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【25】

「石井! しっかりしろ!」

 今まで一人で見えない誰かと話していた石井が突然倒れた。片桐は考える前に石井の鼻先に手をかざした。

「息はある。救急車だ!」

 片桐は懐からスマートフォンを取り出し、一一九をタップして耳に当てた。

 しばらく呼び出し音が続いた後、「大変込み合っております」アナウンスが流れた。

「おい! 緊急用の電話がどうなってんだよ!」

 片桐はスマートフォンを床に叩きつけた。

「プロマネ、これ」

 真司が見せたスマホの画面に映るニュースサイトの見出しは、毎日ニコニコ銀行のシステムを原因とする失神者の件で埋め尽くされている。

「こんなオオゴトになってるのかよ」

 真司から受け取ったスマートフォンの画面をスクロールさせながら読んでいる片桐の顔はほとんど驚愕に近かった。

「これのせいで救急車が出払ってるんですよ」

「クソ、どうすりゃいいんだ」

「プロマネ、今はどうしようもありませんよ」

「……お前の言う通りだ」

 片桐は糸の切れたマリオネットのようにがっくり肩を落とした。そんな片桐を横目に真司はラックに並ぶ機械を見渡した。

「石井さんはこいつで実行指示してるって言ってましたよね。こいつを止めればあるいは」

 真司は倒れる直前の石井が指し示したサーバーに歩み寄り、ケーブルの接続を追った。

「ああ、やっぱりこのモニターが繋がってるな」

 それはあの奇妙な幾何学模様が踊っているモニターだった。

「どうだ? 止められそうか?」

 マウスを揺すったり、キーボードを叩いたりしている真司に片桐が尋ねた。

「まったくアクセスを受け付けません。こいつは普通のロックじゃないです」

「どうやら俺達の理解を超えた事態が起こってるみたいだな。仕方ない。強行突破だ」

 片桐がサーバーの並ぶラックの裏側を覗き込んだ。

「プロマネ、どうするんですか?」

「ケーブルをぶっこ抜くんだよ!」

 真司が止める間もなく片桐は、件のサーバーの後ろから生えている何本ものケーブルを一気に引き抜いた。

「わあああああ」

 真司の叫び声が部屋に響き渡った。

「ど、どうなるか分かりませんよ!」

「まあまあ。そう気にすんな。やっちまったモンは仕方ない」

「いやいやいやいや。やっちまったのはアナタですからね!」

 いきり立つ真司を片桐がなだめていると、「てってってってってれてれて、アフー」と呼び出し音が鳴った。片桐はさっき床に叩きつけたスマートフォンを拾い上げて耳に当てた。

「ふんふんふん。おお、そうか。分かった。ありがとう」

 通話を切った片桐が真司の肩をガッシリ掴んだ。

「真司! データの流入が止まって、CPUも正常に戻ったぞ!」


挿絵(By みてみん)

「あのプロマネ兄ちゃん、なかなかやるじゃねえか」

 佐藤が感心したようにポンとカボチャを叩いた。

「リスクをまったく考慮してませんね。たまたま上手く行っただけですよね」

 主任の声は冷ややかだ。

「男なら勝負に出なきゃなんねえときがあるんだよ」

「それは女性蔑視発言ですが……蔑視になってる気がしませんね。単に男はバカだと言ってるだけのようにも聞こえます」

「そうさ。女のほうが賢いに決まってるじゃねえか」

「認めるんですね。そんなことはどうでもいいんですが」

「おう。銀行のシステムは治まったみてえだから、これ以上失神者は出ねえだろう。けどよ、いま魂の浮きかけてる連中がどうなるかだよな」

「そのとおりです。まだ死者は出ていませんが、刈り取り者が来たらそうもいかなくなるはずです」

 主任は縮めて胸元にしまっていたタブレットを取り出した。

「先輩、そっちの様子はどうですか?」

「アリスちゃん! 大変なんだよ!」

「どうしたんですか?」

「あのね、ちっちゃな子たちがいっぱい来て刈り取りしてるんだよ!」


「健太さん、皆さんの生気が薄れてきている気がするの」

 美咲と同じように健太もそれは感じていた。オートマタたちの動きも活発になっている。

「うん。限界が近くなってるのかもしれない」

「私たち、こうしているしかないの?」

「もどかしいけど、今は他にできることがない」

「皆さんの魂を繋ぎ止めるのは大事なことだって、もちろん分かってる。だけどね、死神さんたちが刈り取りに来てるんでしょ。お話していったん帰ってもらうとかできないの? 私のときみたいに」

 美咲の目は真剣だった。

「美咲……どうやら話のまったく通じない連中らしいんだよ」

「でも根気よく誠意を尽くせば……」

「いや、話が通じないって、そういう意味じゃなくて。プログラミングによって動く自動人形らしいんだよ」

「自動人形? 機械に刈り取られるなんていやね」

「死神ならいいの?」

「いいとは言わないけど、どうせなら、健太さんや、この間の死神さんみたいなほうが、最期のときに少しは安心できるかな」

「僕は死神枠なの?」

「恋人がグリムリーパー。背の高いグリムリーパー。黄泉の国から来た」

「美咲って何歳だ?」

「うふふ。なんてバカップルしてる場合じゃないですね。あの死神さんでもどうにもならないの? 偉いんでしょ?」

「冥界の組織がどうなってるのか詳しくないけど、現場の責任者レベルだと、出来ることは限られると思うよ」

「それに、ここにいるのはタダの機械で、それを操ってる人をなんとかしなきゃ駄目ってことだよね」

「いや、自動機械みたいだから、操られはいないと思うよ」

「そうなの? 自分で刈り取る魂を見つけるの?」

「そうだと思うよ」

「どうやって探してるのかなあ」

「どうやってって……そうか! 何かの目印があるんだろうけど、予めプログラミング出来るなら、案外簡単なことで識別してるのかもしれない」

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