幕間 ガルディシア伯爵邸にて
社交界が終わった、その夜。
王宮は静まり返っていた。
昼間の喧騒が嘘のように消え、廊下を照らす燭台の炎だけが、静かに揺れている。
その一室に、二人の男女が向かい合っていた。
「お久しぶりです。お兄様」
紫色の髪と漆黒の瞳を持つ、大柄な女性。
第二王妃、ヴィクトリア・ゲンス・デイ・アンティクイランド。
対面に座る男は、ガルディシア伯爵プロディトル・デイ・ガルディシア。
海峡と補給港、周辺都市を支配し、カヴィーレスターン・スルタン国との国交を一手に担う、この国でも屈指の大貴族である。
「ふむ。久しいな」
短い返答。
ヴィクトリアは席に腰を下ろした。
本来ならば、王妃がわざわざ足を運ぶような相手ではない。
それでも彼女はここへ来た。
それだけ、確認しなければならないことがあった。
「それで……返答は?」
プロディトルは懐から一通の封書を取り出した。
封蝋には、見慣れない紋章が刻まれている。
「皇帝陛下からだ」
ヴィクトリアの瞳が僅かに細くなる。
プロディトルは封を切り、淡々と読み上げた。
「――そなたらが『灼熱竜の僕』へ戻ることを歓迎する。次の計画、第一段階通りに進めよ」
「……第一段階」
ヴィクトリアが呟く。
「何をするのです?」
プロディトルは手紙から目を離した。
そして、何の感情もない声で告げる。
「第一王子のお披露目の際、王弟殿下の子らを使い、家督継承争いを起こせ」
ヴィクトリアは黙って聞いていた。
「それと同時に――」
一拍。
プロディトルの口元が、僅かに歪んだ。
「第一王妃を暗殺せよ」




