第36話 殲滅
理不尽な無双要素あるかも... 誠に遺憾であります。
本作は後からの作者の修正がかなり多いため違和感を感じることも多いかと思いますが、どうぞこれからもよろしくお願いします。
俺の木剣とアウルスの木剣が激しくぶつかり合った。本陣の中央で響いた衝撃音に、周囲の生徒たちが一瞬だけこちらへ視線を向ける。しかし、戦いそのものが止まるわけではない。第一王子派本陣護衛部隊十人とアウルス隊の残り十五人が、それぞれの隊列を維持しながら激しく攻防を繰り返している。その誰もが、目の前の相手を倒して本陣の優位を確保しようとしていた。
その中でも、アウルスは明らかに奮戦していた。コリウス隊を突破してここまで来た勢いを失わず、俺との距離を詰めては木剣を振り抜き、受け止められればすぐに次の一撃へ移る。以前の彼なら、勢いのまま単純に攻撃を繰り返していたかもしれない。だが、今は違う。一撃ごとに俺の足の位置を確認し、こちらが動けば追い、俺が踏み込めば僅かに角度を変える。コリウスを突破しただけではない。アウルス自身も、この短い時間の中で確かに成長していた。
「レノ殿下!」
アウルスが踏み込む。木剣が横薙ぎに迫り、俺はそれを受け流した。続けざまに下から振り上げられた一撃を、今度は木剣を立てて止める。アウルスはそこで止まらない。身体を回転させながら距離を詰め、さらに一撃。しかし、その全てが俺には見えていた。
俺はまだ。
魔法を使っていない。
身体強化魔術すら、通常の上級身体強化魔術に切り替えていない。武具も同じだ。俺が使っているのは、他の学院生たちと同じ通常の身体強化魔術と武具強化魔術だけ。すでに戦場へ出ている者たちは全員がそれらを行使しており、身体は属性ごとの魔力に包まれ、手にした武器も強化された状態になっている。それでも。
アウルスの攻撃は。
俺には遅かった。
「……まだです!」
アウルスが再び踏み込む。
「まだ、終わっていません!」
俺は。
その一撃を真正面から受け止めた。
ガキィンッ!
木剣が激しくぶつかる。
アウルスの身体が僅かに浮くほどの衝撃が伝わった。
「――っ!」
アウルスの表情が変わる。
力比べでは。
俺の方が上だった。
俺はそのまま木剣を押し返し、一歩踏み込む。アウルスが後退する。さらに一歩。アウルスが横へ逃げようとする。俺はその動きを読んで先回りし、木剣を振るう。
アウルスは辛うじて受け止めた。
だが。
その腕が大きく弾かれる。
「くっ……!」
俺は間を与えない。
上から。
横から。
正面から。
必要な場所へ。
必要な速度で。
木剣を打ち込む。
アウルスは必死に防ぐ。攻撃を受け止め、かわし、時には一歩下がりながらも何とか食らいついてくる。その姿には、さっきまでコリウス隊を突破してきた勢いがまだ残っていた。
それでも。
差は。
埋まらない。
◆
「はぁっ!」
アウルスが渾身の一撃を放つ。
俺は身体を僅かに逸らしてかわし、そのまま相手の懐へ入った。木剣の柄を利用してアウルスの攻撃線を外し、横から一撃を叩き込む。
アウルスの身体が大きく揺れた。
「……っ」
それでも倒れない。
踏みとどまる。
木剣を構え直す。
「まだ……戦えます」
「分かっている」
俺は静かに答えた。
「だから、ここで終わらせる」
「……!」
アウルスの目が見開かれる。
俺は一度だけ距離を取った。
そして。
「強化を切り替える」
そう命令した瞬間、
周囲の護衛兵たちが僅かにこちらを見る。
俺は両手の力を抜き、魔力を集中させる。
そして周囲の護衛も戦闘を行いながら詠唱を行う。
この命令が伝わった瞬間、集団詠唱が始まる。
集団詠唱魔術『武装』
それは、10人以上で同時に一つの詠唱を行うことで
本人にとって最上位の威力の
威圧・身体強化魔術・武具強化魔術を同時に発動を可能にする魔術である。
魔術は上級と普通の2種類に分かれているが、
その2段階の絶対的な違い以外は魔術の威力に個人差がある
『アエテリアの大地に祝福をもたらす氷雪の女神よ。
哀れにも神の御力に縋る我らに神の祝福を与えたまえ。
我らが願うは『武装』の祝福。
我らが祈りを聞き届け、
御身が祝福を与えたまえ。』
その詠唱とともに地面に大きな円形の魔法陣が広がる。
そして、護衛兵たちとその武具を碧みがかった水色の光が包む。
俺の魔力が集団詠唱に影響を及ぼしたのだ。
そして__
詠唱に呼応するように、身体と木剣を包む魔力が一気に変化した。
今まで全員が使用していた通常の身体強化魔術と武具強化魔術とは明らかに異なる。俺の全身を包んでいた魔力がさらに濃くなり、武器を覆っていた魔力も密度を増していく。
周囲の護衛兵と俺の身体能力と木剣の強度が。
一段。
いや。
数段上がった。
アウルスが息を呑む。
「……それが」
「ここから先は」
俺は木剣を構えた。
「私の領分だ」
次の瞬間。
俺の姿が。
アウルスの視界から消えた。
◆
「――っ!」
アウルスが反応する。
だが。
遅い。
俺は一瞬で距離を詰め、木剣を振り抜いた。
ガキィンッ!
アウルスの木剣が弾かれる。
「な……!」
アウルスが驚愕する。
次の一撃。
その次。
さらに一撃。
俺は一切の無駄を入れず、アウルスの防御を一つずつ崩していく。
アウルスは必死に耐えている。
身体強化魔術も。
武具強化魔術も。
すでに使っている。
彼の能力が低いわけではない。
むしろ。
さっきコリウスを倒したことで証明したように、学院生の中では十分に高い。
それでも。
今の俺とは。
比べるまでもなかった。
「うおおおおっ!」
アウルスが叫び、正面から突っ込んでくる。
俺は。
避けなかった。
正面から。
受けた。
そして。
そのまま押し切る。
「ぐっ……!」
アウルスの身体が後ろへ流れる。
俺は一歩踏み込み。
木剣を横へ薙いだ。
アウルスの木剣が大きく弾かれた。
続けて。
肩口へ一撃。
そして。
胴へ一撃。
最後に。
足元を払う。
アウルスの体勢が崩れた。
「――っ!」
俺は最後の一撃を。
胸元へ叩き込んだ。
大きな衝撃。
アウルスの身体が後方へ倒れる。
「アウルス、戦闘不能!」
教官の声が響いた。
アウルスは。
地面に倒れたまま。
しばらく動かなかった。
やがて。
悔しそうに目を閉じる。
「お見事です...」
俺は。
木剣を下ろした。
「よく戦った。成長したな。」
それだけ言って。
俺は。
次へ視線を向けた。
◆
だが。
戦いは。
まだ終わっていない。
アウルス隊の残り七人が。
俺を見た。
その表情には明らかな動揺がある。
自分たちの指揮官が。
第一王子本人に。
一方的に敗れた。
普通なら。
ここで降参することもできるだろう。
だが。
彼らは。
武器を構えた。
「……来るか」
俺は静かに構え直した。
七人。
こちらの護衛部隊は。
すでに倒れている。
周囲を見渡せば。
十人いた第一王子派の護衛兵は。
全員。
戦闘不能になっていた。上級、中級貴族のボンボンにしてはよくやった方だ。
一方。
アウルス隊は。
十五人から。
アウルスを含めて八人が脱落。
残っているのは。
七人。
人数で言えば。
今は。
七対一。
だが。
俺は。
退かなかった。
「七人で私を倒せると思うのなら、来るといい」
七人が。
一斉に踏み込む。
◆
最初の一人。
木剣を振り下ろしてくる。
俺は横へ避け。
そのまま腕へ一撃。
「戦闘不能!」
次。
二人が左右から来る。
俺は片方の攻撃を受け流し、もう一人の攻撃を木剣で弾く。そのまま一人の胸元へ一撃を入れ、振り返りざまにもう一人の肩へ木剣を当てる。
二人。
脱落。
残り四人。
正面から三人が来る。
俺は。
一歩だけ前へ出た。
木剣が交差する。
一人。
二人。
三人。
それぞれの攻撃を受け流し、動きを止める。
最後の一人が。
背後から迫る。
俺は振り向かない。
足音だけで。
位置が分かる。
身体を半歩だけずらし。
振り向きざまに木剣を振る。
その一撃が。
相手の胸へ入った。
「戦闘不能!」
最後の一人が倒れる。
その場に。
立っているのは。
俺だけだった。
◆
周囲が。
静まり返った。
第一王子派本陣の護衛兵十人は。
全員脱落。
アウルス隊も。
アウルスを含めて。
全員脱落した。
つまり。
この場所で。
第二王子派の本陣突撃部隊は。
完全に消滅した。
俺は。
木剣を下ろす。
周囲を見る。
中央ではまだエドが戦線を維持している。
左翼では戦闘が続いている。
そして。
左翼を抜けたティアとエリシア率いる女性隊は。
すでに第二王子派本陣へ向かっている。
俺は。
そこでようやく。
小さく息を吐いた。
アウルスは強くなった。
コリウスを倒した戦術も。
本陣への突撃も。
見事だった。
だから。
彼の成長は認める。
だが。
それと。
勝敗は別だ。
俺は。
魔法すら使っていない。
使ったのは。
上級身体強化魔術。
上級武具強化魔術。
そして。
その二つを同時に発動し、周囲にも影響を与える
集団詠唱 「武装」。
それだけだった。
俺にとって。
今の戦場は。
まだ。
魔法を使うほどの場所ではない。
俺は第二王子派本陣の方向へ目を向ける。
ティア。
エリシア。
女性隊。
そして。
その先にいる。
第二王子派の本陣。
「……次は、あちらか」
俺は。
静かに歩き出した。
戦いは。
まだ。
終わっていなかった。




