↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 佐藤湊
第4章 二つの生を越えて
PR
240/335

第38話 機能不全

新作アルヴァン民族記投稿開始しました。代表作である本作が完結するまでは投稿頻度が極度に下がると思いますので本作を熟読して頂いて、完結後に改めてアルヴァン民族記を閲覧して頂くのがお勧めです。

AI使用は少なくしましたので文章構成の不自然さが多く出る可能性がありますがご容赦ください。


ちなみに、第38話は歴史and政治回です。

俺はある日の休暇でこの国の問題点を考察することにした。

俺はこの国の状況についてまとめた表をティアと一緒に読んでいく。


「アンティクイランド王国は典型的な中央集権化の過渡期における機能不全国家?」


俺は答える。


「ああ。過渡期というのは封建国家から中央集権国家、あるいは近代国家の国家体制に移行する際に発生する典型的なバグが起こっている状態だ。この国には3つのバグがある。」


「ああ、レノって昔から歴史と政治を絡めて見るの好きだもんね....」


さすがティア。よくわかっている。可愛いので頭を撫でてあげた。

するとティアは恥ずかしそうに頬を赤らめ俺に続きを促してくる。

仕方ない。続けるか。


「まず一つ目が財政構造の制度的バグ、つまり、歳入・歳出の歪みだ。

領地貴族が徴税権を握り、王家への上納金が不透明かつ固定化されていので、国力の成長やインフレに歳入が追いついていない。さらに言えば宮廷の膨張、大貴族への利権配分、常備軍の維持費など、近代的なコストが発生しているにもかかわらず、歳入構造が中世のままであるために構造的赤字に陥っている。」


「え、でも収支はかなりの黒字だったよね。」


「ああ、でもさっき言ったように中世の歳入構造による、言わば中世の歳入に頼り切っているのに近代的な歳入構造、つまり近代の歳入が小鉄貨1枚もない状況で近代的な歳出が発生しているということだ。はっきり言うと近代的な歳出が莫大なのに対しそのすべてを中世的な歳入によって賄い、近代的な歳入が欠片もないという状況だ。分かった?」


「うん!」


ティアが元気よく答える。


「なら2つ目だな。ここ。」


俺は紙の一部を取り出し、見てほしいところに指を置く。


「権力構造の多極化、特に王権の脆弱性だ。先の王位継承争いは

独立を維持し、改革・中央集権を目指す第一王子派と帝国に従属し、既得権益を守りたい大貴族の第二王子派の戦いだった。さらにここにそれぞれの目的を持つ王弟派と第三王子派が乱入し中央集権を目指しているはずの王家が内部闘争によってボロボロになった。

有力領地貴族が独自の軍事力や経済盤面を握っているから、王家の求心力が大きく落ちればいつでも地方分権化・割拠化する危険を孕んでいる。」


「三つ目だ。経済と政治の歪んだ癒着、三大商会の台頭だ。国家の財政破綻を埋めるため、王家や貴族が民間の商会に依存した。結果として、商会などの経済勢力が他国と結びついて国家の安全保障を内側から食い荒らすという、極めて危険な国家開帳状態になっている。」


「でも、昔の日本もこんな感じだったよね。明治維新みたいなことはできないの?」


「たしかに明治維新は本当にうまくやったと思うが、この国はそれを再現することができない。

1つは外圧の質だ。ペリー来航による欧米の脅威は絶大だったが、欧米諸国は距離的に離れており、当時は即座に日本全体を全面侵略・併合する余裕はなく、一定の猶予期間があった。

しかし、この国は帝国という超大国が目と鼻の先に存在する。アイティクイランドが国内で「維新」のような激しい内戦や制度改変を起こして混乱した瞬間に、帝国に軍事介入・併合されて終了してしまう。」


「2つ目は尊皇、つまり絶対的な象徴という軸の不在だ。薩長などの雄藩は、幕府を倒す際に天皇をシンボルとして掲げることで、国家としての分裂を防ぎ、国民や武士を「日本国」として一つにまとめ上げることができた。現代日本も同じで「天皇は国民統合の象徴である」と憲法に明記されている。通常、複数の島に分かれていて1億2000万人もの人口を持つ国が存在するなど通常は有り得ない。だが、藩はあくまで領地、政党はあくまで派閥。日本から離脱しようとした時点で大義名分がない反乱として潰される。これが2000年以上続いているとされる日本という国家のからくりだ。

話は戻すがアイティクイランドの場合、王家そのものが第一王子派と第二王子派に分裂して権力闘争をうような状態の為、「全員が服従すべき絶対的なシンボル」が存在しない。」


「3つ目は下級武士・知識人層、つまり実務を担う中間層の欠如だ。

日本では江戸時代を通じて寺子屋や藩校で教育を受けた坂本龍馬や伊藤博文などの下級武士層が層として厚く、彼らが実務を担う新しい官僚として機能していた。

しかしアイティクイランドは、識字率や教育機会が限られており、仮に維新を強行しても行政・政治実務のノウハウが大貴族とそのお抱え文官・大商人に独占されていまう。大貴族をしようにも、行政を代行できる人材、さっき言った中間層だな。それが国に存在しないから国家機能が維新なんて行った日には即座に麻痺する。」


「4つ目は財政・領地構造の「版籍奉還」が不可能な理由にある。

日本では明治政府は「版籍奉還」「廃藩置県」により、大名の土地と人民を強制的に国に返還させることができた。つまり大きかったのは御親兵だ。

しかし、アイティクイランドは王国の領地貴族たちは独自の私兵と徴税権を強固に握っている。王家直轄領の財政が税収単独では赤字である以上、「軍事力を保つ資金収入がない王家」が貴族に領地を返せと言っても誰も従わない。武力で強制しようにも、その軍事費すら賄えないという詰み状態だ。」


「つまり、明治維新のような「上からの急進的な大改革」は、王国で実行すれば即座に「内戦による自滅」か「帝国の介入による滅亡」を招く。

維新のような劇的な革命を起こすのではなく、数年〜数十年単位で経済の血流を抑え、徐々に旧体制を窒息させる「裏からの微修正」を選ばざるを得ないんだよ。」


ティアが大変なことに気付いたように口を開く。


「そんな状態で戦争なんかしてて大丈夫なの!?」


「大丈夫じゃないな。だからこそティアと俺でなんとか国をやりくりして生き残っていくっていう選択肢しか残っていないんだよ。まあ、「裏からの微修正」が俺の生存術だがな。」


「私は死んでもレノと一緒にいるからいつでも頼ってね!」


「ああ、頼りにしてる。」


こうして休暇の1日は過ぎていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。