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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第1章 北府入軍編

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7話 百人将

 リュウロウシに連れられて北府の本陣に入った。

 シャアンが椅子に座っていた。卓の上に茶が置かれている。試験の日と同じ部屋だった。


 三十人が後ろに並んでいる。アイも、ボクシも、ドウキも。

 シャアンは俺たちを見渡してから、静かに口を開いた。


「やり遂げたか」


「はい」


 リュウロウシが答えた。


「盗賊八百余りを制圧。損害は軽傷数名。以上です」


 シャアンが俺を見た。試験の日と同じ目だった。何かを確かめるような、静かな目だ。

 しばらく黙っていた。それからゆっくり頷いた。


「見込んだ通りだ」


 それだけだった。

 リュウロウシが一歩前に出た。


「シャアン様。では、あの話を進めてよろしいですかな」


 シャアンは少し間を置いてから答えた。


「進めろ」


 あの話。何のことか分からなかった。ボクシを見ると、ボクシも首を傾けていた。リュウロウシの目が一瞬俺に向いた。何かが動いている気がした。だがその中身は分からなかった。


 部屋を出ると、リュウロウシが俺を呼んだ。


「リュウユウ。お前を百人将に任じる」


 一瞬、聞き間違えたかと思った。


「百人将……ですか」


「そうだ。新兵百人を率いろ。ボクシも同じ隊に入る」


「俺が隊長で、ですか」


「文句があるか」


 文句というより、実感がなかった。百人将といえば、北府の中でも指揮官の入り口だ。新兵が試験もなしにいきなり任じられるものではない。


「……なぜ俺なのですか」


「三十人で八百人を退けた。それだけで十分だ」


 リュウロウシは他に何も言わなかった。

 翌日、練兵場に百人が集まった。

 ゾウ家の家人三十人を含む、新兵たちだ。みな昨日初めて顔を合わせたような者ばかりだった。


 俺が前に立った。

 百人が俺を見ていた。

 三十人とは違う。倍以上の目が自分に向いている。その重さが初めて実感になった。


 これが百人将か。


 ボクシが隣で小声で言った。


「口が開いているぞ」


「……分かってる」


「早く何か言え」


 俺は百人を見た。


「リュウユウだ。よろしく頼む」


 ボクシが額に手を当てた。

 だがドウキが声を上げた。


「よろしく頼みますよ、隊長!」


 笑いが起きた。緊張が少し解けた。

 アイは後方支援隊に配属された。

 治癒魔法の使い手として、戦場での負傷者対応を任じられたのだ。


「前線に出なくていいのか」


 思わず聞いた。


「私が前線に出たいかどうか、あなたに関係あるか」


「関係ないけど」


「では黙れ」


 アイは後方支援隊の詰め所に向かっていった。

 だがその後、訓練で俺が傷だらけになるたびにアイが来ることになる。それはまだ知らなかった。


 リュウロウシによる訓練が始まった。

 最初の三日は地獄だった。


 体力訓練は試験の比ではなかった。外周を走るどころではない。重い荷を背負って山を登る。泥の中を這いずり回る。夜が明ける前から始まり、日が暮れても終わらない。


 魔法訓練はもっと酷かった。

 リュウロウシが俺の動きを見るなり言った。


「無駄が多い。全部やり直しだ」


「どこがですか」


「全部だ」


 木の棒を渡された。


「これを振れ。千回だ」


 聞き間違えではなかった。

 振るたびにリュウロウシが止めた。


「そこで力を抜け」


「抜いています」


「抜けていない。もう一度」


 千回終わる頃には腕が上がらなかった。


「明日も千回だ」


 翌日も千回だった。

 その翌日も千回だった。

 十日が過ぎた頃、アイが来た。

 練兵場の端に座り込んでいると、足音がした。


「……何やってんだ」


「休んでいる」


「動けないのか」


「動けない」


 アイがため息をついた。手を当てると光が滲んだ。腕の痛みが引いていく。肩の張りが消えた。


「毎日来るつもりはないぞ」


「分かってる」


「ちゃんと訓練を受けろ。話はそれからだ」


 アイは立ち上がって歩いていった。

 翌日も来た。

 その翌日も来た。

 文句を言いながら、毎日来た。

 ある日、アイが治癒を終えて立ち上がろうとした時だった。


「お嬢様口調の方が好みだけどな」


 アイの動きが止まった。


「……何の話だ」


「あの夜。網に捕まった時の話し方だ。あっちの方が——」


 脛を蹴られた。思いきり蹴られた。


「その話は二度とするなと言った」


「痛い。治癒してくれ」


「自分で治せ」


 アイは足音荒く去っていった。

 翌日も来た。

 二十日が過ぎた頃、変化があった。

 千回の素振りが、終わっても腕が上がるようになった。


 リュウロウシが初めて何も言わなかった。

 黙って見ていた。それだけだったが、それで分かった。


 ボクシが夜に言った。


「魔力の流れが変わってきた」


「そうか」


「お前は無意識に使っていた。今は少しだけ意識できている。まだ荒削りだが、別物だ」


 アイが横から口を挟んだ。


「まだまだだ」


「お前は後方支援隊だろ」


「傷の治しがいがなくなれば私の仕事も減る。文句あるか」


「ない」


 ボクシが珍しく笑った。


 一ヶ月が過ぎた。


 朝の訓練が終わり、飯を食っていると、リュウロウシが現れた。


 その顔が、いつもと違った。

 全員が気づいた。自然と口を閉じた。


「ソンオンが本格的に挙兵した。句章を占拠し、数万の兵を集めている」


 静かだった。


「北府に出陣命令が下った。三日後に出立する」


 誰も声を上げなかった。

 だが空気が変わった。訓練の空気ではなかった。

 戦の空気だった。

 ドウキが俺の隣で飯を置いた。


「来たな」


「来た」


「怖いか」


 考えた。


「怖い。だが前より少しはましだ」


「何がましなんだ」


「一ヶ月前より、少し強くなった気がする」


 ドウキが笑った。


「気がするだけかもしれないぞ」


「かもしれない」


 二人で笑った。

 アイが遠くから見ていた。何か言いたそうだったが、何も言わなかった。


 三日後、北府の旗が動く。


 百人将リュウユウとして、初めての大舞台が始まろうとしていた。

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