↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 佐藤湊
第5章 シルウァニア戦争
PR
265/357

第6話 第一段階完了

 シルウァニア戦争が開戦した初日。


 エクィトゥム王国軍北西部方面軍五万人は、ヴロントリア辺境伯領に隣接する国境地帯からシルウァニア王国の防衛城壁へ攻撃を開始した。


 最初に動いたのは、後方へ配置されていた攻城兵器だった。


 改良型ファイアカタパルトが一斉に射撃を開始する。


 巨大な投射物が放たれ、山々に囲まれた渓谷へ轟音が響き渡った。続いて弓兵と弩兵が一斉に射撃を開始し、城壁上のシルウァニア王国兵へ矢と弩矢を浴びせる。


 城壁からも反撃が始まった。


 シルウァニア王国軍の弓兵が矢を放ち、投射兵器による攻撃も次々と飛んでくる。


 しかし、エクィトゥム王国軍は攻撃を止めない。


 ファイアカタパルトが城壁を狙い続け、その間を縫うように弓兵と弩兵が射撃を続ける。


「前進!」


 地上部隊の指揮官が叫んだ。


 その声に合わせて、歩兵たちが動き始める。


 先頭には大型の盾を持つ兵士たち。


 その後ろには破城槌を運ぶ部隊。


 さらに攻城塔を押す兵士たち、梯子を担いだ兵士たちが続く。


 城壁を正面から突破するための部隊が、少しずつ敵へ近づいていく。


 当然、シルウァニア軍もそれを黙って見てはいない。


 城壁上から次々と矢が放たれる。


 地上へ向かって投射物が落とされる。


 歩兵たちは盾を掲げながら前進し、攻城部隊はそれぞれの装備を守りながら距離を詰めていく。


 五万人の軍が一斉に動けば、その全てを完全に連携させることはできない。


 それでも、事前に定められた役割に従って各部隊が動いていた。


 遠距離攻撃部隊が城壁上を抑える。


 工兵と攻城部隊が突破口へ向かう。


 歩兵がその後ろを進む。


 騎兵は左右へ展開し、城門付近から出撃してくる敵部隊への警戒にあたる。


 攻撃は、単純な突撃ではなかった。


 各部隊がそれぞれの役割を果たしながら、少しずつ城壁へ迫っていく。


 最初に城壁へ到達したのは、破城槌を運ぶ部隊だった。


 巨大な破城槌が城門へ近づく。


「押せ!」


 兵士たちが力を合わせる。


 破城槌が城門へ叩きつけられる。


 一度。


 二度。


 三度。


 そのたびに鈍い音が響く。


 だが、城門は簡単には壊れない。


 城壁上からの攻撃も続いている。


 周囲では、梯子を立てかけようとする兵士たちも動いていた。


 その後方では攻城塔がゆっくりと前進する。


 攻城塔が城壁へ近づくにつれ、兵士たちがその内部で武器を構える。


 そして、城壁上ではシルウァニア王国兵が必死に防衛していた。


 山岳国家として長年守り続けてきた城壁。


 そこを守る兵士たちも、自分たちの国境を越えさせまいと戦っている。


 しかし、エクィトゥム王国軍は兵力を絶え間なく投入してくる。


 一つの部隊が押し返されれば、別の部隊が前へ出る。


 城壁上の敵が一箇所へ集中すれば、別の地点で攻撃が強まる。


 ファイアカタパルトも射撃を続けている。


 やがて、城壁の一部に明確な損傷が生じ始めた。


「崩れ始めています!」


 攻城部隊の指揮官へ報告が入る。


「さらに撃て!」


 後方から再び命令が飛ぶ。


 ファイアカタパルトが射撃を続ける。


 弓兵と弩兵も休むことなく射撃する。


 そして、地上部隊が再び前進した。


 夕方。


 初日の戦闘はまだ終わっていなかった。


 城壁上では激しい戦闘が続いている。


 攻城塔の一部が城壁へ接触し、そこから歩兵が乗り移る。


「上がれ!」


 兵士たちが城壁上へ殺到する。


 シルウァニア軍も押し返そうとする。


 狭い城壁上で両軍が衝突し、各所で激しい戦闘が続いた。


 一方、城門では破城槌による攻撃が続いていた。


 まだ完全に破壊されてはいない。


 しかし、最初の損傷が少しずつ広がっている。


 夜になると、両軍は一度距離を取った。


 エクィトゥム王国軍は攻撃を完全に止めることなく、夜間も警戒を続ける。


 負傷した兵士は後方へ運ばれ、軍医たちが治療を行う。


 戦況を確認するため、各部隊の指揮官たちが報告をまとめていた。


 その報告を受けたエクィトゥム軍司令部では、翌日の作戦が決められていく。


「明日も同じように攻撃を続ける」


 司令官が地図を指す。


「城壁上への攻撃と城門への攻撃を継続する。攻城塔と梯子をさらに投入し、城壁を制圧する」


 別の士官が報告する。


「ファイアカタパルトは射撃可能な状態を維持しています」


「弓兵と弩兵も朝から再開可能です」


「ならば明朝、再攻撃だ」


 二日目。


 朝日が昇ると同時に、エクィトゥム王国軍は再び動き始めた。


 初日の戦闘で城壁の各所に損傷が生じている。


 それでもシルウァニア軍は防衛を続けていた。


 ファイアカタパルトが再び火を噴く。


 弓兵と弩兵が一斉に射撃を開始する。


 そして、歩兵が前へ進んだ。


 破城槌。


 攻城塔。


 梯子。


 それぞれが再び城壁へ向かう。


 シルウァニア軍も必死に防御する。


 だが、二日目の攻撃は初日以上に激しかった。


 エクィトゥム王国軍は、昨日の戦闘で得た情報をもとに攻撃地点を修正している。


 防御の薄い場所。


 城壁上の部隊が少ない場所。


 城門周辺。


 複数の地点へ攻撃を集中させる。


 やがて、一つの攻城塔が城壁へ接触した。


「今だ!」


 中から兵士たちが飛び出す。


 同時に、別の地点では梯子が城壁へ掛けられた。


 兵士たちが次々と登っていく。


 さらに、城門では破城槌が最後の攻撃を加えていた。


「もう一度!」


 破城槌が叩きつけられる。


 城門が大きく揺れた。


 そして――。


 大きな音を立てて、城門の一部が崩れた。


「開いた!」


 兵士の声が響く。


「突入!」


 歩兵部隊が一斉に城門へ向かう。


 同時に、城壁上でもエクィトゥム王国軍の兵士が次々と戦線を広げていく。


 城壁の一部が制圧された。


 その瞬間、城塞内部への侵入路が開いた。


 城門から歩兵が流れ込む。


 左右からも城壁上を制圧した兵士たちが内部へ進む。


 シルウァニア軍は城塞内部で防衛線を作ろうとしたが、すでに複数方向から攻め込まれている。


 エクィトゥム王国軍は前進を続けた。


 やがて、城塞の中心部にエクィトゥム王国軍の旗が掲げられる。


 シルウァニア王国軍の旗が降ろされた。


「敵軍、後退しています!」


「城塞内部の制圧を続けろ!」


 各部隊が命令に従って動く。


 そして、昼を過ぎた頃。


「敵部隊の組織的抵抗、確認できません!」


 報告が司令部へ入った。


 その言葉を聞き、指揮官が地図へ目を落とした。


「……落ちたか」


 シルウァニア王国が長年誇ってきた北部の防衛城塞。


 それが、開戦からわずか二日で陥落した。


 戦闘が終わった後、エクィトゥム王国軍は城塞内部の確保と負傷者の収容を進めた。


 今回の攻城戦で、エクィトゥム王国軍は六千人が負傷。


 二千人が戦死した。


 五万人の部隊に対し、決して小さな損害ではない。


 しかし、五万人を投入した第一段階の目的は達成された。


 シルウァニア王国北部の巨大防衛城塞は陥落した。


 渓谷を塞いでいた最大の障害が取り除かれたことで、エクィトゥム王国軍はシルウァニア王国内部へ大規模に進出できる状態になった。


 そして、その後方にはまだ二十万人の兵力が待機している。


 第一段階は終わった。


 だが、『竜の祝福』はここから先が本番だった。


 エクィトゥム王国軍は、次なる段階へ移ろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。