウス大将。各部門の計画を調整し、作戦全体の整合性を確認しろ」
「複数の上陸地点での行動を調整するには、各部門の計画を統一する必要があります。現時点で提示されている方針に沿って調整を進めますが、部門間で調整が困難な事項については、判断を仰ぐことになるかと存じます」
「調整が必要な事項を整理し、報告しろ。最終的な判断は私が下す」
「承知しました」
フラウィウスは、マギステルの命令を受けて一礼した。参謀総長として各部門の計画を調整することは、彼の職務に含まれている。しかし、その調整によって作戦全体の方針を決定する権限まで与えられているわけではない。各部門の意見をまとめ、必要な情報を整理したうえで、最終的な判断をマギステルに委ねることになる。
次に、マギステルは兵站総監マルクスへ問いかけた。
「マルクス。作戦の実行に必要な兵站について、現状を報告しろ」
「複数の地点への上陸を想定する場合、各部隊に物資を供給するための準備が必要となります。海軍の行動と陸軍の進出に合わせ、それぞれの部隊が必要とする物資を確保する必要があります」
「必要量、現有量、不足分を区分し、補完するための手段を明らかにしろ。準備の進捗についても、随時報告すること」
「承知しました」
マルクスは、具体的な指示を受けて返答した。兵站の確保が作戦の成否に関わることは明らかであり、複数の地点に軍を展開する以上、必要な物資を把握しておくことは欠かせない。マギステルは、現状の報告だけでなく、足りないものをどのように補うのかまで明らかにするよう求めていた。
その指示に、余分な言葉はなかった。マルクスが直面する問題を理解したうえで、彼に必要な仕事を割り当てているのである。命令を受けた側には、結果を報告する責任が生じる。マギステルは、その責任の所在を曖昧にすることを認めていなかった。
「クィントゥス中将。諸国連合の動向について報告しろ」
情報総監の名が呼ばれると、クィントゥスは一歩前へ出た。
「連合側も、帝国の動きを警戒していると考えられます。こちらが大規模な作戦を準備している以上、敵が独自の作戦を計画している可能性は否定できません。ただし、現時点で具体的な計画を把握するには至っておりません」
「確認済みの情報と、分析による推測を分けて整理しろ。敵の計画について新たな情報を得た場合は、速やかに報告すること」
「承知しました」
クィントゥスは、現時点で把握できている事実と、そこから推測される可能性を区別して報告した。敵がどのような作戦を準備しているのか、確実な情報は得られていない。しかし、情報が不足していることと、敵が何も準備していないことは、まったく別の問題だった。
「敵が作戦を準備している可能性を前提に、監視を継続しろ。確証が得られていない事項については、その確度を明示すればよい」
「承知しました」
マギステルは、敵の動向を正確に把握できていないという報告を受けても、クィントゥスに説明を重ねるよう求めることはなかった。現状で得られる情報に限界があることを認め、そのうえで情報部門が果たすべき役割を明確にしたのである。
しかし、彼は単に報告を受け入れているだけではなかった。誰がどの情報を持ち、何を把握できていないのかを確認しながら、各部門が担うべき責任を定めていた。出席者たちは、自らの専門分野について説明することはできても、マギステルがどの情報をもとに最終的な判断を下すのかを、すべて知ることはできなかった。
それこそが、彼の指揮の特徴でもあった。情報を一か所に集め、各部門に必要な指示を与える一方で、すべての情報を全員に共有することはしない。誰に何を知らせるのかを決める権限を自らの手に置き、各部門の動きを統制する。彼はそれを、特別なこととして説明する必要すら感じていなかった。
「現時点では、帝国と第二次諸国連合の双方が、相手の作戦を警戒している。どちらが先に行動を開始するかによって、その後の戦局が変わる可能性がある」
マギステルは、手元の資料を閉じてから、会議室にいる者たちへ視線を向けた。
「内海の覇者の実行時期は、準備の進捗と敵の動向を踏まえて決定する。各部門は準備を進めろ。作戦開始に関する最終的な命令は、私が下す」
その指示に対し、異議を唱える者はいなかった。そもそも作戦の実行時期を決める権限は、会議に出席している各将軍や幹部には与えられていない。彼らに許されているのは、マギステルが定めた方針のもとで準備を進め、必要な情報を報告することだった。
「準備が整った時点で、各部門から報告を提出しろ。作戦開始の判断に必要な情報は、すべて私のもとへ集める」
「はっ」
出席者たちは一斉に返答した。
マギステルは、それを聞いてから会議の終了を告げた。出席者たちは各自の資料をまとめ、指示された内容を確認しながら退室していく。会議で示された方針は、すでに帝国軍全体に対する命令として扱われていた。各部門がそれぞれの判断で変更する余地はなく、必要な調整についても、最終的にはマギステルの決裁を経ることになる。
彼は、出席者たちが退室する様子を見届けた後、手元に残された資料へ視線を戻した。内海の覇者は、雷撃戦作戦に代わる新たな作戦であり、帝国が戦局を動かすために必要としている軍事行動だった。カヴィーレスターンを降伏させることができれば、第二次諸国連合はこれまでのように戦争を続けることが難しくなる。
一方で、帝国が作戦の準備を進めている間、敵が何もせずにいる保証はない。第二次諸国連合もまた、戦局を変えるために何らかの作戦を準備している可能性がある。帝国が先に動けば、敵に対応を迫ることができるが、先手を取られれば、こちらが敵の作戦に対処する立場へ回ることになる。
マギステルは、敵の動向について得られている情報と、各部門から提出される準備状況を照らし合わせながら、作戦の開始時期を判断することになる。現段階では、その時期を明らかにする必要はなかった。各部門が自らの役割を果たし、必要な情報を提出すれば、最終的な決定を下すのは彼自身だった。
帝国軍の方針は、すでに決定されていた。あとは、彼が作戦を開始すると判断した時点で、各部門がその命令に従って動くことになる。
そして、第二次諸国連合もまた、帝国の動きを警戒しながら、次の一手を準備しているはずだった。




