第60話 内乱の予兆
卒業式を二週間後に控えたある日の午後、俺は王宮の執務室で春に向けた準備について届いた書類へ目を通していた。冬の社交界も終盤に入り、王立貴族学院の卒業式、成人式、立太子の儀、ティアとの婚約式、そしてエクィトゥム王国との軍事同盟と貿易協定の正式調印式まで、数多くの予定が具体的な日程へ落とし込まれつつある。ほんの少し前までは、その春を当たり前に迎えられると思っていた。けれど、ヒルゼルス男爵家による襲撃事件、アルゲントゥム商会残党の動き、そして暗号化された書状の存在を知って以来、俺はこの先に何かが起こることを前提として考えるようになっていた。
その時、扉の外から声がした。
「殿下、グラフィルです」
「入れ」
扉が開き、グラフィルが入ってくる。その手には何枚もの書類がまとめられていたが、普段の報告とは明らかに違う緊張が漂っている。
「何か分かったか?」
「はい。先日、アルゲントゥム商会残党の船から確保した書状についてですが、暗号の解読が完了しました」
俺は書類から顔を上げた。
「……それで?」
「差出人は第二王妃ヴィクトリア。宛先はカヴィーレスターン・スルタン国第十八代スルタン、ザフィール・アル=ラシードです」
その名前を聞いた瞬間、胸の奥にあった疑念が現実へ変わった。
「内容を聞かせてくれ」
「はい」
グラフィルは解読文へ視線を落とし、順番に読み上げていく。
「卒業式が終了した夜、ヴィクトリア第二王妃がクーデターを起こす計画です。最初に国王陛下へ遅効性の毒を盛り、瀕死の状態にします」
俺は眉を寄せる。
「殺害ではないのか?」
「はい。殺すことより、生かしておくことに意味があるようです」
「人質か」
「その通りです。国王陛下を瀕死にして政務不能にした上で、第四軍団と第五軍団を王宮へ進め、『国王陛下を保護する』という名目で王族居住区域と国王陛下の身柄を確保します」
俺は黙って聞いていた。
「その上で、第一王子殿下を国王暗殺未遂の容疑で拘束します」
そこまで聞いて、俺の思考が止まった。
父上が毒で倒れる。
第四軍団と第五軍団が王宮へ入り、父上を保護するという大義名分を掲げる。
俺は父上を殺そうとした犯人にされる。
そして他の軍団へ、「国王陛下と王国を守るために動いた」と説明して理解を求める。
先に事実を作ってしまえばいい。
父上は本当に倒れる。
軍団も本当に王宮へ入る。
俺も本当に拘束される。
その瞬間だけなら、ヴィクトリア側の主張を完全に嘘だと証明することは難しい。
「……そこから先は?」
俺が尋ねると、グラフィルは別の書類へ目を移した。
「カヴィーレスターン軍三千をガルディシア伯爵領で受け入れ、アイティクイランド王国の貴族を威圧する、とあります」
「そして、最終的にはカヴィーレスターンを切る」
「はい。情報員を使い発見した帝国へ向けた密書を複製した結果、詳しい内容が分かりました」
グラフィルの声が低くなる。
「カヴィーレスターン軍がガルディシア伯爵領を占領したという口実を作り、それを理由にカヴィーレスターンを裏切ったように見せる。その上で帝国へ救援を求め、帝国軍一万五千を国内へ呼び込む計画です」
「帝国に助けてもらったという既成事実を作る」
「はい。そして、その救援を受けたことを理由として、帝国への従属を受け入れる派閥を国内でまとめる」
俺はしばらく何も言わなかった。
ようやく分かった。
ヴィクトリアの本当の目的は、単純にルキウスを王位につけることではない。
外国軍を利用して国内を押さえること。
さらに帝国軍を国内へ引き入れ、帝国の力を借りた新しい政治体制を作ること。
最終的には、この国を帝国へ傾ける。
「……帝国への従属の目的を何としても達成する気か」
「少なくとも、結果としてはそうなるでしょう」
グラフィルは淡々と答えた。
「書状だけでなく、以前確認した第二王子派の息がかかった傭兵団によるカヴィーレスターンへの荷物と書簡の送付も、今回の計画と一致しています。計画は一時的な思いつきではなく、かなり前から準備されていたものと考えられます」
俺は資料を見つめたまま、黙った。
父上が殺されるかもしれない。
それだけではない。
王宮が戦場になる。
第四軍団と第五軍団が味方から敵になる。
カヴィーレスターン軍が入る。
さらに帝国軍まで入ってくる。
内乱で終わらず、外国軍との戦争へ発展する可能性がある。
そして。
その中心にいるのは、俺の父親だ。
「……父上が死ぬ可能性は?」
「計画では瀕死に留めることになっています。しかし、毒を使う以上、実際にどこまで耐えられるかは分かりません。治療が間に合わなければ、そのまま亡くなる可能性もあります」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が冷たくなった。
俺はこれまで、ヴィクトリアの計画を政治的な問題として考えていた。
だが。
父上が死ぬ可能性がある。
その瞬間だけは、どうしても政治では割り切れなかった。
卒業式を中止すればいい。
春の儀式を延期すればいい。
そうすれば、少なくともヴィクトリアの予定通りには進まない。
俺は一度目を閉じた。
けれど。
すぐに別の問題が浮かんだ。
計画を知ったと露見すれば、ヴィクトリアは別の日時に動くかもしれない。
卒業式を止めても、別の場所で父上を狙うだけかもしれない。
さらに、カヴィーレスターンと帝国との連絡経路を変えられれば、今掴んでいる情報以上のものを追えなくなる。
そして、俺が恐れて卒業式を取りやめれば、立太子も婚約も軍事同盟も貿易協定も延期される。
自分たちの未来を、敵の計画によって自分から変えることになる。
「……分かった」
俺はゆっくりと目を開けた。
「卒業式は予定通り行う」
グラフィルが俺を見る。
「よろしいのですか?」
「ああ」
声は落ち着いていた。
「父上が死ぬ可能性がある以上、怖くないわけじゃない。だが、卒業式を中止して安全な場所へ逃げれば、それで解決する問題でもない。ヴィクトリアが計画を変えれば、別の時に同じことを仕掛けてくる。それなら、こちらが相手の計画を知った状態で、その日を迎える」
「敵の計画を逆に利用する、と?」
「そうだ」
俺は資料へ指を置いた。
「向こうには第四軍団と第五軍団がある。なら、こちらはそれ以外の軍団を準備する。向こうが王宮を確保しようとするなら、王宮を守る部隊を先に配置しておく。向こうが外国軍を呼ぶなら、ガルディシア伯爵領と国境の対応を整える」
そして。
「俺が立太子することも、ティアと婚約することも、エクィトゥム王国と同盟を結ぶことも、全部予定通り進める」
グラフィルは黙って頷いた。
「ですが、これだけ大規模な計画なら、内乱が始まった時に第二王子派を残したままでは危険です」
「そうだ」
俺は即答した。
「だから、この内乱を利用する」
「利用する?」
「ああ」
俺は机の上にある資料を一つずつ整理した。
「今の第二王子派には、単にルキウスを支持しているだけの者もいれば、武力による政変へ関与している者もいる。さらにヴィクトリアへ外国軍を招き入れる協力をしている者もいる」
「はい」
「今回、本当に武力で反乱を起こすのであれば、こちらはそれを一つの機会として扱う」
俺は静かに言った。
「戦後まで不穏分子を残さない」
グラフィルの表情がわずかに変わった。
「第二王子派を、全て?」
「いや」
俺は首を横に振った。
「第二王子派だからという理由だけで処分するつもりはない。そんなことをすれば、かえって国内に新たな憎しみを生む」
俺は冷静に続けた。
「対象にするのは、今回のクーデターへ実際に関与した者、外国勢力との内通を行った者、軍事的な反乱へ加わった者、そして王国の安全保障を裏切った者だ」
「……なるほど」
「反乱に参加したという事実と証拠を基準にする。家名や派閥ではなく、行動を基準にする」
それなら。
内乱の後に、「第一王子が第二王子派を皆殺しにした」という政治的な批判も抑えられる。
同時に、今まで王国の中に残っていた武力による政変の可能性を一気に取り除ける。
「今回の内乱で、王国を不安定にしている勢力を一掃する」
俺は静かに言った。
「ただし、それは無差別な粛清ではない。誰が何をしたのかを明確に記録し、反乱に関与した者だけを処分する。関与していない者は残す」
「その方針なら、戦後の統治も安定します」
「そうだ。敵を全て敵として扱えば、戦争が終わった後も敵を作り続けることになる。必要なのは、反乱勢力を潰した上で、残った者には王国の新しい秩序へ戻る道を残すことだ」
俺はそこで一度息を吐いた。
「だからこそ、俺はこの内乱を避けられないなら、徹底的に終わらせる」
そして。
「二度と同じ規模のクーデターを起こせない状態にする」
グラフィルが深く頭を下げる。
「承知しました」
俺は、そこで必要な人間を思い浮かべた。
「グラフィル」
「はい」
「第一王子宮に、サナ、ティア、第二軍団軍団長、第三軍団軍団長、アトラシート伯爵を集めてくれ」
「すぐに」
「今回の内容を全て話す。ただし、知る者は必要最小限にする」
「承知しました」
◆
その夜。
第一王子宮の会議室に、サナ、ティア、第二軍団軍団長、第三軍団軍団長、アトラシート伯爵が集まった。
俺は、グラフィルから受け取った暗号文の解読内容を全て説明した。
父上への毒。
瀕死。
第四軍団と第五軍団による「保護」。
俺への国王暗殺未遂の濡れ衣。
カヴィーレスターン軍三千。
ガルディシア伯爵領。
帝国軍一万五千。
帝国への従属。
そして。
「この内乱が起きれば、これまで学院内や王宮内に残っていた武力による不穏分子を一気に整理できる」
俺は全員を見渡した。
「ただし、俺は無差別に処分するつもりはない。今回の計画に関わった者、実際に反乱へ参加した者、外国勢力と内通した者、王国を裏切った者を対象とする」
第二軍団軍団長が頷いた。
「軍人としても、その方が明確です。命令に従っていただけの兵士まで一律に敵とすれば、戦後の軍そのものが壊れます」
「その通りです」
第三軍団軍団長も続けた。
「我々としても、反乱に参加した指揮官と兵士を識別できるよう準備しておきます」
「頼む」
アトラシート伯爵も深く頷いた。
「貴族については、証拠を整理します。派閥ではなく、実際の関与を基準にすれば、王国内の理解も得やすいでしょう」
「そうしてくれ」
俺は全員を見渡した。
「そして、もう一つ重要なことがある」
第二軍団軍団長が顔を上げる。
「内乱が始まったら、できるだけ早い段階でヴィクトリアの陰謀を公表する」
「戦場で、ですか?」
「ああ」
俺は即答した。
「特に中央軍の損害を抑えたい」
これから起きる戦闘では、第四軍団と第五軍団が王宮へ向かう。
第一軍団は、それを止めるために配置する。
後から第二軍団と第三軍団が到着し、第四・第五軍団を挟撃する。
当然、軍団同士が戦えば、味方同士で多くの兵が傷つく。
だが。
第四軍団と第五軍団の兵士全員がクーデターを知っているわけではない。
国王陛下を守るための命令だと信じて、上官の命令に従っている者も大勢いるはずだ。
「だから、戦闘が始まってから、できるだけ早い段階で事実を知らせる」
俺は続けた。
「ヴィクトリアが国王陛下へ毒を盛る計画だったこと。第四軍団と第五軍団を使って王宮を確保し、俺を国王暗殺未遂犯として拘束する計画だったこと。そしてカヴィーレスターンと帝国を国内へ引き込む計画まで、兵士たちに伝える」
「それによって、戦闘を止めるのですか?」
第三軍団軍団長が尋ねた。
「完全には止まらないだろう」
俺は首を横に振った。
「だが、意味はある」
命令に従っているだけの兵士に、何のために自分たちが戦っているのかを知らせる。
そして。
「降伏する機会を与える」
「……」
「戦う必要がないと理解した者まで殺す必要はない。反乱に加担した者と、騙されて動いている兵士を同じように扱えば、中央軍の損害は無駄に増える」
俺は資料へ目を落とした。
「この内乱で俺が最も避けたいのは、反乱に関与していない中央軍の兵士が大量に死ぬことだ」
「戦後も同じ軍人として残るからですね」
アトラシート伯爵が言う。
「ああ。内乱が終われば、今日敵として剣を交えた兵士も、この国の軍人だ。彼らまで大量に失えば、国の防衛力そのものが削られる」
だから。
早期に暴露する。
早期に降伏を促す。
戦闘そのものを短くする。
「そのためにも、第一軍団が足止めしている間に声明を出せる体制を作る」
俺は第二軍団軍団長を見る。
「伝令を用意してほしい。戦場の各部隊へ内容を伝える」
「承知しました」
「第三軍団も同じだ」
「はい」
「さらに、王族居住区域そのものでも明らかにする」
俺は地図を見た。
「第四軍団と第五軍団が王宮を占領しようとする理由を、そこで暴露する」
「ヴィクトリア本人の計画を?」
「ああ」
戦場の兵士たちの目の前で。
貴族たちの目の前で。
第二王子派の兵士たちの目の前で。
父上への毒。
国王暗殺未遂の濡れ衣。
外国軍の導入。
帝国への従属。
全てを明らかにする。
そうすれば、戦場そのものの意味が変わる。
単なる軍団同士の内戦ではなく。
王国を外国へ売ろうとした政変だと理解させる。
「でも、それなら卒業式の前に告発してしまえばいいんじゃない?」
ティアが静かに尋ねた。
俺は首を横に振った。
「それができれば、一番いい」
「……できないの?」
「証拠が足りない」
俺は暗号文の複製へ目を向けた。
「確かに、この書状は非常に強い。だが、ヴィクトリア本人が書いたということを、今すぐ法廷で完全に証明できるわけじゃない。暗号の解読方法、書状の入手経路、カヴィーレスターンとの通信、第四・第五軍団との実際の連携。どれも、今の段階では決定的な証拠が足りない」
アトラシート伯爵が頷く。
「ヴィクトリア側が偽造だと主張すれば、すぐに処分するのは難しい」
「そういうことだ」
俺は続けた。
「さらに、卒業式前に告発しても、それだけで内乱を止められる保証はない」
「……」
「ヴィクトリア本人を拘束できなければ、計画そのものを変更するだろう。第四軍団と第五軍団を別の時期に動かすこともできるし、父上を別の方法で狙うこともできる。カヴィーレスターンや帝国との連絡経路も変えられる」
つまり。
卒業式前に告発したとしても。
敵の計画を止められるとは限らない。
むしろ、こちらが全て知っていることを敵へ知らせるだけになってしまう可能性すらある。
「だから、内乱そのものを止められないなら」
俺は静かに続けた。
「せめて始まった瞬間に、その意味を変える」
ティアが俺を見る。
「どういうこと?」
「ヴィクトリアの計画通りなら、最初に父上が倒れる。その後、第四軍団と第五軍団が王宮へ来る」
「うん」
「そこで第一軍団が足止めする」
「そして、第二軍団と第三軍団が来る」
「ああ」
「その間に陰謀を暴露する」
「そうだ」
俺は頷いた。
「戦うためだけに第一軍団を置くんじゃない。時間を稼ぐために置く。その時間で、できるだけ多くの兵士へ真実を伝える」
そうすれば。
中央軍の損害を抑えられる。
反乱に加担する意思のない兵士を降伏させられる。
そして、戦場でヴィクトリアの正統性を崩せる。
「この内乱で勝つだけなら、第四軍団と第五軍団を力で押し潰せばいい」
俺は静かに言った。
「でも、それでは王国の軍そのものが傷つく。俺はそれを望んでいない」
第二軍団軍団長が深く頷いた。
「了解しました。戦闘開始後、できるだけ早く声明を伝達できるよう準備します」
「頼む」
そして。
俺はもう一つの問題へ目を向けた。
カヴィーレスターン軍三千。
「カヴィーレスターン軍も、戦う前に引き込む」
ティアが少し驚いた。
「本当に?」
「ああ」
俺は地図上のガルディシア伯爵領を指した。
「ヴィクトリアの計画では、彼らは利用された後に切り捨てられる。ガルディシア伯爵領を占領したという口実を作られ、侵略者として扱われた上で、帝国へ救援を求める材料にされる」
「それを教える」
「そうだ」
俺は頷いた。
「暗号文の証拠を示して、ヴィクトリアが何をするつもりなのかを伝える。そして、こちらへ敵対しないなら、カヴィーレスターン軍を敵として扱わないと約束する」
アトラシート伯爵が静かに呟く。
「外国軍三千を倒すのではなく、三千をそのまま無力化する……」
「いや」
俺は首を横に振った。
「無力化だけじゃない」
俺はカヴィーレスターン軍の位置へ目を移した。
「可能なら、こちらへ引き込む」
敵三千が味方になる。
ガルディシア伯爵領の防衛が楽になる。
ヴィクトリアの計画が一段階崩れる。
さらに、帝国へ向けた証言者にもなる。
「それができれば、帝国軍一万五千を呼び込む理由も一つ潰せる」
「なるほど」
ティアが頷いた。
「だから、内乱そのものをできるだけ小さくするんだね」
「ああ」
俺は静かに答えた。
「避けられないなら、最小限にする」
そして。
「勝った後は、今回の反乱に実際に関与した者を処分する」
第二軍団軍団長が頷く。
「証拠に基づいて、ですね」
「そうだ」
「派閥そのものではなく」
「その通りだ」
俺ははっきり答えた。
「第二王子派だからという理由だけでは処分しない。今回の計画に関わった者。外国勢力と内通した者。反乱軍として武器を取った者。王国を裏切った者。そこだけを対象とする」
そうして初めて。
内乱の後に新たな内乱の種を残さずに済む。
「これで方針は決まった」
俺は全員を見渡した。
「卒業式は予定通り行う」
「はい」
「当日、サナとティアは第一王子宮へ集める。祝賀という名目で保護する」
「分かった」
「第一軍団は王宮の要所へ配置し、第四軍団と第五軍団の進軍を足止めする」
「はい」
「第二軍団と第三軍団は事態の発生を確認し次第、王宮へ向かわせる」
「承知しました」
「戦闘が始まったら、できるだけ早くヴィクトリアの陰謀を暴露する」
「了解しました」
「そして、カヴィーレスターン軍三千へ使者を送る」
「はい」
「こちらへ引き込む」
全員が頷いた。
「できるだけ中央軍の損害を抑える。戦う必要のない者まで戦わせない」
俺は最後に、静かに言った。
「この内乱の目的は、敵を皆殺しにすることじゃない」
窓の外を見る。
春は近い。
「この国を、内乱の後も残すことだ」
会議が終わる。
全員がそれぞれの準備へ向かっていく。
最後に部屋へ残った俺は、机の上の暗号文を見つめた。
卒業式前に告発すれば、計画を変えられる。
だが、証拠が足りない。
そして、告発しても内乱を止められる保証はない。
ならば。
内乱が始まった瞬間に、全てを暴露する。
敵軍の兵士へ。
貴族へ。
王族へ。
そして国民へ。
ヴィクトリアが何をしようとしているのかを明らかにする。
その上で、戦う必要のない兵士には降伏する機会を与える。
カヴィーレスターン軍には、こちらへ寝返る道を示す。
そして、本当に王国を裏切った者だけを処分する。
「……これなら」
俺は小さく呟いた。
王宮を戦場にすることは避けられない。
だが。
その戦場で失われる命は、減らせる。
俺はそう信じていた。
そして。
そのための準備を、今日から始める。
卒業式まで。
あと二週間。




