92話 手紙の返事
襄陽。
ショカツの元にフコウシが来て、新野に続き、宛も陥落させたと知らせてきた。兵糧を宛まで届けよという指令もあった。五千の兵で補給路を守る。だが、補給路を襲ってくる敵はいない。盗賊はいたが、五千の兵がつく補給隊に襲撃してくるものなどいなかった。
リュウキは兵糧をショカツの部隊に引き渡した。
「ショカツよ。お前のような勇者がこんな後方で、補給隊のおもりとはリュウユウも人を見る目が無いな」
「......敵地で補給を繋ぐのは重要な任務だ」
「本心で言っているのか」
「そうだな。本当のところは前線で暴れたい」
「今は耐えるのだ。その時は来る」
ショカツはリュウキが何を言いたいのか理解できなかったが頷いた。リュウキだって留守居なのは思うところがあるはずだと思った。
新野に着いた。そこは重傷を負った兵たちが千人以上、療養している。アイは忙しそうであった。前線では激闘が繰り広げられている。そこに何故、俺は居ないのだと考えるとリュウユウに対して怒りがこみ上げてきた。
それでも我慢して宛まで兵糧を運んだ。東晋軍は既に潼関に向けて出発していた。宛には守備兵として5千を率いたシャカイが残っていた。
「お疲れ、ショカツ。本隊には俺が届けるから、戻るまで宛にいてくれ」
「激戦らしいな......」
「ああ。魏が本格的に増援を出してきた。弘農で対峙しているところだ」
「本体には俺が届けていいか。俺も戦いたい」
「暴れたいのは分かるが任務だ。補給路の確保も宛の防衛も大事な任務だ」
ショカツは「分かっている」と言って、シャカイが出発するのを見送った。重要などと言っても敵は来ないではないか。手柄を立て出世する為に軍に入ったのだ。そして先祖のおかした過ちを反面教師にして大将軍になるのが最終目標だ。だが、前線に出ないことにはそれは果たせない。ショカツは不満を募らせていった。
弘農は既に魏軍七万が布陣していた。ボクスウの三万の他に、増援としてブクレンとボヨウタクという将軍がそれぞれ二万を率いてやってきていた。
「増援がもう来たのか。対応が早いな」
「既に有利な地形を押さえられているわ。無理攻めは出来ないわよ」
俺は魏軍と距離を取った位置に布陣した。丘陵地帯である。コハンの見立てで、小高い丘の上に陣を張った。
「これは、こちらも増援が無いと厳しいな」
魏軍は動かない。魏にとっても、ここは後秦の領土であり、自国を守るという意識がない。ただ、ここで俺たちを潼関にいかないように足止めするだけでいいのだ。
「リュウキに増援を頼むか......」
「それは無理よ。リュウキの軍はただ荊州の留守番をしているわけではないわ。魏がここに来ずに南下してきた時に備えて防衛しないといけないのよ」
コハンが言うには、魏にはまだ余力があるということだ。戦線を広げられると、東晋は総力を挙げて対応しなければならない。リュウキの軍はその時の為に温存しておかなければいけない。
「エンさん。ブクレンとボヨウタクというのはどんな将軍だ」
「ブクレンは木系統の魔法を使う手堅い将軍よ。ボヨウタクは平凡な武将だわ。単に近くに駐屯していただけでしょう。ただ、単に丘を守るだけの軍ね」
「気を付けるのは、ボクスウとブクレンということか......」
布陣してから数日経った。この間、戦闘らしい戦闘は起きなかった。ボクスウは動かないでいることも出来るらしい。ブクレンの方もだ。こちらから攻めるとしたらボヨウタクの陣なのだが、攻めたら即座にボクスウもブクレンも動くだろう。そうなると挟撃されてしまう。ボヨウタクの位置は明らかに誘いであった。
「申し上げます!夏の伝令を伴い帰還しました!」
俺は立ち上がった。ついにカクレンの返事が来た。フリョウが書状を受け取り読み上げた。
「了承した。五万の援軍を送る。共に魏を討とうぞ」
俺はホッとした。魏に取って夏の参戦は想定外のはずだ。
「まだ続きがある....読んでよいか」
「ん?なんと書いてあるんだ」
フリョウがニヤニヤしているのが気になった。
「読むぞ。この色男め。...お前の思いは受け取った。長安で熱い夜を過ごそうぞ」
「え!?あ、熱い夜ってなんだよ!俺の思いって何!?」
「あら、カクレンに恋文を送ったからでしょ」
「恋文!そんな馬鹿な!フリョウ!お前、そんなこと書いたのか!?」
「ああ、お前さんはカクレンの事を色々と知っているようだからな。少し盛らせてもらった」
「盛らせてもらっただと!仲間の仇なのだぞ!ふざけるのもいい加減にしろよ!」
「それは悪いことした。そう書くとカクレンが心を許すかと思ったのだ」
「コハンもだ!手紙確認しただろ!なんで言ってくれないの!」
「ふふふ。面白そうだったから何も言わなかったの。上手くいって良かったわね。それより、あなたはもっと文字を読めるようになりなさい」
俺はそう言われるとぐうの音も出なかった。フリョウが書いた文字の半分も読めなかったのだ。まさかこんな罠が仕掛けられているとは思いもよらなかった。
とりあえず援軍は来ることになった。だが、俺の気持ちは重く沈んでいた。




