表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷の奇公子 ~変人王子の生存術~  作者: 佐藤湊
第3章 第二王妃ヴィクトリア
129/309

第7話 爆弾投下

ロリコンのロリウス~

これをまた派閥争いに持っていきます!

もう恋愛シーン何度書いた?

砂糖、何度吐いた?

 冬。


 王都レクィエリアを冷たい風が吹き抜ける頃。


 王立貴族学院では、冬の恒例行事である学院社交界が始まった。


 大広間には華やかな装飾が施され、壁際には料理や菓子、果物を並べた卓が用意されている。楽団が奏でる音楽に合わせて、学院生たちはそれぞれの家格や立場に相応しい礼装を身にまとい、思い思いに談笑していた。


 この場もまた、貴族社会の縮図だった。


 誰が誰と話しているのか。


 どの家がどちらの派閥へ傾いているのか。


 誰がどの令嬢と親しくしているのか。


 表向きは華やかな社交の場。


 しかし、その裏では。


 常に政治が動いている。


              ◆


「では、次の曲を」


 楽団の演奏が始まる。


 俺はティアへ手を差し出した。


「踊ろうか、ティア」


「うん」


 公の場だ。


 だから、互いに王族として振る舞わなければならない。


「グラーティア殿下」


「はい、レノウィウス殿下」


 手を取り合い、二人で大広間の中央へ進む。


 周囲から、すぐに小さなざわめきが起こった。


「やっぱり、お二人ですわね」


「本当にお似合いですわ」


「同盟国の王子と王女ですもの」


「例の恋物語の続きですわね」


 もう。


 すっかり定番になってしまった。


 俺たちが一緒にいるだけで、勝手に物語が作られていく。


「……また見られてるな」


 踊りながら、小声で言う。


「仕方ないよ」


 ティアも小さく笑う。


「今や私たち、学院の名物みたいなものだから」


「誰が名物だよ」


「ふふ」


 そう言いながらも。


 ティアの表情はどこか楽しそうだった。


              ◆


 曲が終わる。


 俺たちは人の少ない場所へ移動した。


 そこへ。


「殿下」


 カイがやってきた。


「どうした?」


「少しお話が」


「何だ?」


 カイは周囲を気にしながら、小さく息を吐いた。


「実は」


「まだ私のダンスパートナーが決まっておりません」


「……まだなのか?」


「はい」


 カイは困ったように笑う。


 カイは来年には五年生になる。


 さらに。


 将来の次期軍務卿として有力視されている男だ。


 本来なら。


 社交界で相手が見つからない方がおかしい。


「何でだ?」


「それが……」


 カイは少し遠い目をした。


「皆さん、私を『王族カップルのお助け役A』のように認識しているらしく」


「……」


 俺は言葉を失った。


「何だ、それ」


「私にも分かりません」


「どういう意味なんだ?」


「レノウィウス殿下とグラーティア殿下の仲を陰から支える役目だと思われているようです」


「だから私に近づくと、殿下方の邪魔になると」


「……」


 ティアが口元を押さえている。


「笑うな、ティア」


「だって……」


「カイも大変だな」


「殿下のせいでもありますからね」


「……それは否定できない」


 学院中に広まった「恋物語」。


 そのせいで。


 カイまで、その物語の脇役扱いされているらしい。


 本人には。


 迷惑な話である。


              ◆


 そんな時だった。


 大広間の中央付近で。


 妙なざわめきが起こった。


「何だ?」


 俺が振り返る。


 人が集まっている。


 その中心に。


 一人の少年が立っていた。


 ロリウス・ゲンス・デイ・カシウス。


 王弟の三男。


 王家の分家にあたるため、ゲンスの名を名乗ることが許されている。


 その向かいには。


 一人の少女が立っていた。


 エクウス伯爵家長女。


 イザベラ・デイ・エクウス。


 今年学院へ入学したばかりの一年生だ。


 優しそうな顔立ち。


 柔らかな雰囲気。


 整った顔に浮かぶ表情も穏やかで、とても「悪役令嬢」という言葉から連想するような少女には見えない。


 ……いや。


 そもそも。


 俺の周囲では最近。


 名前と顔が一致しない人間が妙に多くないか?


 悪役令嬢みたいな名前なのに。


 本人はどう見ても善良そう。


 逆に。


 強そうな名前の男が大人しかったりする。


 ……この国の女子って。


 こんなのばっかなのか?


              ◆


「イザベラ・デイ・エクウス」


 ロリウスが呼ぶ。


「……はい」


 イザベラは不安そうに返事をした。


「何でしょうか、ロリウス様」


 周囲には。


 すでにかなりの人数が集まっている。


 誰もが、何が始まるのかと様子を見ていた。


 そして。


 ロリウスは。


 大勢の前で。


 声を張り上げた。


「イザベラ・デイ・エクウス」


「貴様との婚約を破棄する!」


「……」


 大広間が。


 完全に静まり返った。


              ◆


「……え?」


 最初に声を漏らしたのは、イザベラだった。


 目を丸くする。


「……私?」


「そうだ」


 ロリウスは腕を組む。


「貴様との婚約は、今日をもって破棄する!」


「どうして……?」


 イザベラの声は震えている。


「私、何か悪いことをしましたか?」


「それは……」


 ロリウスが言葉に詰まる。


「とにかく、破棄だ!」


「……」


 イザベラの目に、涙が浮かぶ。


 周囲から、ざわめきが広がっていく。


              ◆


 俺はその光景を見ながら。


 思わず心の中で呟いた。


 ……え?


 悪役令嬢って婚約破棄される側なのか?


 いや。


 そもそも。


 目の前のイザベラは。


 どう見ても悪役令嬢には見えない。


 むしろ。


 突然婚約破棄を言い渡されて、困っているだけの普通の令嬢だ。


 最近。


 名前と顔が矛盾している人が多すぎないか?


 この国の女子って。


 本当にこんなのばっかなのか?


 俺が妙なことを考えている間にも。


 周囲では、事情を知る者たちが小声で話し始めていた。


              ◆


「理由、聞いた?」


「うん」


「ロリウス様、最近第二王子派に加わったでしょう?」


「そうみたいね」


「それで」


 少女の声が低くなる。


「エクウス伯爵家が、第一王子派へ寝返ったことを気に入らなかったらしいわ」


「え?」


「だから、イザベラ様との婚約を破棄したって」


「そんな……」


「家同士の派閥が変わったからって、婚約者本人を切るの?」


「そういうことらしい」


「でも」


 別の令嬢が呆れたように言う。


「それって、イザベラ様本人には何の関係もありませんわよね」


「そうよ」


「完全に八つ当たりじゃない」


「……」


 俺は小さく息を吐く。


 やはり。


 恋愛感情が原因ではない。


 派閥争い。


 あの馬鹿三男!爆弾投下しやがって


              ◆


「……ロリウス様」


 イザベラが、おそるおそる口を開いた。


「父が第一王子派になったことが理由なのですか?」


「……」


「でしたら」


 イザベラは涙を堪えながら続ける。


「それは、私にはどうすることもできません」


「家の判断に、私一人で逆らうことなんて……」


「……」


「それなのに」


 声が震える。


「どうして、私まで……」


 周囲から同情の視線が集まる。


 ロリウスは。


 何も言えない。


 そこへ。


              ◆


「ロリウス」


 低い声が響いた。


 人垣が割れる。


 現れたのは。


 第二王子ルキウス・ゲンス・デイ・アンティクイランド。


 普段は穏やかな青年だ。


 だが。


 今は明らかに機嫌が悪い。


「第二王子殿下……」


 ロリウスが顔を強張らせる。


 ルキウスは周囲を見る。


 それから。


「今のは何だ?」


「……」


「婚約破棄?」


「はい」


「なぜだ?」


 ロリウスは答えない。


「答えろ」


 声が低くなる。


「エクウス伯爵家が第一王子派へ加わったからか?」


「……」


 沈黙。


 それだけで。


 ルキウスには十分だった。


              ◆


「馬鹿なことをするな」


 ルキウスが言った。


「第二王子派に加わったばかりのお前が、一体何を考えている?」


「ですが……」


「家同士の派閥が変わったからといって、婚約者を公衆の面前で辱める理由にはならない」


「それで第二王子派に何の利益がある?」


「……」


「エクウス伯爵家を、完全に第一王子派へ固定するだけだ」


「それどころか」


 ルキウスは周囲を見る。


「今この場で起きたことは、学院中に広まる」


「そうなれば」


「第一王子派は、婚約者を一方的に切り捨てた第二王子派を批判するだろう」


「結果として、こちらの損になる」


 ロリウスは。


 俯いた。


「……申し訳ありません」


「謝る相手は俺じゃない」


 ルキウスがイザベラを見る。


「まず彼女に謝れ」


「……」


 ロリウスは、しばらく動けなかった。


              ◆


 ルキウスはイザベラへ向き直る。


「エクウス伯爵令嬢」


「……はい」


「今日のところは、もう戻りなさい」


「ですが……」


「ここは俺が処理する」


 イザベラは少し戸惑いながらも、一礼した。


「……ありがとうございます、第二王子殿下」


 ルキウスは頷く。


「顔を上げて帰れ」


 イザベラは小さく頭を下げ。


 人混みの中を抜けていった。


              ◆


 俺はその様子を眺めていた。


 隣ではティアも、静かにイザベラの背中を見送っている。


「……大変なことになったね」


 ティアが小さく呟く。


「ああ」


「こんなところで婚約破棄なんて……」


「俺にも理解できない」


 ティアが苦笑する。


「学校って、こんなに色々起きる場所だった?」


「知らん!でも婚約破棄イベントって学園ものの定番だろ

 でもこの作品ってオリジナル戦記のつもりなんだけど。おかしいな。」


 その横で。


 カイがため息をついた。


「今年は特に、派閥争いが激しいですからね」


「でも」


 ティアが言う。


「これはさすがに、やりすぎじゃない?」


「ああ」


 俺は頷く。


              ◆


 大広間では。


 もう噂が広がり始めていた。


「第二王子派のロリウス様が、エクウス伯爵家の令嬢との婚約を破棄したらしい」


「第一王子派へ寝返ったからだって」


「令嬢本人は何もしていないのに?」


「そうらしい」


「それは第二王子派にとって、かなりまずいんじゃない?」


 冬の学院社交界に落ちた。


 たった一つの爆弾。


 しかも。


 それは。


 ただの婚約破棄ではない。


 第一王子派へ移ったエクウス伯爵家。


 第二王子派へ加わったロリウス。


 その両者を結んでいた婚約。


 そして。


 それを公衆の面前で一方的に切った。


 派閥争いそのものが。


 学院の社交場へ。


 目に見える形で持ち込まれた瞬間だった。


              ◆


 ルキウスはロリウスを連れて、大広間を出ていく。


 その背中を見ながら。


 俺は考えていた。


「……ルキウスも大変だな」


 ティアがこちらを見る。


「でも」


「何だ?」


「今の第二王子殿下、かなり怒ってたよ」


「ああ」


「派閥のためを考えるなら、当然だろうな」


「うん」


 俺は大広間を見渡す。


 華やかな衣装。


 音楽。


 料理。


 笑い声。


 その中で。


 一つの婚約が。


 派閥争いによって壊れようとしている。


 貴族社会とは。


 本当に面倒な場所だ。


 そして。


 その面倒な争いは。


 まだ。


 始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ