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【27】

 宝町支店の入口シャッター前に、ローブを被ったのっぺらぼうの骸骨が積み上げられた。

挿絵(By みてみん)

 宝町支店以外にオートマタは出現していないようだ。失神者が死亡したというニュースがないからだ。

「どうやら彼らの侵入路になるバックドアはまだ、ここにしか開いてないみたいですね」

 骸骨の山の向こうに口を開けている冥界へのトンネルを横目に主任が言った。

「どうやらそうらしいな。石井の部屋の冥学迷彩といい、冥界でもおおっぴらにできねえ話のようだな」

「佐藤さん冥学迷彩ってなんですか?」

 魂の刈り取りは当面なさそうだと見て、健太は待合室の椅子に腰を下ろしている。美咲や他の行員も思い思いの場所で休憩していた。

「戦場なんかだと兵士は死の臭いに過敏になってる。そういうところに刈り取りに行く場合、対象以外の兵士に余計な恐怖を与えないよう、冥界の気配が漏れないようにカムフラージュするんだ」

「石井さんの部屋になんでそんなものが?」

「石井の部屋で企んでることを、冥界の監察局に知られたくなかったんだろうな」

「非合法な活動なのは間違いないでしょう。ですがこれだけ大掛かりなこと、個人でできるものでしょうか?」

 主任は佐藤の意見に同意しながら疑問を挟んだ。

「非合法なことするのは個人とは限るまい。下手すりゃ国家だってするぜ」

「佐藤さん、あなた、なにが言いたいのですか?」

「いや、なにも。一般論を述べたまでだ」

 主任はしばらく佐藤の腕に抱えられたカボチャを見つめていたが、それ以上は何も言わなかった。


 健太は床に座り込みカウンターに寄りかかって眠っている美咲のところに移動すると、彼女の横に腰を下ろした。

「健太さん?」

「ごめん。起こしちゃった」

「私こそ、大変なときに寝たりして」

「なに言ってるんだよ。この人たちの魂を刈り取られずにいるのは、ほとんど美咲のおかげなんだから。今のうちによく寝ておいたほうがいい」

「ありがとう。健太さん、お願いがあるの」

「なに?」

「ここにいて」

「そのつもりで来たんだ」

 美咲は安心した様子で健太の肩に自分の頭を載せた。健太はそんな美咲の肩を抱いた。

「ねえ、誰が何のためにこんなことしてるのかな?」

「冥界の仕業なのは間違いないけど、モルにはもちろん主任にも分からないみたい。佐藤さんは何か心当たりがあるみたいだけど、訊いても誤魔化すだろうな」

「モルちゃん、主任さん、佐藤さん……もう私は死神さんたちに会えないのかな?」

「『生きたい』と思ってるから見えないんだよ。最期の時にはまた会えるから」

「そうね。楽しみに取っておくね」

「楽しみ?」

「……ふふ。楽しみってのはおかしいね。でも、あの人たちに刈り取られるんだと思えば怖いって思わない」

「いずれにしろ、まだまだ先の話さ」

「うん。まだまだ健太さんとすることがいっぱいあるもんね……」

 健太の肩で美咲が寝息を立て始めた。健太も目を閉じた。


「あれ? 片桐さん、栗山君、どうしてここにいるんですか?」

 コードその他のガラクタやゴミの隙間に埋もれるように眠っていた真司と片桐は石井の声に飛び起きた。

「石井! 気がついたか!」

 片桐が石井に抱きついた。

「わっ! な、何なんですか!」

「良かった! 本当に良かった」

「ちょっと、片桐さん……」

「俺が悪かったよ。俺を責めていいから、もう壊れないでくれ」

「壊れる? ああ、僕は何してました? なんだかここ最近の記憶が曖昧で」

「世界の救済をするといって外部からデータを呼び込むシステムを動かしてたんですよ」

 片桐に代わって冷静な真司が答えた。

「……まったく憶えてない……」

「やっぱり操られてたんですね」

「操られていた……。ああ、そうか。あのメッセージに従わなきゃって、そればかり考えてたんだ」

 石井は虚ろな目で、今はただの黒い鏡と化したモニターを見つめた。興奮の治まった片桐は、真司と石井の話を黙って聴いている。

「操られていたって……誰にですか、石井さん。指示はあの『トランクス』ってツールで来てたんですよね」

「そうだよ。最初は、ただのシステム改善のアドバイスだったんだ。でも、次第に声が聞こえるようになった。耳元じゃなくて、頭の裏側で直接響くような声が……」

 石井が怯えたように自分の耳を塞ぐ。

「石井! 大丈夫か!」

 片桐がまた石井の肩をガッシリ掴んだ。

「すみません。大丈夫です」

「やっぱり俺のパワハラが原因か?」

 片桐が苦しそうに顔を歪めて訊いた。

「パワハラ? 何のことですか?」

「夜中に酒持って押しかけたり」

「ああ。近所迷惑顧みず盛り上がりましたね」

「盛り上がった?」

 片桐が訝しげな顔になった。

「憶えてないんですか?」

「……そう言えば……いや、それだけじゃない。無理やりナンパさせたり、サーキットで絶叫させたり」

「なんですか、それ?」

「だから、俺がお前にしたパワハラの……」

「いくら片桐さんが滅茶苦茶だからって、そんなことされたことはありませんよ」

「えっ、あれっ、……これは昔、チーマーの後輩にしてたことだったか……」

「プロマネ、昔は本当にやってたんだ」

 真司は呆れ顔で言った。

「ヤンチャだったんだよ。でもなんで石井にしたことだって思ったんだろう?」

「やっぱりこの部屋、ヤバいですよ。出たほうがよくないですか?」

「そうだな。石井、お前も一緒に来い。ここにいると何だかおかしくなるのかもしれねえからな」

 石井は壁に貼られた幾何学模様を見て身震いした。

「はい。僕もここにはいたくないです」

 真司と片桐は玄関で石井が荷物をまとめるのを待った。石井も長居はしたくなかったのだろう。リュックに貴重品だけ詰め込んですぐに出て来た。玄関の扉を開けた片桐が叫んだ。

「わあ! 何だこりゃ!」


 健太の肩で眠っていた美咲が、何かに弾かれたように跳ね起きた。

「健太さん、いま誰か叫ばなかった?」

「動画の音だろ」

「そうか。そうだね。でもなんだか頭の中に直接聞こえた気がしたの」

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