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氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 岸田減税
最終章 第二次ルイーナエ大戦
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第16話 ユーザの帰還

 ある日、王都から一つの知らせが届いた。


 長く国外で学んでいた貴族家の三男が、祖国へ帰還するという。


 エクウス伯爵家三男、ユーザ・デイ・エクウス。


 ユーザも十八歳だった。


 ただし、コリウスやルリウスとは違い、王立士官学校で三年間を過ごしたわけではない。


 彼が歩んだのは、別の教育課程だった。


 まずエクィトゥム王立貴族学園へ進学し、そこで貴族として必要な教養、政治、歴史、外交などを学んだ。そして同学園を卒業した後、エクィトゥム王国北部オスティエール公爵領へ向かい、そこにあるオスティエール領立騎士学園へ入学した。


 オスティエール領立騎士学園では、騎士としての戦闘技術だけではなく、馬術、武器運用、騎士団の規律、領地軍の指揮、部隊運用など、より実戦に近い教育を受ける。


 ユーザはそこで学び続け、十八歳になった今年、ついに卒業した。


 長い留学生活を終え、ようやくアンティクイランド王国へ戻ってきたのである。


 王都レクィエリア。


 ユーザを乗せた馬車が王宮の門をくぐった。


 伯爵家の紋章が掲げられ、その帰国が王宮へ報告される。


「ユーザが帰国したのか」


 俺は報告を聞いて、思わず表情を緩めた。


 長い間、国外にいた人物が無事に戻ってきた。


 それだけで、私は嬉しく思っていた。


「ご存じの方なの?」


 ティアが尋ねる。


「ああ。以前から名前は知っている。エクィトゥム王立貴族学園を卒業した後、オスティエール公爵領の騎士学園へ進まれたと聞いていた」


「長い留学だったんですね」


「そうだな。十八歳になって、ようやく卒業されたらしい」


 しばらくして、王宮の客間へユーザが通された。


 扉が開き、十八歳になった青年が入ってくる。以前より身体つきはしっかりしており、騎士学園で鍛えられたことが分かる。しかし、動きや姿勢には貴族としての教育を受けた者らしい落ち着きもあった。


 ユーザは俺の前まで進むと、静かに一礼した。


「ご無沙汰しております、レノウィウス王太子殿下。エクウス伯爵家三男、ユーザ・デイ・エクウスにございます。無事帰国いたしましたので、ご挨拶に参りました」


「お帰りなさい、ユーザ卿。無事に帰国されたことを、私は嬉しく思います」


「ありがとうございます、殿下」


 ユーザは頭を下げた。


「長い留学となりましたが、ようやく祖国へ戻ってくることができました」


「エクィトゥムでは、さぞ多くのことを学ばれたのでしょうね」


「はい。王立貴族学園での教育も大変有意義でしたが、その後に進んだオスティエール領立騎士学園では、さらに実戦的な教育を受けることができました」


「騎士学園では、どのようなことを学ばれたのですか?」


「騎士としての戦闘技術だけではありません。馬術、武器運用、騎士団の規律に加え、領地軍の指揮や部隊運用についても学びました。特に、個人の技量だけではなく、部隊全体をどう動かすかという教育には力が入っておりました」


「なるほど。王立士官学校とは、かなり違うのでしょうね」


「はい、殿下。王立士官学校が国家全体を意識した教育であるのに対し、オスティエール領立騎士学園は、領地や騎士団の現場に近い教育が中心でした」


「それなら、双方を知っていることは大きな強みになりそうです」


「ありがとうございます。私自身も、これまで学んだことを祖国で生かせればと考えております」


 俺は頷いた。


「帰国後の進路については、もうお決めになっていますか?」


「まだ正式には決めておりません。まずは父のもとへ戻り、伯爵家の仕事を学ぶつもりです。その上で、騎士として王国軍へ奉職する道についても、父と相談しながら考えたいと思っております」


「それがよいでしょう」


 俺は答える。


「国外で学ばれた経験を、まずは祖国でどのように生かせるのかを見てから決めればいい。私は、ユーザ卿が無事に帰国されたことを嬉しく思っていますし、これからどのような道へ進まれるのかも楽しみにしています」


「ありがとうございます、殿下。ご期待に添えるよう、これから努めてまいります」


 ユーザは深く一礼した。


 十八歳。


 コリウスやルリウスと同じ年齢だ。


 ただ、受けてきた教育は違う。


 コリウスとルリウスは王立士官学校で国家全体を意識した教育を受け、ユーザはエクィトゥムで貴族教育と領立騎士学園の実戦的な教育を受けてきた。


 これから三人がどのような道を歩むのかは、それぞれの立場によって違う。


 それでも、十八歳になった今、それぞれが自分の人生を自分で決め始める時期へ入っていた。


 数日後。


 領地へ戻ったコリウスとルリウスのもとにも、王都からユーザ帰国の知らせが届いた。


「ユーザが戻ったのですね」


 コリウスが手紙へ目を通す。


「エクィトゥム王立貴族学園を卒業した後、オスティエール領立騎士学園へ進まれたと聞いていましたが、もう十八歳ですか」


 ルリウスが答える。


「私たちと同じ年齢になりましたね」


「そうですね」


 コリウスが頷く。


「私たちが王立士官学校を卒業した頃にも、まだ向こうで学んでいたわけですから、長い留学だったのでしょう」


「騎士学園を卒業されたのであれば、軍務へ進まれる可能性もありそうですね」


「はい。ただ、三男ですから、家督を継ぐ立場ではありません。王国軍へ入られるのか、別の家へ仕えるのか、それとも他の道を選ばれるのかは、これからでしょうね」


「いずれにしても、帰国された以上、祖国で新しい仕事を始めることになります」


 コリウスはそう言って、自分の机へ視線を戻した。


 ユーザが帰った。


 それでも、二人の仕事は待ってくれない。


 領地では、今日も新しい問題が生まれている。


 数週間後。


 コリウスとルリウスは、それぞれの父親から少しずつ仕事を任される範囲を広げてもらっていた。


 コリウスは農村の税負担について意見を出し、戦争によって働き手を失った地域への減税や農具支援について父親へ提案する。一時的に税収は減るかもしれない。しかし農村を維持できなければ、数年後にはさらに大きな税収減につながる。


 ルリウスは街道修繕について予算案をまとめ、必要な費用と予想される交易量の回復、それによって見込まれる税収まで計算した。単純に支出を削るのではなく、将来の収入を生み出すための支出として判断する。


 どちらも、まだ父親が最終決定を下している。


 それでも、自分たちの考えを実際の政策として提出できるようになっていた。


 コリウスから王都へ届いた報告書には、現場を歩いた者らしい率直な言葉が並んでいた。


『戦争が終わったからといって、領地の問題まで終わったわけではありません。人が減れば畑を維持できず、畑が維持できなければ税も減ります。今だけを見るのではなく、来年、その先まで考えて判断する必要があると思います』


 俺はその報告を読んで、少しだけ笑った。


 コリウスは豪快な性格だ。


 だが、王太子である俺に対して礼を崩すことはない。自分の目で現場を見て、分からないことは確かめ、その上で必要なことを率直に報告してくる。


 一方、ルリウスの報告には数字が多い。


 街道修繕費。


 商人の数。


 市場の取引量。


 予想される税収回復時期。


 コリウスとは違う方法で、同じ領地の未来を考えている。


 そして王都では、エドがエドリアン公爵として行政の実務を学んでいる。


 リアはへーロース商会の代理として商工組合連合会の設立議論へ参加している。


 ティアは王太子妃として政策活動を続けている。


 ユーザは十八歳で帰国し、エクィトゥムで学んだ騎士教育をもとに、自分がどのような道へ進むのかを考え始めている。


 十八歳。


 コリウスも。


 ルリウスも。


 ユーザも。


 それぞれ違う場所で学んだ三人が、それぞれ違う経験を持って祖国で新しい人生を始めようとしていた。


 士官学校。


 王立貴族学園。


 領立騎士学園。


 学んだ場所は違う。


 これから担う役割も違う。


 それでも、国を支えるという意味では同じだった。


 コリウスとルリウスには領地がある。


 リアには商業がある。


 エドには行政がある。


 ユーザには騎士として学んだ軍事の知識がある。


 そして俺には、王太子として、それらを繋ぐ役割がある。


 戦争が終わった後の国づくりは、こうして少しずつ、それぞれの場所で始まっていた。

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