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氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 佐藤湊
第4章 二つの生を越えて
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第47話 通知表が恐怖じゃなかった人の気持ちがわかる話

 年度末軍事査閲の結果が配られた日の午後。


 一年次の授業はほとんど終わっており、教室には自分の通知表を確認する候補生たちが残っていた。通知表には、学業、武術、魔術、指揮能力、規律、体力の六項目が一から五までの数字で記され、その合計点に加えて、軍務適性が「◎・〇・△・×」で示されている。魔術については、そもそも魔術を扱う適性を持たない者は別途「0」と記載されることになっていた。


 俺も自分の通知表を一通り確認したところで教室を出た。廊下の窓際には、すでにティア、エリシア、ルリウス、コリウス、ポリウス、ホリウス、ボリウス、リアが集まっている。


「みんな、もう見た?」


 ティアが通知表を持ったまま聞いてきた。


「私は見た」


「どうだった?」


「後で話せばいいだろ」


「そう言われると余計に気になるんだけど」


 ティアが笑う。隣ではエリシアも自分の通知表を見ているが、彼女はあまり気にしていないようだった。


「エリシアは?」


 ティアが聞く。


「普通です」


「普通って、見せて」


「別にいいですけど」


 エリシアが差し出した通知表をティアが覗き込む。


「学業4、武術5、魔術3、指揮能力4、規律5、体力5……26点」


「体力5なんだ」


「当然でしょう」


 エリシアは何でもないことのように答えた。


「それより武術5の方が重要です」


 俺は横から適性欄を見る。


 指揮・戦術〇。兵站・軍務△。情報・偵察△。築城・攻城〇。騎兵・機動戦◎。弓・弩兵運用〇。魔術兵運用△。海軍・海峡戦△。


 なるほど。


 エリシアは明確に前線向きだ。騎兵・機動戦が◎で、武術と体力も5。頭を使う分野が不得意というほどではないが、本人の性格も含めて、考えてから慎重に動くタイプというより、身体能力と行動力で押し切る方が向いている。


「騎兵が◎なんだ」


 ティアが言う。


「走って追いかけて、直接殴った方が早いですから」


「それ、脳筋って言われるやつだよ」


「そうかもしれません」


 エリシアは全く気にした様子がない。


 その隣ではルリウスが自分の結果を確認していた。


「私は……学業4、武術4、魔術3、指揮能力4、規律5、体力4。24点です」


「十分高いな」


「そうでしょうか」


「少なくとも悪くない」


 ルリウスは適性欄を確認した。


「指揮・戦術〇、兵站・軍務〇、情報・偵察◎、築城・攻城〇、騎兵・機動戦〇、弓・弩兵運用〇、魔術兵運用〇、海軍・海峡戦〇です」


「情報・偵察が◎か」


「そこは自分でも納得しています。地図を読むのは好きなので」


 続いてコリウスが通知表を見せた。


「私は学業5、武術4、魔術3、指揮能力4、規律5、体力4。25点です」


「適性は?」


「指揮・戦術〇、兵站・軍務◎、情報・偵察〇、築城・攻城〇、騎兵・機動戦△、弓・弩兵運用〇、魔術兵運用△、海軍・海峡戦〇です」


 兵站・軍務◎。


 成績を見る限り納得できる。


「二年次は兵站か?」


「そのつもりです」


「コリウスらしいね」


 ティアが言った。


「軍隊は食料がないと戦えませんから」


 コリウスは真面目に答えた。


 その横で、ホリウスが通知表を開いた。


「俺は、学業3、武術5、魔術0、指揮能力4、規律4、体力5。21点」


 俺は適性欄へ目を移す。


「指揮・戦術◎、兵站・軍務〇、情報・偵察〇、築城・攻城〇、騎兵・機動戦◎、弓・弩兵運用〇。魔術兵運用は対象外。海軍・海峡戦は△」


「魔術0なんだな」


 ティアが言った。


「使えないからな」


 ホリウスはあっさり答えた。


「魔術なんて使えなくても戦える」


「まあ、それはそうだな」


 その横からボリウスが自分の通知表を出した。


「俺は、学業3、武術4、魔術0、指揮能力4、規律4、体力5。20点」


 適性は、


 指揮・戦術〇、兵站・軍務△、情報・偵察〇、築城・攻城〇、騎兵・機動戦〇、弓・弩兵運用◎。魔術兵運用は対象外。海軍・海峡戦△。


「弓・弩兵◎か」


 俺が言う。


「傭兵の親父から弓はかなり叩き込まれたからな」


 ボリウスが笑う。


 続いてポリウス。


「俺は学業4、武術4、魔術0、指揮能力4、規律4、体力4。20点」


 適性欄は、


 指揮・戦術〇、兵站・軍務〇、情報・偵察◎、築城・攻城△、騎兵・機動戦〇、弓・弩兵運用〇。魔術兵運用は対象外。海軍・海峡戦△。


「ポリウスは情報か」


「まあ、戦場で一番先に死ぬより、先に敵を見つけた方が楽だからな」


「そういう理由なんだ」


 ティアが苦笑する。


「実際、その通りだろ」


 ポリウスは平然としていた。


 同じ傭兵関係者の家庭でも、ホリウスは騎兵・機動戦、ボリウスは弓・弩兵、ポリウスは情報・偵察と、それぞれに違う適性が出ている。


「リアは?」


 俺が聞くと、リアが通知表を差し出した。


「学業4、武術4、魔術3、指揮能力5、規律4、体力4。24点」


 適性は、


 指揮・戦術◎、兵站・軍務〇、情報・偵察〇、築城・攻城〇、騎兵・機動戦〇、弓・弩兵運用〇、魔術兵運用〇、海軍・海峡戦△。


「やっぱり指揮◎か」


 ホリウスが言った。


「そっちは?」


「俺も指揮◎」


「騎兵は?」


「◎」


「なるほど」


 リアとホリウスが互いの通知表を見る。


 先日の模擬戦大会で指揮権をめぐって衝突した二人だけに、ここでも自然と比較してしまうらしい。


「同じ◎だからって、私の方が上とは限らないでしょ」


 リアが言う。


「別に上とは言ってない」


「その顔、言ってる」


 ホリウスが少し笑った。


 俺は二人を見ながら、次にティアの通知表へ目を向けた。


「ティアは?」


「私は……」


 ティアが紙を見ながら読み上げる。


「学業5、武術5、魔術5、指揮能力5、規律5、体力4。29点」


「高いな」


「レノも高いんでしょう?」


「まだ見せてない」


「じゃあ、後で見せて」


「分かった」


 ティアは適性欄へ目を移す。


「指揮・戦術◎、兵站・軍務〇、情報・偵察〇、築城・攻城〇、騎兵・機動戦〇、弓・弩兵運用〇、魔術兵運用◎、海軍・海峡戦〇」


「魔術兵運用◎か」


 俺が言う。


「魔法使いだからというより、魔力の使い方と部隊運用の両方を評価されたんだろうな」


「そうみたい」


 ティアは少し嬉しそうだった。


「二年次は指揮・戦術にするつもり」


「私もだ」


「やっぱり?」


「そうする」


 ティアが笑った。


 最後に、全員の視線が俺へ向く。


「で、レノは?」


「私か」


「そう」


 俺は通知表を開いた。


「学業5、武術5、魔術5、指揮能力5、規律5、体力5。30点」


 ティアが目を丸くした。


「全部5?」


「そう」


「30点……」


 ホリウスが苦笑する。


「本当に取る奴がいるんだな」


「だから言っただろ。成績は成績だ」


 俺は適性欄を見る。


 指揮・戦術◎

 兵站・軍務◎

 情報・偵察◎

 築城・攻城〇

 騎兵・機動戦〇

 弓・弩兵運用〇

 魔術兵運用◎

 海軍・海峡戦〇


 並べてみると、かなり偏りがある。


 指揮、兵站、情報、魔術兵運用。


 王太子として必要になる分野が、そのまま高く出ていた。


「ほとんど◎だね」


 ティアが言う。


「そうみたいだな」


「レノなら指揮・戦術で決まり?」


「第一候補はそうする。兵站と情報も必要だから、そこも勉強するつもりだ」


「専門は一つじゃないの?」


「主専門は一つだろうけど、他の課程も授業はある。二つを捨てる必要はない」


 コリウスが頷く。


「王太子なら、むしろ全部分かっていないと困るでしょうね」


「そのつもりだ」


 俺は通知表を封筒へ戻した。


 それぞれの結果を並べてみると、同じ一年間を過ごしていても、得意分野はかなり違っていた。


 エリシアは武術と体力。


 ルリウスは情報・偵察。


 コリウスは兵站・軍務。


 ホリウスは指揮と機動戦。


 ボリウスは弓・弩兵。


 ポリウスは情報・偵察。


 リアは指揮・戦術。


 ティアは指揮と魔術兵運用。


 そして俺は、指揮・兵站・情報・魔術兵運用。


「こうして見ると面白いな」


 ティアが皆の通知表を眺める。


「二年生になったら、本当に別々になりそう」


「専門が違えば、今より授業も分かれるだろうな」


「でも、基本の授業は全員一緒なんでしょう?」


「そうだ」


 俺は頷いた。


「だから、完全に別になるわけじゃない」


 教室の外では、他の候補生たちも通知表を見せ合っている。


 喜んでいる者もいれば、思っていたより低い評価に落ち込んでいる者もいる。魔術適性が0だった候補生はそれを気にする様子もなく、自分の武術や体力の評価について話していた。


 学校が評価しているのは、一つの能力だけではない。


 それぞれが違う分野で軍を支える。


 そういう制度なのだろう。


「そろそろ帰ろうか」


 ルリウスが言った。


「ああ」


 俺たちはそれぞれ通知表をしまった。


 冬の夕方は早い。窓の外はもう薄暗くなっていて、訓練場には冷たい風が吹いている。


「ティア」


「何?」


「帰りの馬車、王宮まで一緒だろ」


「うん」


「じゃあ、父上から来ている書類を一緒に確認しよう」


「結婚式のやつ?」


「たぶん」


「分かった」


 ティアが笑った。


 俺たちはそのまま校舎を出た。

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