第12話 アンティクイランド王国軍
8月9日~8月11日午前までにこの作品を読んで頂いた方にご連絡です。チャットGPTを直接使用することで、大幅に文章構成を修正しました。ご確認いただければストーリーがわかりやすくなると思いますので、任意で再度ご確認ください。
今日もセドリックが第一王子宮を訪れた。
「本日は武術訓練に向けて、まずはアンティクイランド王国軍について学んでいただきます」
俺は頷いた。
「分かった」
武術訓練。
いよいよ剣を握ることになるらしい。
とはいえ、俺はまだ五歳だ。
いきなり本物の剣を振り回すことはないだろう。
……たぶん。
「では、早速始めさせていただきます」
セドリックは手元の資料を開いた。
「まず、アンティクイランド王国軍は大きく二種類に分けることができます」
「二種類?」
「はい。各領地の貴族が率いる諸侯軍。そして、国王陛下が直接統帥する中央軍です」
なるほど。
王国軍といっても、一つの軍隊として完全に統合されているわけではないらしい。
「まずは諸侯軍から説明いたします」
セドリックが続ける。
「平時、各領主は自身の領地収入によって兵士や騎士を維持しております。これが諸侯軍の基礎戦力です」
「私兵……ということか?」
「正確には、領主が保有する常備兵力です」
なるほど。
完全な私兵というより、領主が自らの費用で維持している軍隊というわけか。
「戦時には、これに領民から徴募した兵士、傭兵、そして予備役騎士が加わります」
「予備役騎士?」
「普段は文官などとして勤務している騎士です。戦時には召集され、領主軍の指揮官や重装騎兵として運用されます」
平時は文官。
戦時には軍人。
現代風に言えば、予備役制度に近いのだろう。
俺がそんなことを考えている間にも、セドリックは説明を続けていく。
「現在、国内最大規模の諸侯軍を保有しているのが、ガルディシア伯爵家です」
資料に目を落とす。
「平時は五百六十人。戦時には千六百二十人まで増員されます」
「……確か、第二王妃殿下のご実家だったよな」
「はい。第二王子派の中心勢力です」
やはりか。
最近、政治について学ぶ機会が増えたせいか、こうした名前にも自然と意味がついてくる。
「また、海峡を支配しているため海軍力も強大です。そのため、単一の諸侯家としては国内最大の軍事力を有しています」
ガルディシア伯爵家。
第二王子派の中心。
そして海峡を押さえる軍事貴族。
覚えておいた方がよさそうだ。
「その他の伯爵家は二家。一家あたり平時二百二十四人、戦時には六百四十八人です」
「子爵家は十家あり、一家あたり平時百十二人、戦時には三百二十四人となります」
ここまでは分かりやすい。
爵位が高いほど、基本的には保有できる兵力も大きい。
だが――。
「男爵家については二種類あります」
「二種類?」
「はい。領地規模によって編制が異なります」
セドリックが別の資料を開いた。
「まず、十五家ある男爵家A。平時は三十三人、戦時には百五十人です」
「内訳は常備兵二十人、常備騎士七人、予備役騎士六人。戦時には、これに民兵百十七人が加わります」
「次に、十五家ある男爵家B。平時は三十二人、戦時には百四十人です」
「内訳は常備兵二十人、常備騎士六人、予備役騎士六人。戦時には民兵百八人が加わります」
俺は資料を眺めた。
……なるほど。
爵位だけではない。
領地の規模によっても軍事力が変わるのか。
「これらを合計すると――」
セドリックが表を指差した。
「諸侯軍は、平時で三千百三人」
「戦時には一万五百六人となります」
「……一万人超えか」
思わず呟く。
「はい。平時の三倍以上となります」
一万人。
四ヶ国に囲まれた緩衝国家が動員できる兵力として考えると、かなりの規模だ。
ただし――。
この数字は、あくまで動員可能な人数。
実際に戦場へ投入できる兵力は、もっと少なくなるだろう。
補給。
輸送。
装備。
食料。
そして領地の防衛。
軍隊は人数だけで戦うものではない。
前世で歴史を調べていた頃にも、似たようなことを何度も見た。
「では、次に中央軍について説明いたします」
セドリックは資料をめくった。
「中央軍は五個軍団、合計三千人で編成されています」
五個軍団で三千人。
「第一軍団は千人。アトラシート伯爵が指揮を執ります」
「残る四個軍団は、それぞれ五百人です」
「第一軍団だけ多いんだな」
「はい。王族の居住区域、王立学院、貴族街などの警備を担当し、王族の護衛も担います」
なるほど。
王都防衛と王族警護を兼ねた精鋭部隊というわけか。
「第一軍団は騎士二百人、兵士八百人で構成されています」
「第二軍団から第五軍団までは、それぞれ騎士百人、兵士四百人です。そして各軍団を、法衣貴族である子爵家四家が一軍団ずつ指揮します」
「貴族が軍団を指揮するのか?」
「はい。王国軍における伝統的な制度です」
俺は少し考える。
中央軍は国王の指揮下にある。
だが、実際の軍団指揮は貴族が担っている。
つまり――。
王国軍は完全な中央集権型ではない。
王家と貴族。
その両方が軍事権力を持つ仕組みになっている。
「なお、第二軍団は海軍を担当します」
「海軍も軍団の一つなのか?」
「本国では、そのように扱われております」
「平時は二個艦隊、合計八隻。一個艦隊につき四隻です」
「戦時には商船なども徴用し、三個艦隊、合計三十隻まで増強されます」
三十隻。
俺は少し驚いた。
この国は四ヶ国に囲まれた緩衝国家だ。
それなのに海軍までかなり整備されている。
しかもガルディシア伯爵家も海軍力が強い。
……この国、思っていた以上に海を重視しているのか?
「戦時には中央軍も増員されます」
セドリックの説明が続く。
「第一軍団には予備騎士六百人のうち二百人が増員され、さらに志願兵千人が招集されます」
「第二軍団から第五軍団には、それぞれ予備騎士百人と志願兵五百人が増員されます」
「これにより、中央軍は戦時には約六千六百人まで増強されます」
平時の三千人から六千六百人。
二倍以上だ。
「諸侯軍と合わせれば?」
俺が尋ねる。
セドリックは即答した。
「戦時の王国全体の兵力は、約一万七千百人となります」
「一万七千……」
思わず呟いた。
かなりの兵力だ。
だが――。
「これだけの兵士を、誰が指揮するんだ?」
軍隊が大きくなれば、それだけ指揮系統も重要になる。
するとセドリックが頷いた。
「そのために、王国軍には明確な階級制度がございます」
「まず平民の場合、通常は入隊後三年間、王国下級兵として訓練を受けます」
「その後、王国軍団兵へ昇格します」
「さらに功績によって、王国上級兵へ。そして、その上には十名規模を率いる王国分隊長、百名規模を率いる王国部隊長が存在します」
「なるほど」
実力次第では、平民でも部隊を率いることができる。
「一方、平民で王立士官学校を卒業した者は、王国軍団兵から入隊できます」
「騎士の場合は、王国騎士から始まり、王国上級騎士、王国騎士分隊長へと昇格します」
「貴族の場合は?」
「貴族は少々特殊です」
セドリックは資料をめくる。
「十歳から十五歳までの五年間、王立貴族学院で学びます」
「その後、十五歳から十八歳までの三年間、王立士官学校へ進学します」
「卒業すれば、十八歳から王国騎士として入団することができます」
「家計上、王立貴族学院への入学が難しい場合は、十歳から十五歳まで王国騎士見習いとして勤務し、その後、王立士官学校へ進学します」
「卒業後は王国上級兵として入隊できます」
「王立士官学校って、平民も入れるのか?」
「はい」
セドリックは頷いた。
「平民と貴族、双方に門戸が開かれております」
「十五歳から十八歳までの三年間。全寮制の共学校で、総定員は九百人。一学年三百人です」
平民と貴族が同じ学校で学ぶ。
それは少し意外だった。
「身分に関係なく?」
「はい。もちろん入学試験はございます。しかし、王立貴族学院とは異なり、身分によって門戸を閉ざす制度ではありません」
俺は腕を組んだ。
……かなりしっかりしている。
平民。
貴族。
騎士。
予備役。
諸侯軍。
中央軍。
王立貴族学院。
王立士官学校。
一見すると複雑だが、それぞれに役割が定められている。
そして、俺はふと気づいた。
「……これって」
「はい?」
「王国軍って、かなり貴族に依存しているんだな」
セドリックが僅かに目を見開いた。
「その通りでございます」
「中央軍の軍団長も貴族。諸侯軍も貴族が保有している」
「はい」
「つまり、国王が命令したからといって、すべての兵士が自由に動かせるわけじゃない」
「……その通りです」
セドリックは少しだけ感心したように頷いた。
「よくお気づきになりました」
俺は資料を見る。
これは重要だ。
軍隊の人数だけではなく――
誰が、その軍隊を動かせるのか。
そこまで考えなければ、軍事力なんて数字には意味がない。
「そして、法衣貴族の子爵家が中央軍の軍団を一つずつ握っている」
「はい」
「……なるほど」
俺は小さく呟いた。
今まで政治の話ばかり聞いてきた。
だが、政治と軍事は別々ではない。
どの貴族がどの軍団を握っているのか。
どの家がどれだけの兵力を動かせるのか。
誰が王家に忠実なのか。
誰が第二王子派なのか。
それを知れば――。
派閥の本当の力が見えてくる。
「面白いな」
思わず口に出た。
「……面白い、ですか?」
セドリックが少し驚いた顔をする。
「うん」
俺は頷いた。
前世では歴史が好きだった。
特に、国家がどのような制度で動いているのかを調べるのが好きだった。
まさか異世界に転生してまで、軍制について学ぶことになるとは思わなかったが。
「それで?」
「はい?」
「まだ続きがあるんだろ?」
セドリックが苦笑する。
「……ございます」
「じゃあ、聞かせて」
どうやら今日の授業は、まだまだ終わりそうにない。
俺は資料へ視線を落とした。
――この国の軍制は、俺が思っていた以上に複雑だった。
そして。
それを理解することは、王位継承争いを生き抜くためにも必要なことなのだろう。
政治だけでは足りない。
貴族の派閥だけでも足りない。
王国を動かすのは、人間だ。
そして、その人間の背後には――。
軍隊がある。
俺は次の資料へ手を伸ばした。
「続けてくれ」
「承知いたしました、殿下」
こうして俺は、王子としての武術訓練を始める前に――
まず、自分が将来率いることになるかもしれない軍隊について学ぶことになった。




