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氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 岸田減税
最終章 第二次ルイーナエ大戦
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第66話 後退指示

第二次総攻撃が始まってから、どれほどの時間が経ったのか、俺にはもう正確には分からなくなっていた。王宮司令部へ届く報告の数は時間が経つほど増え続け、伝令が一人入ってきたと思えば、その直後には別の場所から新しい報告が届くという有様で、各所の戦況を整理するだけでもかなりの労力を必要としていた。帝国軍が今回動員した兵力は十万人に及び、第一次総攻撃の七万人を上回る大軍がレクィエリアの城壁へ一斉に押し寄せている以上、それだけ戦場全体の変化も激しくなるのは当然なのだろうが、実際に報告を受け続けていると、その規模の大きさを改めて思い知らされる。


 破城槌については、こちらの攻撃によってすべて破壊することができたという報告が入っている。城門を直接破るための兵器を失わせたこと自体は大きいが、それによって帝国軍の攻撃が止まったわけではなかった。城壁のあらゆる場所へ梯子が掛けられ、そこから帝国兵が次々と上ってくる一方、攻城塔もまた複数の場所で城壁へ接続され、その内部から大量の兵士が城壁上へ流れ込んでいる。帝国軍は一つの場所で押し返されても別の場所へ兵を送り込むことができるだけの余力を持っており、こちらが一つの場所へ兵力を回せば回すほど、その分だけ別の場所が薄くなるという状況になっていた。


 それに加えて、もう一つの問題が次第に大きくなっている。


「城壁上からの報告です。敵の弓兵と弩兵による射撃が激しく、こちらの射手が十分に頭を出せない状況が続いています」


 報告した者の言葉を聞きながら、俺は地図へ視線を落とした。城壁上の状況を直接見ることはできないが、報告を聞く限り、帝国軍は単純に梯子や攻城塔を押し付けているだけではなく、こちらの射手を狙い撃つことで城壁上の遠距離攻撃そのものを抑え込もうとしているらしい。


「頭を出せないというのは、どういう状況だ?」


「城壁上から敵を確認しようとして胸壁から身を出したところを狙われています。特に顔を出した瞬間を狙っているらしく、頭部を撃ち抜かれた兵も出ているとのことです」


 俺はその説明を聞いてから、城壁の構造を思い浮かべた。レクィエリアの城壁は、兵士が平坦な場所へ並んで立つような造りではなく、外側へ突出した胸壁が一定の間隔で設けられ、その陰へ身を隠しながら敵を監視し、必要なときだけ切れ目から身を出して射撃できるようになっている。防御側にとっては身を隠す場所があること自体が大きな利点になるし、敵の攻撃を受けながらも一定の範囲を守るためには欠かせない構造なのだが、固定された城壁である以上、射手が射撃に使える場所もまた限られていた。


「……そうなると、こちらが射撃した位置そのものを敵に覚えられるな」


 俺がそう言うと、今回の状況を確認するために呼んでいた現場指揮官が頷いた。


「はい。射手がどこに隠れているかまでは確認できなくても、どの胸壁の切れ目から射撃が行われたのかは敵にも分かります。こちらが何度も同じ場所から射撃していれば、次に顔を出す瞬間を狙われる可能性は高くなります」


 それは厄介だった。こちらが守る側だからといって、必ずしも遠距離射撃で有利になれるわけではない。城壁は動かないし、胸壁も同じ場所にあるため、射手が隠れる場所は限られている。こちらの弓兵や弩兵が胸壁の陰から顔を出して射撃すれば、帝国軍からすればその位置を確認することができ、次に同じ場所から射手が現れるのを待てばいい。こちらが位置を変えようとして別の胸壁へ移動すれば、その間は射撃できないうえ、戦闘中に射撃位置を変えること自体が簡単ではない。


「こちらの射手が一度射撃した場所へ、敵が反撃を集中させるということか」


「そうなっています。敵も城壁へ近づきながら射撃位置を確認しているようで、同じ場所から何度も射撃することが難しくなっています」


 俺は再び地図へ目を落とした。敵の射撃位置をこちらが把握できないという話ではない。問題なのは、こちらの射手がどこから射撃するのかを、攻撃側である帝国軍の方が把握しやすいということだ。しかも帝国軍には兵力がある。こちらが一人の射手を別の場所へ移動させる間にも、向こうは別の兵士を射撃位置へ回せるし、こちらが一つの場所で射撃を控えたところで、敵の遠距離部隊そのものが大きく減るわけではない。


 むしろ、正面から遠距離射撃で削り合えば、こちらの方が先に苦しくなる可能性が高い。こちらが敵の弓兵や弩兵を一人倒す間にも、帝国軍は後ろから次の射手を送り込める。こちらの射手が一人減れば、その穴を埋めるために別の兵を回さなければならず、そうしているうちに城壁上の別の場所が薄くなっていく。


「敵の弓兵と弩兵を減らすために、こちらも射撃を集中させるのは難しいか?」


「難しいかと。もちろん、こちらからも射撃はしています。ただ、敵の遠距離部隊は数そのものが多く、こちらの射手も胸壁から身を出したところを狙われていますから、射撃戦そのもので優勢を取ろうとすれば、こちらの損耗が大きくなる可能性があります」


 答えを聞くまでもなかった。


 帝国軍の方が圧倒的に多い以上、遠距離部隊同士の消耗戦をこちらから選ぶのは危険だった。こちらには城壁という防御設備がある。それでも、射撃するために身を出すという一点だけを見れば、その行動が敵にとって狙いやすいものになることに変わりはない。


 だからこそ、帝国軍の弓兵や弩兵を完全に減らすことよりも、どうすれば今の状態で城壁を守れるのかを考える必要があった。


「では、梯子への対応はどうしている?」


「歩兵を回しています」


「弓兵や弩兵では?」


「本来なら、梯子を上っている兵士は非常に狙いやすい目標です。梯子を使っている以上、進む方向はほぼ一直線になりますし、地上を走っている兵士より速度も落ちます。盾を持っていたとしても、梯子を上る間は一方向へ構えるしかありませんから、身体のすべてを隠すことはできません」


 俺はその説明を聞きながら、実際の状況を頭の中で組み立てた。確かに、梯子を上る帝国兵は、本来なら弓兵や弩兵にとって格好の標的だ。進む方向は決まっており、横へ逃げることもできない。しかも梯子を登ることで速度が落ち、盾も自由には動かせなくなる。射手が安全に射撃できるのであれば、梯子を上る兵士をかなりの数、城壁へ到達する前に削ることもできるはずだった。


「なら、その兵士たちを射手に狙わせればいい」


「それができないのです」


 返ってきた答えは早かった。


「敵の弓兵や弩兵が、こちらの射手を狙っています。こちらが梯子を上る兵士へ狙いをつけるために胸壁から顔を出せば、その瞬間を敵に狙われるので、梯子への射撃に集中できません。敵の遠距離部隊を抑え込めていない以上、射手に梯子だけを任せるわけにはいかないのです」


 結局、そこへ戻ってくる。


 梯子を上る兵士は狙いやすい。


 だが、そのために顔を出せば、こちらの射手が狙われる。


 敵の射手を倒そうとしても、帝国軍の数が多すぎる。


 だから、こちらは歩兵を回すしかない。


「梯子にも歩兵を回すしかないということか」


「現状では、その通りです」


 その言葉を聞いて、俺は地図上の城壁を見つめた。


 梯子が掛けられている場所には歩兵が必要だ。


 攻城塔が接続した場所にも歩兵が必要だ。


 城壁へ乗り込んできた帝国兵を押し返すためにも歩兵が必要になる。


 さらに敵の弓兵や弩兵を警戒しながら戦わなければならない。


 それだけなら、まだ何とかできるかもしれない。


 だが、そこへ負傷兵の問題まで重なっていた。


 扉が開き、一人の文官が慌ただしく入ってくる。負傷兵の搬送を担当している者らしく、かなり急いで来たのか、呼吸を整えながらもすぐに報告を始めた。


「ご報告があります。負傷兵の搬送が、さらに滞っています。城壁上の戦闘が激しすぎて、第二防壁内部へ運び込むための経路が確保できなくなっている場所が増えています」


「第二防壁まで運べないというのか?」


「はい。これまでは城壁上で簡単な処置をしたあと、数人で負傷者を担いで第二防壁内部へ下げることができました。しかし現在は、そのために通る場所そのものが戦場になっています。負傷者を運んでいる途中で帝国兵と接触する可能性もありますし、搬送している者まで敵の射撃に晒されています」


 俺は眉を寄せた。


 これまで俺たちは、負傷した兵を城壁上から第二防壁内部へ下げる体制を取っていた。城壁上は戦闘が激しい以上、そこに負傷者を置き続けるわけにはいかないし、可能な限り後方へ運べば、戦う兵と治療を受ける兵を分けることができる。


 しかし、今は城壁そのものが戦場になっている。


 帝国兵が梯子を上り、攻城塔からも次々と入り込んでくる。その中を負傷兵を担いで通り抜けるのは、以前と同じようにはできない。しかも、その搬送に兵を割けば、その兵は城壁で戦うことができなくなる。負傷者を運ぶために兵を減らし、その結果として新たな負傷者を増やすことになれば、さらに悪循環が進んでしまう。


「城壁上での治療に切り替えることは?」


「それも難しいかと。敵の遠距離射撃が激しく、胸壁から少しでも身を出しただけで狙われます。確認のために頭を出した兵士が、頭部を撃ち抜かれる例も増えていますから、城壁上で治療をする側も安全な場所を確保できません」


 俺は再び城壁を思い浮かべた。


 胸壁の陰に隠れる。


 必要なときだけ顔を出す。


 しかし、その顔を出す場所は敵にも分かる。


 まして、治療のために身をかがめたり、負傷者を運んだりする者は、戦闘中の兵士よりも動きが制限される。敵から見れば、狙いやすい標的になってしまうだろう。


「現場ではどうしている?」


「歩ける者は、自力で第二防壁側へ下げています。歩けない者については、できる限り城壁上で応急処置をしていますが、それにも限界があります」


「重傷者は?」


 文官はすぐには答えず、少しだけ視線を落とした。


「人手が足りません」


 それだけで十分だった。


 負傷兵を運ぶための人手がない。


 治療する場所も確保しにくい。


 それでも敵の攻撃は止まらない。


 俺は地図上の兵力配置を確認した。


 ここまでに報告された負傷兵の数がどの程度なのかを完全に把握できているわけではないが、少なくとも前線から届く話だけを聞いても、余裕がある状況ではないことは明らかだった。


 そのとき、さらに別の報告が入る。


「東側の城壁から報告です。帝国軍がさらに攻城塔から兵士を送り込んでいます。現在、歩兵が対応していますが、損害が増えており、追加の兵力を求めています」


「予備は?」


「すでに他の場所へ回しています」


 俺は地図の東側へ目を向けた。


 予備兵力まで使い始めている。


 まだ戦線は崩れていない。


 だが、崩れていないだけで余裕があるわけではない。


 敵の遠距離部隊を抑えられず、そのため梯子への対応に歩兵を回し、攻城塔から流れ込んでくる帝国兵にも歩兵を回し、負傷兵が出れば後送のために人手が必要になる。それでも帝国軍は十万人という兵力を背景に、別の場所から次々と兵を送り込むことができる。


 戦線を維持するために必要なものが多すぎる。


 そして、こちらが持っている兵力には限りがある。


「このままだと、歩兵が持たないな」


 俺がそう呟くと、近くにいたティアが俺の方を見る。


「まだ戦線は崩れていないわ」


「ああ。だからこそ、今のうちに考えなければならない」


 俺はそう答えたが、頭の中では既に一つの可能性が浮かび始めていた。


 このまま第一防壁に固執していれば、いずれ兵が足りなくなる。


 今ならまだ、第一防壁を守っている部隊をある程度まとめて後ろへ下げる余地がある。だが、城壁上のあちこちで帝国軍が橋頭堡を確保し始め、負傷兵の後送すらできなくなれば、後退することそのものが難しくなるだろう。


 そこへアトラシート伯爵が口を開いた。


「陛下」


「何だ?」


「第二防壁への後退を、そろそろ準備すべきではないでしょうか」


 俺は伯爵へ視線を向けた。


「まだ第一防壁は維持できている」


「はい。しかし、それは兵力を各所から回して、何とか維持している状態です。帝国軍はすでに複数の場所から城壁へ進入しており、梯子への対応にも歩兵を回さなければならず、攻城塔から入り込んだ兵にも別の歩兵が必要です。そのうえ、負傷兵の後送まで滞り、予備兵力も減っています。この状態でさらに攻撃が続けば、第一防壁を維持するために必要な兵を確保できなくなる可能性があります」


 俺は反論できなかった。


 伯爵の言っていることは、俺自身が地図を見ながら考えていたこととほとんど同じだった。


 今すぐ放棄する必要があるとは思わない。


 しかし、限界まで粘るという選択も危険だった。


 第一防壁上で戦っている兵士たちを守るためには、後退の準備を早めに始める必要がある。


 準備せずに第一防壁が崩れれば、退くべき部隊まで帝国軍に巻き込まれてしまう。


 俺は地図へ目を落とし、敵の攻城塔、梯子、こちらの歩兵、第二防壁の位置を順番に確認した。


 そして、しばらく考えた末に口を開いた。


「……分かった。これ以上、第一防壁を無理に維持するのは難しいと判断する。第二防壁への後退準備を始めろ」


 アトラシート伯爵が頷く。


「承知しました」


「ただし、まだ総退却ではない。第一防壁を守っている部隊を一斉に下げれば、帝国軍に追撃される。それぞれの持ち場を維持しながら、負傷兵を優先して後方へ移し、後退に備えて第二防壁側の受け入れ準備を進めさせろ」


「かしこまりました」


 指示が伝えられていく。


 俺はその様子を見ながら、再び城壁の方角へ目を向けた。


 第一防壁はまだ落ちていない。


 城壁上の兵士たちは、今も戦っている。


 だからこそ、今ここで完全に後退するという判断ではない。


 ただ、このまま帝国軍の攻撃を受け続ければ、いずれ第一防壁を維持するための兵力そのものがなくなる。そうなってから下がれば、第二防壁へ移る途中で隊列が崩れ、負傷兵を置き去りにし、戦える兵まで失う可能性がある。


 それだけは避けなければならない。


 俺はもう一度だけ地図へ目を落とした。


 そして、その頃にはすでに、第二防壁への後退準備を始めるための命令が各所へ向けて出されていた。


               *


 同じ頃、帝国軍レクィエリア攻城司令部では、今回のレクィエリア攻城戦を担っているティベリウス・デイ・クラウディウス陸軍大将が、一通の書状へ目を通していた。


 そのすぐ傍には、副総司令官クィントゥス・デイ・アエミリウス陸軍中将が立っている。さらに周囲には複数の陸軍中将が並び、各師団を率いる多数の少将と、大佐、中佐、少佐を中心とする佐官級将校たちも控えていた。第二次総攻撃の最中である以上、司令部には前線からひっきりなしに報告が届いており、各師団の進行状況や攻城兵器の損害、兵員の損耗などについて次々と確認が行われている。


 その中でティベリウスが手にしている書状は、他の報告書とは少し違っていた。


 敵側から届けられたものだった。


 しかも、通常の伝令を通して渡されたものではない。


 一発の矢に結ばれた書状として届けられたものだった。


 ティベリウスは周囲の視線を気にする様子もなく、その書状を開いて内容へ目を通していく。クィントゥスを含め、周囲の将校たちはその様子を見守っていたが、もちろん書状に何が書かれているのかまでは知ることができない。


 ティベリウスは最後まで内容を読み終えると、しばらく書状から目を離さなかった。


 それから、静かに顔を上げる。


「二日後、レクィエリア城門付近に二個師団を配置する」


 その命令に、何人かの将校が顔を見合わせた。


「二個師団を、城門付近へですか?」


 近くにいた少将が確認するように尋ねる。


「そうだ」


 ティベリウスはそれだけ答えた。


 将校たちは黙って考えた。


 二個師団という兵力は大きい。


 城門が重要な場所であることに異論はないが、今の攻城戦を見れば、その配置には少し不自然なところがある。


 現在、帝国軍は破城槌をすべて失っている。


 レクィエリアの城門を直接破るのであれば、当然ながら何らかの城門攻撃用の準備が必要になる。しかし、前線から届いている報告には、破城槌を新たに建造しているという動きはなかった。


「城門への攻撃を想定しているのでしょうか?」


 別の陸軍中将が尋ねる。


「必要になれば使う」


 ティベリウスはそう答えた。


 だが、その返事は将校たちの疑問を解消するものではなかった。


 破城槌を建造する動きはない。


 それにもかかわらず、二日後という具体的な期限を指定し、二個師団を城門付近へ配置する。


 現状だけを見れば、そこへこれほどの兵力を集中させる理由が分からない。


「しかし、現状では城門を攻撃するための準備が進んでいるとは聞いておりませんが」


 大佐の一人が慎重に口を挟む。


「その必要はない」


 ティベリウスが答える。


 それ以上の説明はなかった。


 だからこそ、将校たちは考える。


 なぜ、破城槌も建造していないのに、二個師団を城門へ置くのか。


 今の帝国軍の攻勢は、城壁上へ兵を送り込むことが中心になっている。梯子や攻城塔によって複数の場所へ同時に攻撃を仕掛けている以上、兵力を一か所へ集中させるよりも、そのまま攻勢を維持した方が自然にも思える。


 それでもティベリウスは、城門付近へ二個師団を置くよう命じた。


 何か別の理由があるのだろう。


 そして、ティベリウスが先ほど読んでいた書状が、その命令と無関係だとは考えにくい。


 将校たちの間には、そんな考えが少しずつ広がっていった。


 誰かがそれを口にすることはなかったが、胸の内で同じ可能性に思い至った者は少なくなかった。


 ――もしや。


 しかし、その先を尋ねる者はいない。


 ティベリウスが説明する気がない以上、今ここで推測を口にしても意味がないからだ。


「二日後までに配置を終えろ」


「はっ」


 その命令に、将校たちは一斉に返答した。


 それから会議は次の議題へ移り、各方面の報告や今後の配置についての確認が続いたが、先ほどの二個師団の配置について明確な説明が加えられることはなかった。


 やがて会議が終わると、周囲にいた将校たちはそれぞれ席を離れ、司令部を後にしていく。複数の陸軍中将も、各師団を率いる少将たちも、大佐や中佐、少佐を中心とする佐官級の将校たちも、それぞれ命じられた準備へ向かっていった。


 誰も、ティベリウスが何を知っているのかを尋ねなかった。


 ただ、破城槌を建造する動きすらないこの段階で、二日後に二個師団をレクィエリア城門付近へ配置するという命令だけは、各人の胸に残っていた。


 最後に司令部へ残ったティベリウスは、手元の書状へもう一度視線を落とした。内容を誰かへ説明することはせず、そのまま書状を折りたたんで手元へ置くと、何事もなかったかのように次の報告へ目を向けた。

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