97話 長安攻城
レイセキと合流した。このところの長雨で、長安を無理攻めせず、包囲をするのに留まっていたようだ。
「久しぶりです。リュウユウ殿。ここに来るまでのご活躍は聞いてますぞ」
レイセキの態度はいつも丁寧である。立場的には荊州刺史と漢中太守を兼任し、東晋の現時点の武官の最高位にいると言ってよい。将軍の俺とは、一段格上の存在である。それでも態度を崩さないレイセキに俺は好感を抱いていた。
「ようやく雨が上がりました。これから本格的に長安を攻めることになります」
「早速、軍議を開きましょう。こちらからはコハンとフリョウを同席させます」
「コハン...彼女はうまくやっていますか」
「ははは....レイセキ殿も人が悪い。俺に押し付けになられたのに」
「押し付けたなど!ちょっとうちの軍では、合わなかっただけですよ」
やっぱり押し付けたのだと思った。レイセキの軍は規律がしっかりしている。あのお色気は風紀を乱すのであろう。俺は笑って応えた。
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「しかし、ここが長安なのですか。思ったよりボロいような...」
「おっしゃる通りです。この長安は何度も戦火に巻き込まれ、焼失した過去があり、補修も追いついていません」
城壁は高い。これまで見たどの街の城壁より高かった。だが、ところどころ崩れた個所もあり、想像以上にボロボロであった。そういった脆そうな場所は後秦軍の兵が多く配置されているようであった。
「どう見る、コハン、フリョウ」
「お前さんの軍は五万、レイセキ将軍の軍は十万。合わせて十五万の大軍だ。後秦軍は八万。策などないぞ」
「そうね。ここは力攻めがいいわ。無駄な小細工は必要ないわ」
「リュウユウ殿が到着した。ここは正攻法でいきましょう」
「フリョウ....本当にそれでよいのか。何か策があるのではないか」
「ない。長安は総攻撃すれば落ちる。それだけだ」
長安の地図を広げた。大小12の門を構える大都市だ。中には四つの宮殿を持つ。北宮、未央宮、桂宮、長楽宮と書かれていた。俺はこれくらいの字は読めるようになっていた。
(あれ、というかこれ漢字じゃん)
今更ながら気が付いた。書状とかは崩れた字体で書かれていて読めなかったが、地図の字は整った字で書かれていた。いくら俺が勉強できなくても、北とか未とか長楽くらいは読める。
「ヨウセキトクはどこにいるのですか」
「中を見たことがあるわけではないですが、未央宮にいる可能性が高いです。他の宮は戦乱で廃墟になっていると思います」
「......廃墟」
「はい。長安は中華の象徴です。誰もが支配することを望み、数々の戦火を受けて来たのです」
俺は何故、長安にこだわるのか分からなかった。大きいが人も少なくなっているという。城壁はボロボロで宮殿も再建できないでいる。まったく魅力を感じなかったが、この世界の人たちとは感覚が違うのであろうと思った。
「布陣を決めましょう。我々は西側と東側と南側を受け持つ。リュウユウ殿は北側を攻めてください」
北側は城壁がもっとも崩れている場所であった。それだけ守る兵も多いのであるが、レイセキの指示に従った。
「各方角から突入し、未央宮を目指す。ヨウセキトクを逃がしてはいけません」
大まかに受け持つ方角が決まり散会となった。攻撃開始は翌朝である。俺は自陣に戻ると主な将校を集めた。
「いよいよ長安を攻める。後秦を滅ぼす時が来たぞ」
「これから配置を言うわ。各自、明朝の攻撃に備えて準備して」
北側を受け持つといっても、城壁はとてつもなく長い。一か所に集中するとヨウセキトクに逃げられる恐れがある。ここで捕らえないと、いつまでも戦乱の火種を残すことになる。
ドウサイたち歩兵1万は、もっとも城壁が崩壊している場所を受け持った。そこにカンシュクの弓隊が援護する。エンが率いる1万5千が、もっとも北の城門を受け持つ。もう片方の門はケイシャンたち1万5千を配置した。
俺の本陣はドウサイの後ろについた。崩壊している場所を突破して、中に突入する主軍であった。
「ドウサイ。この戦はお前の突破に掛かっているぞ」
「ああ。望むところだ。俺はここで手柄を立てて、将軍となってやるぞ」
ドウサイは俺が百人将であった頃からいた古株だ。そろそろ、その功績に見合った地位を与えるべきだとも思っていたのだ。
「頼んだぞ」
俺は短くそう言った。
朝になった。レイセキの軍はすでに配置についていた。長大な長安の城壁をネズミが這い出る隙間もないほどに囲んだ。
北側の城壁の上にはずらりと後秦の兵たちが並んでいた。その数は分からないが、兵力は北側に偏って配置しているようだ。
「はじめるぞ」
俺とレイセキはほぼ同時に攻撃の合図を下した。ドウサイ、エン、ケイシャン3軍同時に前に出た。
「どれ、婿殿の戦いぶりを見てやるか」
長安の郊外に夏の数百の軍が現れた。カクレンの視線は俺のいる北側に注がれていた。




