74話 斬岩と作戦
27人が集結した夜。俺は不思議な夢を見た。
紫の髭をたたえた男が俺の枕元に立っている。まるで王のような出で立ちであった。俺はその男に外に出るように促された。部屋にはボクシたちが寝ている。男の出現に気づいていないようであった。
「何者だ。どうやって入ってきた」
男は何も答えず、ただ剣を俺に差し出してきた。
「この岩を剣で斬れ。出来ればお前は皇帝になれる。出来なければお前の運命も尽きる」
「何を言っているのだ。お前は何者だ。何が目的だ」
男は黙って剣を差し出したままだ。俺はおそるおそる剣を受け取り構えた。
剣で岩を斬ることなど可能なのか分からない。
集中した。
一閃。
剣は弾かれた。
「情けない男だ。それでもリュウビの子なのか」
「もう一度だ」
俺は構え直した。意識を剣先まで集中する。魔力が研ぎ澄まされていく。
斬った。
岩は真っ二つになった。
「これで満足か......」
俺が振り返ると、もう男は居なかった。もっていた剣はスッと消えた。俺は寒気がし再び寝床で布団にくるまった。
「いったい何だったのだ」
翌朝、目が覚めると、ボクシたちが庭で何やら話していた。
「ユウ。見ろよ。岩が真っ二つになっているぞ」
俺は驚いた。夢ではなかったのか。そういえば、あの男は俺がリュウビの子だと知っていた。
「昨日、変な紫の髭の男が現れて、俺に剣で岩を斬れと言ったのだ」
「な....なんだと。紫の髭だと。それはおそらくソンケンだ......」
「誰だ、そいつは」
「やっぱり知らなかったか......ソンケンは三国時代に呉を建国した人物だ。この拠点も元はと言えば、ソンケンの霊廟だろ。お前の夢枕に現れたということだ」
「ボクシ.....お前は信じるのか」
「現実に岩が真っ二つになっている。リュウビが呉に逗留している時に、ソンケンと剣で岩を斬って占ったという話もある」
「ソンケンは俺が岩を斬れたら皇帝になれると言った。そうなのか」
「......それは分からん。だが、お前が皇帝になるという話は絶対に言うな。カンゲンと同じと見られる。特にジョセンシとトウリョウには絶対に言うなよ」
「......ああ、そんなこと言ったら、あいつら怒るだろうな」
◆
朝飯が済み作戦会議が始まった。
「アンテイ様を如何に保護するかが先決だ」
ジョセンシが口を開いた。元皇帝のアンテイを擁立する。東晋の再興。それがカンゲンを倒す為に必要な大義名分だ。リュウロウシのように、ただ決起するだけでは誰も支持しない。ジョセンシの言うことはもっともであった。今の俺がただ決起しても、集まってくるのは朱家尖にいるシュクユウの軍だけだ。それではリュウロウシの二の舞だ。
「アンテイ様は会稽の郊外に軟禁されている」
「監視の兵はどれだけいるのだ」
「多くでも十人だ」
「少ないな......」
「少ない。カンゲンがアンテイ様を殺さなかったのは簒奪者と言われるのを避けたかっただけだ。時期が来れば暗殺して、病死したことにするであろう」
ボクシが腕を組んで考え込んでいた。ジョセンシに「俺たちみたいな者が皇帝を奪還すると考えていないのか」と聞いた。
「おそらく考えていない。カンゲンの権力は絶頂に達している。リュウロウシが死んだ今となっては、なおさらカンゲンに反旗を翻す者などいないと思っているはずだ」
「そうか......そこに隙があるというわけか」
「アンテイ様を保護した後はどうする?建康に向かうのか」
俺はボクシに聞いた。アンテイを保護しただけでもカンゲンに奪い返されたら意味はない。
「いまは夏を攻める為に襄陽に兵が集まっている。確かに建康を守る兵は少ないはずだが、それでも1万はいるだろう。朱家尖にいる兵力では勝てない」
「ならばどうする......」
「まずは会稽を占拠することだ。あそこなら落とすのは容易い。会稽を拠点とし、全土にカンゲン討伐のアンテイ様の名で詔勅を送るのだ」
「ここでオウヒツ様がいることが重要になる。アンテイ様を擁立して、高官のオウヒツ様と将軍のお前が支える。リュウロウシとはわけが違う」
「そう簡単に上手くいくのかな」
「いかせるのだ。仮に全く兵が集まらなかったとしても、お前がカンゲンの軍を打ち砕けば流れが変わる」
「......責任重大だな」
「当たり前だ。失敗はできない。初陣の時を思い出せ。俺たちはたった数十人で賊徒を討ったのだぞ。お前ならやれる」
「......そうだな。思い出したよ。俺に任せろ」
作戦会議は終わった。シュクユウたちは朱家尖に戻った。兵を率いて速やかに会稽を囲む事になった。俺とボクシ、ジョセンシ、トウリョウと共にアンテイ様を保護する為に動いた。会稽にはオウヒツが会稽太守に来訪する約束をつけた。シャカイやドウサイたちをお供の者として引き連れ、先に会稽に入った。
カンゲン打倒。その幕が開けた。




