第34話 ヴェルゼバンセス上陸作戦3
ヴェルゼバンセス港。
上陸を開始したエクィトゥム軍は、早くも激しい抵抗に直面していた。
港の奥に築かれた高台。
そのさらに先にある崖と城壁。
そして、その上に展開するシルウァニア弓兵。
彼らは高所から港を見下ろし、上陸してくるエクィトゥム兵を狙っていた。
「放て!」
シルウァニア指揮官の号令とともに、城壁から矢が一斉に放たれる。
矢は上陸したエクィトゥム兵へ向かって飛んでいく。
「盾を上げろ!」
「前へ進め!」
「隊列を崩すな!」
エクィトゥム歩兵は盾を掲げながら前進しようとする。
だが、港には兵士たちが身を隠せるような場所がほとんどなかった。
砂浜を埋め立てるように造られた広い港湾区域。
そこには自然の遮蔽物も、十分な数の建物もない。
上陸した兵士たちは、ほとんど何も隠れるものがない場所で、城壁と高台から見下ろされている。
シルウァニア軍にとって、これほど狙いやすい状況はなかった。
特に危険だったのが、弓兵と弩兵だった。
彼らは歩兵と違い、盾を持っていない者が多い。
遠距離から射撃するため、素早く動く必要があり、盾を構えたままでは本来の能力を発揮しにくいからだ。
「弓兵、前へ!」
「弩兵も射撃位置へ!」
ようやく上陸したエクィトゥム側の弓兵と弩兵が前へ出る。
しかし――。
「敵弓兵、こちらを狙っています!」
シルウァニア弓兵の矢が、次々と飛んでくる。
上陸したばかりの弓兵たちは、身を隠す場所がない。
盾を持っていない者は、そのまま立っているしかない。
弓を構えようとした兵士が倒れる。
その隣で弩を構えていた兵士も倒れる。
「射撃を開始しろ!」
「急げ!」
残った兵士たちは慌てて弓や弩を構える。
だが、シルウァニア弓兵の方が早い。
彼らは長年の狩猟によって培われた弓術を持っている。
狙いは正確だった。
そして、一度狙いを定めれば、次々と矢を放つ。
「弓兵がやられています!」
「弩兵もです!」
エクィトゥム側の指揮官が叫ぶ。
だが、どうすることもできない。
歩兵は盾を持っている。
それでも、その盾の隙間を狙われている。
弓兵と弩兵には、その盾すらない。
港には遮蔽物もない。
シルウァニア弓兵から見れば、上陸した遠距離兵は格好の標的だった。
一人。
また一人。
射撃を開始する前に倒れていく。
せっかく上陸させた弓兵と弩兵が、次々と無力化されていく。
エクィトゥム軍も黙ってはいなかった。
後方の艦艇から弓兵、弩兵、バリスタ、ファイアバリスタによる援護射撃が続けられている。
「撃て!」
船上から大量の矢が放たれる。
弩兵も続く。
バリスタの巨大な投射物が飛び、ファイアバリスタからも炎をまとった投射物が放たれる。
しかし――。
「……当たらない?」
副官が呟いた。
船は海上で揺れている。
そして射撃線の先には、味方の上陸部隊がいる。
港へ次々と兵士が降りているため、敵を狙おうとすれば味方が射線に入り込む。
「味方に当てるな!」
「射撃を慎重に!」
船上の指揮官たちが叫ぶ。
その結果、エクィトゥム側の援護射撃は十分な効果を発揮できない。
撃てば敵に当たるとは限らない。
むしろ、味方の位置を考えながら撃たなければならない。
その間にも、シルウァニア弓兵は射撃を続ける。
「前へ進め!」
「高台へ向かえ!」
エクィトゥム歩兵が前進する。
だが、港から高台へ向かう途中にはシルウァニア歩兵が待ち構えていた。
彼らは上陸したエクィトゥム兵の進路を塞ぎ、前進を遅らせている。
歩兵が足止めされる。
その上から弓矢が降ってくる。
前へ進めない。
だが、止まっていれば射られる。
後方からは新たな兵士が次々と上陸してくる。
「隊列を整えろ!」
「盾を前へ!」
「押し込め!」
指揮官たちが叫び続ける。
しかし、港という広い空間に上陸した兵士たちは、まだ一つの軍としてまとまっていなかった。
それぞれの船から降りた兵士が集まり、部隊を再編しようとしている。
そこへ、シルウァニア弓兵の射撃が続く。
特に悲惨だったのは、上陸したばかりの弓兵と弩兵だった。
彼らは何とか射撃体勢を整えようとする。
しかし、身を守る盾を持っていない。
遮蔽物もない。
敵からは丸見えだ。
そして、目の前には狩猟で鍛えられたシルウァニア弓兵がいる。
「敵弓兵、こちらを狙っています!」
「撃て!」
エクィトゥム兵が弓を引く。
しかし、放つ直前に矢が飛んでくる。
一人が倒れる。
別の弩兵が弩を構える。
そこへまた矢が飛ぶ。
さらに一人が倒れる。
「射撃を続けろ!」
「敵の弓兵を狙え!」
それでも、シルウァニア軍は止まらない。
エクィトゥム側の遠距離兵が一人減るたび、残った兵士への負担が増える。
援護射撃を行う艦艇は、味方の位置が邪魔になって思うように撃てない。
上陸した弓兵と弩兵は、遮蔽物がないため敵弓兵から優先的に狙われる。
そして歩兵は、シルウァニア歩兵によって足止めされている。
圧倒的な兵力を持ちながら、その兵力を十分に戦場へ投入できない。
それが、ヴェルゼバンセス上陸戦だった。
六万人。
数字だけなら、五千人を大きく上回る。
しかし、戦場そのものがその数字を意味のないものへ変えていた。
新フェルゼンハルト公爵は、旗艦から戦場を見つめる。
「……上陸とは、これほど難しいものなのか」
彼はそこで初めて、強襲上陸という作戦の恐ろしさを実感していた。
海戦には勝った。
制海権も握った。
兵力も圧倒している。
それでも、港の奥へ進めない。
その先には高台がある。
高台のさらに先には崖と城壁がある。
そして、その全てをシルウァニア兵が守っている。
ヴェルゼバンセスを奪うための戦いは厳しいものになった。




