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第十七話「カラハルジトの死闘」


両軍の兵力を記す。

ケレイト軍。総兵力四万二千。中核はケレイト重騎兵一万。革と鉄を合わせた鎧で全身を覆い、長槍と曲刀を装備する。馬も胸甲きょうこうをつけた重装だ。正面突破力では草原最強と言っていい。これにセングム直属の軽騎兵一万二千、ケレイト傘下の諸部族から集めた兵二万が加わる。指揮はセングムがり、トグリル・ハンは本営で控える。

テムジン軍。総兵力二万一千。ムカリの中央軍八千。カサルの弓隊五千。ボオルチュの快速騎兵四千。ジェルメの護衛精鋭千。チラウンの斥候・伝令部隊三千。全軍が十進法で編成され、混成訓練を経た部隊だ。

数は倍。しかも相手の中核はケレイト重騎兵。正面からぶつかれば、まず勝てない。

だが、正面からぶつかるつもりはなかった。

カラハルジトの砂丘地帯を戦場に選んだのは、俺だ。

オノン河の西方に広がる起伏の多い砂地で、砂丘と草地が交互に続く。重騎兵には不利な地形だ。砂地では馬の脚が沈む。重い鎧をつけた馬ほど沈む。一方で軽騎兵は身軽だから、砂地でも速度を維持できる。

地形で重騎兵の優位を殺す。十三翼と同じ発想だが、今度はもっと徹底する。

「敵の強さを正面から受けるな。強さを使えない場所に引き込め」

ムカリにそう指示した。

布陣は以下の通り。

中央にムカリの八千。砂丘の稜線に沿って横に広く薄く展開し、正面を大きく見せる。実際の兵力より多く見えるように、替え馬を兵の間に配置して影を増やした。

左翼にカサルの弓隊五千。砂丘の裏に伏せる。敵からは見えない位置。合図で砂丘の頂上に上がり、高所から矢を撃ち下ろす。

右翼にボオルチュの快速騎兵四千。戦場から五キロ離れた丘の裏に待機。開戦後、敵の側面か背後に回り込むための遊撃隊。

俺とジェルメの護衛千は、中央後方の砂丘の上。指揮所だ。ここから戦場全体を見渡す。

チラウンの三千は全域に散開。ヤムの中継点を六箇所設置して、戦場の情報をリアルタイムで俺に届ける。

初日。

朝靄の中、ケレイト軍が姿を現した。

地平線を埋め尽くす軍勢。四万二千。砂塵が空を茶色に染めている。

先頭にケレイト重騎兵の隊列が見えた。鉄と革の鎧が朝日を反射して、鈍い光の帯になっている。その後ろにセングムの軽騎兵。さらに後方に諸部族の兵。

壮観だったが、恐れはなかった。恐れている暇がなかった。

角笛が鳴った。ケレイト軍が前進を開始した。

セングムの指揮は教科書通りだった。重騎兵を先頭に据え、正面から押し潰す。数で倍、質でも上。まともにやれば勝てる。だからまともにやる——単純だが、強者の戦略としては正しい。

ケレイト重騎兵一万が、砂丘地帯に突入してきた。

ここからが勝負だ。

「ムカリ、引け。ゆっくり引け。崩れるな。一歩ずつ退がれ」

ムカリの中央軍が、じりじりと後退を始めた。正面からの突撃を避けて、砂丘の間に誘い込む。

重騎兵が砂地に入った。

馬の脚が沈む。速度が落ちる。重い鎧が足枷あしかせになる。草原の硬い地面なら全速で突撃できるが、砂の上では馬が息切れする。

だが、ケレイト重騎兵は止まらなかった。速度が落ちても、その質量と鎧の厚さは圧倒的だ。遅くても、ぶつかれば軽騎兵は弾き飛ばされる。

ムカリの前線が押され始めた。後退の速度が上がる。

「カサル、まだ待て」

左翼の砂丘の裏で、カサルの五千が身を伏せている。まだ早い。重騎兵が砂丘の間にもっと深く入り込むまで待つ。

ケレイト重騎兵が、二つ目の砂丘を越えた。三つ目に差しかかる。隊列が砂丘の間で細長く伸びている。砂地のせいで隊列を維持できず、先頭と後方の間隔が開いている。

今だ。

「カサル——射て!」

カサルの弓隊五千が、砂丘の頂上に姿を現した。

ケレイト重騎兵の左側面、距離二百歩。ほぼ真横からの射撃位置。

五千本の矢が一斉に放たれた。

側面からの集中射撃が、ケレイト重騎兵の隊列を襲った。

だが——効かない。

矢がケレイト重騎兵の鎧に当たって、弾かれる。乾いた音を立てて、矢が砂の上に落ちる。革と鉄を重ねた鎧は、二百歩の距離からの矢を通さなかった。

「くそ——弾いてる!」

カサルの声が聞こえた。

第二射。第三射。カサルの弓隊は訓練通り、前列と後列が交互に射って途切れない矢の雨を作った。だが鎧に当たった矢は次々と弾かれていく。

それでも、まったく効果がないわけではなかった。鎧の隙間——首元や脇の下、関節の継ぎ目に矢が入った騎兵が落馬する。また、矢を受けた馬が暴れて騎兵を振り落とすこともあった。だが全体として、重騎兵の隊列は崩れていなかった。

五千の矢を浴びせても、倒れたのは数十騎にすぎない。

「効いてない!」

伝令が叫んだ。

正直に言えば、焦った。カサルの弓隊は切り札のはずだった。その切り札が、ケレイト重騎兵の鎧に封じられている。

そしてケレイト重騎兵の一部がカサルの弓隊に向かって方向を変えた。砂丘を登ってくる。

「カサル、退け! 深追いするな!」

カサルの弓隊が砂丘を降りて後退した。追撃してくるケレイト重騎兵は砂丘を登る分、さらに速度が落ちる。弓隊は身軽だから距離を保てる。射っては退き、退いては射つ。

初日の午前は、この攻防の繰り返しだった。

午後、戦況が変わった。

セングムが軽騎兵一万二千を投入してきた。重騎兵が砂地で苦戦しているのを見て、軽騎兵で側面を回り込む判断に切り替えたのだ。

セングムの判断は遅かったが、間違ってはいなかった。一万二千の軽騎兵が砂丘地帯の外側を大きく迂回して、俺たちの右翼に現れた。

「右翼から敵軽騎兵、推定一万以上!」

チラウンの伝令が駆け込んできた。

「ボオルチュは?」

「まだ丘の裏です。合図を待っています」

ボオルチュの四千では一万二千を止められない。数が違いすぎる。

判断を迫られた。

ボオルチュを投入して右翼を支えるか。それとも——

「ボオルチュはまだ動くな。ムカリ、中央を右に寄せて右翼を塞げ」

「中央を動かしたら、正面が薄くなります」

「薄くていい。ケレイト重騎兵は砂地で脚が止まってる。正面からの突撃はしばらく来ない。その間に右を抑える」

ムカリが中央軍を右に旋回させた。伝令一つで八千が方向を変える。十進法の訓練が生きていた。隊列を崩さず、滑らかに動く。

セングムの軽騎兵と、ムカリの中央軍が砂丘地帯の東端でぶつかった。

乱戦になった。

軽騎兵同士の接近戦。馬上で弓を射ち合い、刀を交え、組み打ちになる。砂煙が視界を奪い、号令が聞こえなくなる。

ここで、俺は前に出た。

指揮所の砂丘を降りて、ジェルメの護衛千を率いて右翼の戦線に入った。

本来、総大将が前線に出るべきじゃない。わかっている。だが、右翼が崩れたら全軍が崩壊する。ここを支えなければ——

「テムジン、下がれ!」

ジェルメが叫んだ。

叫んだ瞬間、首に衝撃が走った。

矢だった。

首の右側に矢が刺さっていた。

痛みは一瞬遅れて来た。熱い。首が熱い。血が鎧の内側を流れるのがわかる。

馬上でよろめいた。手綱から手が離れそうになる。

「テムジン!」

ジェルメが馬を寄せてきた。俺の体を支えた。

「矢を——抜くな。動かすな。このまま後ろに下がる」

ジェルメが俺の馬の手綱を掴んで、後方に引いた。護衛の兵が壁を作って、追撃を阻んだ。

砂丘の裏まで下がった。馬から降ろされた。いや、落ちた。足に力が入らなかった。

視界がぼやける。空が回っている。砂が顔に押しつけられる。

「ジェルメ——」

「喋るな。血が出る」

ジェルメが矢を調べた。矢じりは浅く刺さっていた。首の筋肉を裂いているが、喉笛のどぶえ頸動脈けいどうみゃくには届いていない。

「抜く。噛め」

ジェルメが革の紐を俺の口に押し込んだ。俺は噛んだ。

ジェルメが矢を引き抜いた。

激痛が走った。視界が白くなった。叫び声は革紐に吸い込まれた。

血がき出た。

ジェルメは布で傷口を押さえた。だが血が止まらない。布が見る間に赤く染まる。

「血を吸い出す。毒が塗ってあるかもしれない」

ジェルメは俺の首に口をつけて、傷口の血を吸い始めた。

吸っては吐き、吸っては吐く。血と唾液が砂地を赤く染めた。ジェルメの口元が真っ赤になっていた。

「やめろ——おまえが毒を——」

「黙れ。喋るな」

ジェルメは吸い続けた。

何度も、何度も。

日が暮れて、戦闘が止まった。

草原の戦いは、暗くなれば止まる。夜間戦闘は双方にとって危険すぎる。

ケレイト軍も引いた。初日の結果は、はっきり言えばこちらが押されていた。損害は三千。ケレイト側は推定千五百程度。重騎兵の鎧に矢が通らなかった分、こちらの攻撃が空振りした形だ。

だが数字より問題だったのは、俺が倒れたという事実だった。

総大将が矢を受けて倒れた。この情報が味方に広がれば、士気が崩壊する。

「テムジンが負傷したことは、将以外には伏せろ」

ムカリが命じた。

ジェルメは俺のそばを一晩中離れなかった。

傷口の血を何度も吸い出し、布を替え、水を飲ませた。夜が冷え込むと、自分の外套を脱いで俺にかけた。

「寒くないのか」

「寒くない」

嘘だった。ジェルメの体が震えているのが見えた。

「おまえ……なんで、こんなことする」

「こんなこと?」

「命がけで血を吸うようなこと。毒が入ってたら、おまえが死ぬ」

ジェルメは少し黙った。

「あんたの親父が、俺の親父を助けた。俺の家族が食えるようになったのは、イェスゲイのおかげだ。俺は鍛冶屋の息子で、どこに行っても下に見られた。でもあんたは俺を護衛の長にしてくれた。血筋じゃなく、俺を見てくれた。それだけだ」

「それだけで、命を賭けるのか」

「それだけで十分だ」

ジェルメの声には、飾りがなかった。

俺は目を閉じた。

首が熱い。体が重い。でも、隣にジェルメがいる。ソルカン・シラの時と同じだ。最悪の瞬間に、命を懸けてくれる人間がいる。

俺は恵まれている。死にかけるたびに、そう思う。

二日目。

夜明け前に目を覚ました。

首の痛みはまだあるが、出血は止まっていた。ジェルメが一晩中吸い出し続けてくれたおかげだ。立てる。弓は引けないが、馬には乗れる。指揮はできる。

「水を」

ジェルメが革袋を持ってきた。中身は馬乳だった。

「どこで手に入れた」

「夜中に敵の陣の近くまで行って、繋いであった牝馬めすうまから搾ってきた」

「——おまえ、敵陣に忍び込んだのか」

「あんたに飲ませる水がなかった。馬乳なら栄養もある」

この男は一晩で、俺の血を吸い出し、敵陣に忍び込んで馬乳を搾り、俺のそばを離れず看病した。一睡もしていないはずだ。

「ジェルメ」

「何だ」

「ありがとう」

三回目だ。ソルカン・シラに一回。ボオルチュに一回。そしてジェルメに。俺がこの言葉を口にするのは、命を救われた時だけだ。

ジェルメは何も言わなかった。ただうなずいて、俺に鎧を手渡した。

二日目の作戦を変えた。

夜通し考えていた。首の痛みで眠れなかったのが、かえって良かったのかもしれない。

初日、カサルの弓隊は五千本の矢を浴びせて、数十騎しか倒せなかった。ケレイト重騎兵の鎧が矢を弾いたからだ。正面から射っても、側面から射っても、あの鎧は通らない。

だが——倒れた数十騎のうち、半分以上は矢が「鎧」に当たって落ちたんじゃなかった。馬が暴れたり、矢がたまたま馬に当たったりして落馬した騎兵だ。

騎兵は倒せない。でも馬は倒せる。

馬には胸甲しかない。側面は無防備だ。馬の胴体に矢を集中すれば——

「カサル。今日は弓隊の全矢を馬に集中しろ。騎兵は一切狙うな。馬だけ射ろ」

「馬だけ?」

「昨日、おまえの矢は鎧に全部弾かれた。でも馬に当たった矢は効いていた。だったら最初から全部馬を狙え。馬を射れば、重騎兵はただの歩兵になる。重い鎧を着た歩兵は、砂地では動けない。馬を全部射り殺せ」

カサルの目が光った。昨日の悔しさが、一瞬で闘志に変わった。

「了解。全弓隊に徹底する」

この日の戦いは、馬殺しの戦いだった。

ケレイト重騎兵が再び砂丘地帯に突入してきた。昨日と同じ戦法だ。セングムは正面突破にこだわっている。

カサルの弓隊五千が、砂丘の稜線から一斉射撃を浴びせた。今度は騎兵の胴体ではなく、馬の脚と胴を狙っている。

馬が倒れる。一頭、また一頭。昨日と同じ矢が、昨日と同じ弓から放たれている。違うのは、狙う場所だけだ。たったそれだけの変更で、戦場の景色が一変した。矢を受けた馬が暴れ、隣の馬にぶつかり、連鎖的に隊列が崩れる。

複合弓の矢は、二百歩の距離から馬の革鎧を貫通する。側面からなら胸甲の防護もない。鍛えた腕で引けば、矢は馬の肋骨の間に沈む。

午前中だけで推定千五百頭の馬が射殺された。

落馬した重騎兵は砂の上に転がった。三十キロ以上の鎧を着たまま、砂地で立ち上がるのは困難だ。立ち上がれても走れない。走れない歩兵は的でしかない。

ケレイト重騎兵の突撃力が、目に見えて落ちていった。

「効いてる。もっと射ろ。矢が尽きるまで射ろ」

カサルの弓隊は射ち続けた。矢の規格統一のおかげで、矢が尽きた兵は隣の兵から矢をもらって射ち続けることができた。

二日目の午後、セングムが動きを変えた。重騎兵を引き揚げ、軽騎兵に切り替えた。正面突破をあきらめたのだ。

ここで初めて、ボオルチュを投入した。

「ボオルチュ、右翼から突入。セングムの軽騎兵の側面を叩け」

丘の裏に隠れていた四千の快速騎兵が、一斉に飛び出した。二日間温存していた新鮮な馬で、全力の突撃。

ボオルチュの騎兵がセングムの軽騎兵の側面をえぐった。不意を突かれた軽騎兵が混乱する。ボオルチュ隊は突入しては離脱し、離脱しては再突入する一撃離脱を繰り返した。

日暮れまでに、ケレイト軍は後退した。

二日目の損害。こちらの戦死約千二百。負傷二千。対するケレイト側は推定戦死四千、負傷五千以上。さらに馬の損失が五千頭を超えた。ケレイト重騎兵一万のうち、馬を失った騎兵は七千に達し、無傷で戦闘を続けられる重騎兵はもはや三千を切っていた。

たった一つの発想の転換が、草原最強と謳われた重騎兵を一日で壊滅させた。

三日目。

夜明け前、チラウンの伝令が来た。

「ケレイト陣営に動きがあります。撤退の準備をしている部隊と、まだ戦おうとしている部隊が混在しています」

「トグリル・ハンは?」

「本営にいます。セングムが怒鳴っているのが聞こえたそうです」

ケレイト軍の内部が割れている。書状の効果だ。テムジンと戦いたくない古参の将と、メンツにかけて潰したいセングムとの間で、亀裂が開いている。

「追い打ちをかけるか?」

ムカリが聞いた。

俺は考えた。

こちらも消耗している。二日間で四千以上の損害。残存兵力は約一万七千。まだ戦えるが、三日目の全力攻撃に出れば、たとえ勝っても兵力が半減する。

ケレイト軍はまだ三万以上が残っている。重騎兵は半減したとはいえ、総数では倍近い。追い詰めれば死に物狂いで反撃してくる。

「撤退する」

将たちが驚いた。

「勝ってるのに撤退するのか?」

「勝ってない。引き分けだ。ケレイトの重騎兵を削ったが、総兵力ではまだ向こうが上だ。ここで全力を出して消耗しきったら、ジャムカが後ろから来た時に何も残っていない」

ボオルチュがうなずいた。

「次がある、ってことか」

「そうだ。ケレイトは重騎兵の馬を三千頭失った。これを補充するには数ヶ月かかる。その間に俺たちは態勢を立て直す。次に仕掛ける時は——もっとうまくやる」

三日目の朝、テムジン軍は砂丘地帯から撤退した。

ケレイト軍は追撃しなかった。追撃する余力がなかった。

カラハルジトの三日間の戦果を記す。

テムジン軍。出撃二万一千。戦死四千二百。負傷四千五百。残存戦闘可能兵力、約一万二千。

ケレイト軍。出撃四万二千。戦死五千五百。負傷八千以上。馬の損失五千頭超。ケレイト重騎兵一万のうち、戦闘可能な騎兵は三千を切った。草原最強と呼ばれた鉄騎の七割が、二日目の馬殺し戦術で消えた。

数字だけ見れば、こちらの損害率の方が高い。二万一千のうち四千二百を失った。二割。

だがケレイト側は、取り返しのつかないものを失った。馬は補充に何ヶ月もかかる。訓練された軍馬ならなおさらだ。重騎兵の鎧は無傷でも、乗せる馬がいなければ鉄の塊にすぎない。

ケレイトは無敵ではない。

その噂は、草原中に広がるだろう。

撤退の行軍の中で、俺は馬上から空を見上げた。

首の傷が痛む。ジェルメが巻いてくれた布が血で固まっている。

負けてはいない。だが勝ってもいない。

四千二百人が死んだ。俺の判断で前線に出て、俺が矢を受けて、指揮系統が一時的に混乱した。あの混乱がなければ、初日の損害はもっと抑えられたはずだ。

俺の過ちだ。

総大将が前線に出るべきではなかった。弓を射る快感に引きずられた。まだ俺は、戦士の目と指揮官の目を切り替えられていない。

次は、前に出ない。後ろにいて、鷹の目で戦場を見る。全体を見て、全体を動かす。それが総大将の仕事だ。

ジェルメが横を走っていた。一睡もしていないはずなのに、背筋は伸びている。目は前を向いている。

「ジェルメ」

「何だ」

「おまえのこと、骨に刻んだからな」

ジェルメは少し笑った。初めて見る笑顔だった。

「刻まなくていい。俺はどうせ、あんたのそばにいるだけだ」

風が吹いた。秋の風。冷たくて、乾いていて、血の匂いを運んでいた。

カラハルジトの砂丘が、後方に遠ざかっていく。

戦いは終わっていない。まだ何も終わっていない。

だが——ケレイトの牙は折った。次にぶつかる時は、この牙がない状態で戦える。

次がある。

必ず、次がある。


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