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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第8章 東晋再興編

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83話 十面埋伏の計②

 シバキュウシは追い続けた。騎馬隊二千と歩兵五千。まだ戦える。前方にリュウユウの旗が見える。もう少しだ。


 狭い道に差し掛かった。両側に木が迫り、騎馬が二騎並ぶのがやっとだ。


 縄が張ってあった。


 先頭の馬が足を取られ、悲鳴と共に倒れた。後続の騎馬も次々と引っかかり、馬ごと地面に叩きつけられた。投げ出された騎兵たちが地面を転がる。


「くっ!また罠か!」


 藪の中からテイゴが現れた。大槌を担いでいる。無言で投げ出された騎兵に近づき、大槌を振り下ろした。兜ごと頭が潰れる。鈍い音が響いた。次の男。また振り下ろす。テイゴは一言も発さず、淡々と槌を振り続けた。テイゴの歩兵五百も同じように黙々と叩いていった。


「突っ切れ!止まるな!」


 シバキュウシは縄を剣で斬り、馬を走らせた。後続の騎馬もそれに続く。テイゴは追わなかった。倒れた者だけを確実に仕留めていった。


 ◆


 渓谷に入った。両側が切り立った崖だ。道は一本しかない。嫌な予感がした。だが、引き返すわけにはいかなかった。


「シバキュウシ様!上に敵がいます!」


 崖の上にコウビの姿が見えた。大柄な男が、岩の上に仁王立ちしている。


「よう!お前ら!上から降ってくるぞ!気を付けろ!」


 コウビは高笑いしながら、部下たちに合図した。


 岩が落ちてきた。


 大小の岩が崖の上から次々と転がり落ちてくる。渓谷の入り口が岩で塞がれた。


「しまった......!」


 シバキュウシは蒼白になった。退路を断たれた。上からは次々と岩が降ってくる。兵たちは崖にへばりつき、岩を避けようとするが、狭い渓谷では逃げ場がなかった。


「ははは!どうだ!岩の雨は気持ちいいか!」


 コウビの笑い声が渓谷にこだました。シバキュウシは歯軋りした。だが、どうすることも出来ない。押し潰される兵が増えていく。


 落石がようやく止んだ。シバキュウシは崩れた岩を乗り越え、必死に前に進んだ。騎馬はもう使い物にならない。徒歩で岩を越えていく。従う者は三千にまで減っていた。


 ◆


 渓谷を抜けた。草原が広がっている。シバキュウシは少しだけ安堵した。開けた場所なら伏兵も隠れようがない。


 だが、踏みしめる草の感触がおかしかった。


「乾いている......まさか!」


「やれ」


 ボクシは短く命じた。火矢が放たれた。一本、二本。草原が一瞬で炎に包まれた。


 阿鼻叫喚であった。服に火が燃え移り、兵たちがのたうち回る。髪が燃え、肌が焼ける匂いが充満した。火だるまになった男が走り回り、他の兵にぶつかって火を移していく。悲鳴が重なり合い、もはや個々の声を聞き分けることは出来なかった。


「水だ!川だ!あっちから水の音がする!」


 誰かが叫んだ。川のせせらぎが聞こえる。兵たちは我先にとその方向に走った。シバキュウシも燃える軍服を脱ぎ捨て、走った。もはや体面も王族の誇りもなかった。生き延びることだけが頭にあった。


 川が見えた。なんの躊躇いもなく飛び込んだ。冷たい水が焼けた肌を包む。生きている。そう思った瞬間。


 水中で何かが足を掴んだ。


「ぐあっ!」


 セキカの暗殺隊が水中に潜んでいた。川底に沈み、葦の茎で呼吸しながら待ち伏せていたのだ。水中から短刀が突き上げられ、飛び込んだ兵の腹を裂いていく。川の水がみるみる赤く染まった。


 シバキュウシは必死にもがき、刃を避けた。水面に顔を出すと、川の中は地獄であった。赤い水の中で兵たちが沈んでいく。


 なんとか対岸に辿り着いた。ずぶ濡れで、体中に切り傷がある。息が上がり、もう立つ力も残っていなかった。


 だが、対岸にセキカが立っていた。濡れた髪を掻き上げ、短刀を指先でくるりと回している。


「うっふーん。わたしを捕まえてごらんなさい」


 セキカは薄い衣服が水で体に張り付いていた。肌が透けている。投げキスをしてシバキュウシを挑発した。


「ぐぬぬぬ!この俺をどこまでコケにするのだ!」


 シバキュウシは最後の怒りを振り絞り、セキカを追いかけた。もはや軍を指揮しているのではない。ただ目の前の女を捕まえたいという一心で走った。


「はあ、はあ......くそっ......待て!」


 ずぶ濡れの下着が重い。足がもつれる。従う者は数百にまで減っていた。振り返ると、残った兵たちも疲弊しきっており、武器を持つ手が震えていた。


 ◆


 ガサガサッ!


 頭上から人影が降ってきた。ギエイだ。木の上に潜み、通りかかるシバキュウシに飛びかかった。シバキュウシは反射的に剣を振ったが、ギエイは身を捩って避け、シバキュウシの腕に短刀を突き立てた。


「がっ!」


 剣が手から落ちた。ギエイはすぐに離れ、森の中に消えた。シバキュウシは血が流れる腕を押さえ、よろめきながら前に進んだ。もう考える力が残っていない。ただ前に進むしかなかった。


 木々が開けた。


 目の前に、大きな男が立っていた。棍棒を肩に乗せ、腕を組んでいる。


「ご苦労さん」


 シバキュウシはへたり込んだ。従う者はもう誰もいなかった。いつの間にか、残っていた兵たちも散り散りになっていた。


 リュウユウが数百の兵で囲んでいる。


「縛り上げよ」


 俺は兵たちに命じた。シバキュウシは抵抗しなかった。疲れ果て、そんな気力は無いようであった。弱弱しく俺を睨むだけであった。


「......ボクシ。ここまでやる必要あったのか」


「こういう自尊心の高い奴はとことん追い詰めて心を折るのだ。テイイクの十面埋伏の計だ。ソウソウの軍師が考えた伏兵の極致だ」


「テイイクってすげえ奴なんだな」


「......お前に言われると、テイイクも苦笑するだろうよ」


 俺が何も知らず聞いているのが、ボクシには可笑しかったらしい。声を出して笑っていた。

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