第33話 偵察 後編
午後になる頃には、俺たちの部隊は最後の観察地点へ到着していた。
ここまでに確認した地形はかなり多い。
森林。
丘陵。
河川。
街道。
そして、シルウァニア側に建設された木造の防御壁。
最後の観察地点は、国境から少し離れた高地だった。
ここからなら、これまでとは異なる角度から防御壁を確認できる。
「ここが最後の観察地点だ」
教官が告げる。
「各班、これまでの記録と照合しながら周辺を確認しろ。新しい情報があれば記録する」
「はい!」
候補生たちはそれぞれの担当区域へ散っていった。
俺もエリシア、ティア、ルリウスとともに高地から国境方面を見渡した。
「……見える」
ティアが呟く。
森の向こうに、また防御壁が見える。
これまで何度も確認してきたものと同じだ。
だが、今回はこれまでよりも広い範囲を見ることができた。
壁は森の中を通り、さらに丘陵の向こうへ続いている。
「やっぱり、かなり長いですね」
エリシアが言う。
「うん」
俺は地図を広げた。
これまでの観察地点を確認する。
最初の地点。
次の地点。
そして今回の地点。
それぞれから確認した防御壁の位置を繋いでいく。
「少なくとも、この範囲には防御壁が続いている」
俺は言った。
「正確な全長までは分からないけど、かなり広い防御線になっていることは間違いない」
「記録しておきます」
エリシアが頷く。
そのとき、別の候補生が声を上げた。
「殿下! 壁の近くに道があります!」
「どこ?」
俺が近づく。
指差された先を見ると、森の中に細い道が続いている。
その道は防御壁の方向へ伸びている。
「馬車の轍があります」
ルリウスが確認する。
「複数ですね」
地面にはいくつもの轍が残っている。
最近も使われているようだった。
「これも記録しよう」
俺は地図に印をつけた。
防御壁。
見張り台。
内部の建造物。
兵士らしき人影。
補給に使われている可能性のある道路。
そして、周辺の地形。
これで今日確認できる情報は、ほぼ出揃った。
しばらくすると、教官が全員を呼び戻した。
「集合!」
候補生たちが集まってくる。
「各班、確認した情報を報告!」
代表者が順番に報告を始める。
「防御壁を確認!」
「見張り台を複数確認しました!」
「壁の内部に複数の建造物があります!」
「兵士らしき人員を確認!」
「河川を確認。幅はおよそ――」
「未記載の道路を確認。馬車の轍も確認しています!」
次々と情報が集まっていく。
教官たちはそれらを記録していった。
俺も自分の記録と照らし合わせる。
大きな食い違いはない。
むしろ、複数の班が別々の場所から同じ防御壁を確認している。
それによって、防御壁がかなり広範囲に構築されていることが裏付けられた。
「よし」
最後の報告を聞いた教官が頷いた。
「本日の偵察はこれで終了する」
その言葉を聞いて、候補生たちの間から小さな安堵の空気が流れた。
当然だ。
朝から長時間歩き続け、そのうえ国境周辺を警戒しながら行動していた。
疲れていない方がおかしい。
「これより野営地へ戻る!」
「はい!」
俺たちは地図と記録用紙を整理し、装備を整えた。
俺も最後に国境方面を振り返った。
森の向こうには、シルウァニアの防御壁がある。
あの向こう側には、すでに総動員令を受けて集められた兵士たちがいる。
俺たちはその全てを見ることはできなかった。
それでも、何も知らなかった昨日までとは違う。
防御壁が広範囲に構築されていること。
見張り台が設置されていること。
兵士が配置されていること。
内部に複数の建造物があること。
補給に使われている可能性のある道路があること。
そして、周辺の森林や河川が防御に利用できること。
それだけでも、今回の偵察には十分な意味があった。
「殿下」
エリシアが声をかける。
「戻りましょう」
「うん」
俺は頷いた。
ティアとルリウスも合流する。
俺たちは他の候補生たちとともに、野営地へ向かって歩き始めた。
夕方。
野営地に戻ると、3つの部隊がそれぞれの場所で野営の準備を始めた。
第1学年300人。
第2学年300人。
第3学年300人。
900人全員が無事に帰還した。
少なくとも、今日の偵察で大きな事故は起きなかった。
俺は天幕を張りながら、今日一日のことを思い返していた。
父上から突然与えられた今回の課外学習。
最初は冗談のようにも思えた。
だが、実際に国境まで来てみれば、そこには本当に戦争の準備を進めている国があった。
来年には、ここが本当の戦場になるかもしれない。
そう思うと、少しだけ背筋が冷える。
けれど――。
俺は自分の記録用紙を見る。
今日見たものは、すべてここに残っている。
これが王国軍の作戦立案に使われる。
ならば、今回の任務には意味があった。
「……終わったな」
俺は小さく呟いた。
偵察は終了した。
あとは、この情報を王国へ持ち帰るだけだ。
俺は記録用紙を大切にしまい、野営地の向こうに沈んでいく夕日を眺めた。
こうして、俺たち900人の最初の国境偵察任務は終わった。 午後になる頃には、俺たちの部隊は最後の観察地点へ到着していた。
ここまでに確認した地形はかなり多い。
森林。
丘陵。
河川。
街道。
そして、シルウァニア側に建設された木造の防御壁。
最後の観察地点は、国境から少し離れた高地だった。
ここからなら、これまでとは異なる角度から防御壁を確認できる。
「ここが最後の観察地点だ」
教官が告げる。
「各班、これまでの記録と照合しながら周辺を確認しろ。新しい情報があれば記録する」
「はい!」
候補生たちはそれぞれの担当区域へ散っていった。
俺もエリシア、ティア、ルリウスとともに高地から国境方面を見渡した。
「……見える」
ティアが呟く。
森の向こうに、また防御壁が見える。
これまで何度も確認してきたものと同じだ。
だが、今回はこれまでよりも広い範囲を見ることができた。
壁は森の中を通り、さらに丘陵の向こうへ続いている。
「やっぱり、かなり長いですね」
エリシアが言う。
「うん」
俺は地図を広げた。
これまでの観察地点を確認する。
最初の地点。
次の地点。
そして今回の地点。
それぞれから確認した防御壁の位置を繋いでいく。
「少なくとも、この範囲には防御壁が続いている」
俺は言った。
「正確な全長までは分からないけど、かなり広い防御線になっていることは間違いない」
「記録しておきます」
エリシアが頷く。
そのとき、別の候補生が声を上げた。
「殿下! 壁の近くに道があります!」
「どこ?」
俺が近づく。
指差された先を見ると、森の中に細い道が続いている。
その道は防御壁の方向へ伸びている。
「馬車の轍があります」
ルリウスが確認する。
「複数ですね」
地面にはいくつもの轍が残っている。
最近も使われているようだった。
「これも記録しよう」
俺は地図に印をつけた。
防御壁。
見張り台。
内部の建造物。
兵士らしき人影。
補給に使われている可能性のある道路。
そして、周辺の地形。
これで今日確認できる情報は、ほぼ出揃った。
しばらくすると、教官が全員を呼び戻した。
「集合!」
候補生たちが集まってくる。
「各班、確認した情報を報告!」
代表者が順番に報告を始める。
「防御壁を確認!」
「見張り台を複数確認しました!」
「壁の内部に複数の建造物があります!」
「兵士らしき人員を確認!」
「河川を確認。幅はおよそ――」
「未記載の道路を確認。馬車の轍も確認しています!」
次々と情報が集まっていく。
教官たちはそれらを記録していった。
俺も自分の記録と照らし合わせる。
大きな食い違いはない。
むしろ、複数の班が別々の場所から同じ防御壁を確認している。
それによって、防御壁がかなり広範囲に構築されていることが裏付けられた。
「よし」
最後の報告を聞いた教官が頷いた。
「本日の偵察はこれで終了する」
その言葉を聞いて、候補生たちの間から小さな安堵の空気が流れた。
当然だ。
朝から長時間歩き続け、そのうえ国境周辺を警戒しながら行動していた。
疲れていない方がおかしい。
「これより野営地へ戻る!」
「はい!」
俺たちは地図と記録用紙を整理し、装備を整えた。
俺も最後に国境方面を振り返った。
森の向こうには、シルウァニアの防御壁がある。
あの向こう側には、すでに総動員令を受けて集められた兵士たちがいる。
俺たちはその全てを見ることはできなかった。
それでも、何も知らなかった昨日までとは違う。
防御壁が広範囲に構築されていること。
見張り台が設置されていること。
兵士が配置されていること。
内部に複数の建造物があること。
補給に使われている可能性のある道路があること。
そして、周辺の森林や河川が防御に利用できること。
それだけでも、今回の偵察には十分な意味があった。
「殿下」
エリシアが声をかける。
「戻りましょう」
「うん」
俺は頷いた。
ティアとルリウスも合流する。
俺たちは他の候補生たちとともに、野営地へ向かって歩き始めた。
夕方。
野営地に戻ると、3つの部隊がそれぞれの場所で野営の準備を始めた。
第1学年300人。
第2学年300人。
第3学年300人。
900人全員が無事に帰還した。
少なくとも、今日の偵察で大きな事故は起きなかった。
俺は天幕を張りながら、今日一日のことを思い返していた。
父上から突然与えられた今回の課外学習。
最初は冗談のようにも思えた。
だが、実際に国境まで来てみれば、そこには本当に戦争の準備を進めている国があった。
来年には、ここが本当の戦場になるかもしれない。
そう思うと、少しだけ背筋が冷える。
けれど――。
俺は自分の記録用紙を見る。
今日見たものは、すべてここに残っている。
これが王国軍の作戦立案に使われる。
ならば、今回の任務には意味があった。
「……終わったな」
俺は小さく呟いた。
偵察は終了した。
あとは、この情報を王国へ持ち帰るだけだ。
俺は記録用紙を大切にしまい、野営地の向こうに沈んでいく夕日を眺めた。
こうして、俺たち900人の最初の国境偵察任務は終わった。




