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【28】

挿絵(By みてみん)

「あっ! 向こうから何か来る!」

 シャッターの前に積み上げられたオートマタのうちの一体を観察していたモルが、シャッターの向こうを指差して叫んだ。

佐藤と主任が駆け寄ってきた。遠くに黒い点が見えている。三人が並んで見つめるなか、だんだん近づいて大きくなる。やがてそれは三人の人影だと分かるようになった。モルが佐藤にしがみつくと、佐藤はモルを自分の後ろに庇った。

「三人の死神?」

 佐藤は意外そうな顔で呟いた。

「佐藤さん、違うものを想像していたのですか?」

 主任が不審げに訊いた。佐藤は聞こえないふりをして黙っている。主任もそれ以上は訊かなかった。


 片桐が扉を開けると、そこには異様な空間が広がっていた。不定形の幾何学模様が飛び回り、遠景には世界各地の遺跡がごちゃまぜに見える。エジプトのピラミッドと仁徳天皇陵が並んでいたりする。

「真司、お前には何が見えてる?」

 片桐は右手で開いた扉をそのままに訊いた。

「異世界へ続くみたいな、ヘンテコな……」

 片桐が石井のほうを見ると、石井もうなずいた。

「頭がおかしくなってるのは俺だけじゃなさそうだな」

「どうします?」

 真司が困惑した顔で訊く。片桐も負けないくらい困惑しているが、こういうときに決断するのはプロマネである片桐の役目だ。

「行こう。ここにいてもヤバそうだし。行っても行かなくてもヤベーなら、なんか進展しそうなほうを選ぶ。いいか?」

 片桐の問いに真司も石井もうなずいた。そんな二人に片桐もうなずき返し、部屋の外に足を踏み出した。


「あの三人、死神には見えませんね」

 姿のはっきりしてきた影を見つめながら主任が言った。

「ああ。人間みてえだな」

「あれって、イシイのアパートにいた三人ではありませんか?」

「確かに。あの三人みてえだな」

 佐藤は美咲と寄り添って眠っている健太のところに行った。


「兄ちゃん! 悪いが起きてくれ」

 佐藤の呼びかけに健太は目を覚ました。

「どうしたんですか?」

 健太が頭を動かしたので、美咲も目を覚ました。

「健太さん?」

「ごめん。佐藤さんが何か用があるみたいなんだ」

「分かった。行ってらっしゃい」

 健太は立ち上がり、佐藤に付いてシャッターのところへ行った。佐藤の指差すシャッターの向こうを見ると、三人の男がこちらに向かって歩いてきている。

「あれって……」

「ああ。真司とプロマネと石井だよな」

「なんであの人たちが?」

「分かんねえ。本人たちに訊いてみればいいさ」

 健太はオートマタの山を回り込んでシャッターの下へ行き、三人に向かって呼びかけた。

「真司君! プロマネさん! 石井さん!」

「おおい! アンタは誰だ! なんで俺たちのことを知ってる?」

 その声は片桐だ。

「僕は毎日ニコニコ銀行の田所です。なんであなたたちを知っているのかは、話せば長くなります」

「まあいいや。それでそこは何処なんだ?」

「ここは毎日ニコニコ銀行の宝町支店です」

 それを聞いた三人が駆け出した。そしてすぐにシャッターをくぐって店内に飛び込んできた。

「ふう。まともな世界に出られたみたいだな」

 まだ肩で息をしている片桐が掠れた声で言った。

「どこから来たんですか?」

 健太が尋ねた。息を整えた片桐が答えた。

「この石井のアパートを出たらわけが分からないことになっててよ、でも一本道だったから歩いてきたら、ここへ着いたんだよ」

 片桐が話している横で真司と石井も落ち着いてきたようだ。片桐が話しているあいだ健太をじっと見ていた真司が言った。

「どこかで会ったことがありませんか?」

 健太はうなずいて答えた。

「あります。でも信じてもらえるか……」

「信じられない目に遭ってきたばかりです。突拍子のない話でも今なら信じますよ」

「そうですね。真司君がオーバードーズしたときのパートタイム死神です」

「あっ! じゃあ、あれは夢じゃなかったんですね」

「思い出しましたか」

「はい。だとすると、このわけが分からないのも冥界が関係してるんですか?」

「そのようですが、僕にもはっきりしたことは分からないんですよ」

「あの時いたカボチャ頭の人……死神やロリっ娘のリーパーにも分からないんですか?」

「ええ。実は彼らもここにいるんですけど、何が起きているのかは分からないみたいです」

「えっ、彼らもいるんですか? 全然見えませんけど」

「あなたの中に死の意思がまったく無くなったから見えなくなったんですよ。僕は人間だけど死神の助手だから、あなたと話ができて、死神とも話せるんです」

 横で聞いてる片桐と石井も、健太の言葉に疑問を抱いていない様子だ。

「そうだったんですね……あっ。あの、田所さん、ちょっといいですか?」

 真司が健太の腕を掴んで少し離れた壁際に連れて行った。

「あの晩、僕がプロマネの悪口言ったことは内密にお願いします」

「あはは。言いませんよ。でもあの人、相当優秀なプロマネみたいですね。うちのシステム部長が褒めてましたよ」

「お知り合いなんですか? あっ、まさか……」

「真司君の設計書を見てやって欲しい、とだけ言いました。それ以上は何もしてません。部長があの設計を採用したのは百パーセント真司君の実力ですよ」

「田所さん……ありがとうございます」

「おおい、真司。何をコソコソやってるんだ?」

 片桐が二人のところへやってきて訊いた。

「あの……その……」

「真司君、正直に話しちゃいましょう。実はですね、真司君のオーバードーズの原因は失恋だったんですよ。失恋で死のうとしたなんて格好悪いから内緒にしてくれって頼まれたんですよ」

「なんだ真司。失恋で苦しむのは格好悪いことじゃねえぞ。オンナのことなら俺に任せろ。イイ娘、紹介してやるよ」

 思わず顔を見合わせて笑ってしまった健太と真司だった。二人は上機嫌な片桐の後に続いて皆のところに戻った。

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