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【26】

「お嬢! 無事か?」

 コシュタ・バワーを宝町支店に戻した佐藤は主任を置いたまま御者台を飛び降り、通用門を通り抜けて店内に駆け込んだ。

「佐藤さん! アタシは無事。だけど魂を繋ぎ止めておくのは限界かもしれない」

 カボチャを掲げ店内を見廻した佐藤は状況を理解した。

「こいつら、オートマタじゃねえか」

「やっぱりそうなの?」

 カウンターの上からモルが訊く。

「ああ。前に見たことがある」

「どこでそんなもの見たの?」

「どこでだったかな……車両保管庫にでも転がってんのを見たんだったかな。忘れたよ」

 モルは納得していない様子だが、それ以上は何も聞かなかった。

「私も噂にしか聞いたことありませんが、オートマタと見て間違いないと思います」

 佐藤に遅れて店内に戻ってきた主任が言った。

「皆さんが魂を身体に引き止めてなかったら、とっくに全員刈り取られていたでしょう」

 佐藤はカボチャを動かしてまた店内の様子を確認した。小さいリーパーたちはセカセカと鎌を動かしているが、魂は身体にしっかり貼り付いていて、切り離せずにいる。

「チビどもも難儀してるみてえだな。けど、回復する者はいねえみたいだ。システムの方は治まったみてえなのにな」

「佐藤さん、システムは治まったってどういうことですか?」

 健太が近寄ってきた。

「あのプロマネ兄ちゃんがよ、銀行のシステムに指令を出してたらしい機械からケーブルを全部引っこ抜いちまったんだよ。そしたら銀行のシステムが正常に戻ったらしいぞ」

「じゃあ、今は銀行システムが何かしてることはないんですか?」

「俺もコンピューターのことなんかよく分からねえけど、そうなんじゃねえか?」

「だったら……」

「どうしたのですか?」

 訊いたのは主任だ。

「オートマタたちはどうやって刈り取り対象を識別してるんだろうって考えてたんだ。システムが指示を出してるってことも考えたけど、もうシステムは正常に戻ってるのにあいつらの動きは変わってない。やっぱり自分で何かを感じ取って識別してるんだろうなって思ったんだ」

「なるほど。俺たちは刈り取りリストに従うけど、こいつらは手当たり次第って感じか?」

「ええ。なんとなく、あるセンサーに引っかかった魂を機械的に刈り取ろうとしてるんじゃないかと思うんだけど」


「うーん」

 健太、佐藤、主任が頭を捻っていたら、カウンターの上で店内を監視していたモルが叫んだ。

「みんな! あれ見て!」

 三人は一斉にモルが指差すほうを見た。倒れた客に女子行員がスマートフォンの画面を見せている。

「オートマタの動きが止まってる?」

 半信半疑の顔で健太が言った。さっきまで客の魂を刈り取ろうと鎌を動かしていたオートマタだったが、今は客の横にうずくまって動かない。力が抜けてぐったりしているようにも見える。

挿絵(By みてみん)

「なにを見せてるんだ!」

 健太は女子行員のほうにダッシュしながら叫んだ。

「ごめんなさい!」

 女子行員が咄嗟にスマートフォンを後ろ手に隠した。

「あっ、怒ってるんじゃないんです」

 健太は女子行員の横にしゃがみ込み、極力穏やかに言った。安心した様子の女子行員がスマートフォンの画面を健太に見せた。

「えっ? これってMISAKIチャンネル?」

 健太の問いに女子行員はうなずいた。写っていたのは、健太も一緒に歩いた商店街ブラブラ散歩の動画だった。

「このお客様はこの商店街でお店をしてらっしゃるんです。だからこれをお見せすれば生きる気持が強くなるんじゃないかと思って」

 健太が主任の方を振り返ると、彼女がうなずいた。

「そういうことだったんですね。人のいるところには気が満ちています。生気とか活気とか言います。生活感というのも近いです。ですがやはりその時が近づくと、そういったものが薄れます。その場の気はだいたい平らになっているものですが、その人のところだけへこんだ状態になります。トランポリンに人が載るとへこむような感じです」

「じゃあこいつらはそのへこみを感知して?」

「おそらく。今でこそ私たちはリストに従って刈り取りしていますが、そんなのは人間がリストなるものを使うようになってからのことです。それまではずっと、この気のへこみを感知して刈り取り対象を特定していたと習いました」

 モルはキョトンとした顔をしている。授業聞いてなかったんだろうな、などとどうでもいいことを健太は思った。

「アリスちゃん、あの子が止まったのはなんで?」

 健太も疑問に思っていたことをモルが訊いた。

「美咲さんの動画は活気、生活感あふれる商店街を映したものです。そこから溢れ出た気がへこみを埋めてしまったから、オートマタはターゲットロストしたんです」

「じゃあ……」

「はい。おそらく」

 健太は立ち上がり美咲に向かって叫んだ。

「美咲! この間の商店街の動画、できれば編集前の生映像を店内に流せるか?」


 美咲はクラウドストレージに保存しておいた映像を行員に指示されたパソコンにダウンロードした。

「このファイルです」

 横で美咲からの指示を待っていた行員が美咲と席を変わった。

「後はお願いします」

 行員がうなずく。美咲は健太の元へ戻った。

「上手く行くかな」

 不安げに美咲は言った。

「やってみるしかない」

 健太の言葉に彼女はうなずいた。そのとき店内が喧騒に包まれた。商店街の呼び込みの声、買い物客のおしゃべり、駆け抜ける子供たちの笑い声。壁掛けのモニターには途切れることのない人の流れ、カメラに向かって呼びかける肉屋のオバチャン、その他活気に満ちた人々の姿が映し出されている。冷たい静寂に満ちていた支店内が一気に生活感溢れる空間に変わった。

「健太さん、どう?」

 健太はしばらく店内を見回してから力強くうなずいた。

「上手くいったよ。オートマタは全部停止した」

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