63話 水軍の男
千人の兵が集まった。俺が百人将だったからの古参の兵も多かった。シュクユウも南蛮の降将という扱いになり、反乱鎮圧を命じられていた。シュクユウは納得いってないようであったが、コハンが説得したらしい。そのコハンは荊州から連れてきていた兵をレイセキに返し、シュクユウ隊の軍師となった。
ジンキもカンキから来た千人将であり、同様に賊徒討伐の任務についた。バラバラになったが、ギエイやセキカ、フコウシたちが各隊の連絡役となることで、その所在は把握できた。
俺に与えられた任務は何と海賊の討伐であった。俺は水軍では無い。どう考えてもカンゲンの嫌がらせであり、無理難題であった。
「実は私たちも海賊には困ってるの。この2ヶ月で二度被害にあったわ。オウヒツ様に相談しようと思っていたのよ」
リンシとチョウセキの船団の力を借りようとしたが、商船であり海賊との戦いには向かない。オウヒツなら何とかしてくれるだろうとのことで、共に相談しに行った。
オウヒツは文官の中でも、珍しくカンゲン派に属していない。それでも政治の中心にいるのは優秀でカンゲンも一目置いているからだ。オウヒツとは縁がある。俺が若い頃、借金の肩代わりをしてくれたらしい。南燕との交渉では、俺はオウヒツの護衛として共に広固に行ったのだ。
「......カンゲンに目は付けられたくないのだがな。まあ、お前には見どころがある。特別に手助けしてやる」
オウヒツは渋い顔をしていたが、俺に水軍の将軍を紹介してくれた。カイギョクとチンアクという二人であった。リンシはその二人の名を聞き浮かない顔をしていた。
「知っているのか」
「......ええ。ちょっとね」
二人は広陵の酒場で飲んだくれていた。俺はこいつらで大丈夫なのかと訝った。
「おお!リンシの姉御!今日はどうした!ついに俺たちの女になってくれるのか」
「......馬鹿な事を言わないで。今日はオウヒツ様の命を受けてきたのよ」
「オウヒツ様だと!」
リンシはどうやら、この二人に絡まれているようであった。男を転がすことに長けているリンシでも、この手のタイプは苦手らしい。
「そっちの兄ちゃんは誰だい」
「この人はリュウユウ将軍よ。元だけど......」
「おお!あんたがカンゲンに嚙みついて千人将に落とされた将軍か」
俺は頷いた。そして千人将として海賊の討伐を命じられ、オウヒツの紹介でここに来たと言った。
「オウヒツの旦那の頼みなら断れんなあ、兄弟」
俺は二人を見比べた。どちらが兄でどちらが弟なのか分からなかった。
「ああそうだな。兄弟。オウヒツ様には恩があるしな。カンゲンの命令ならクソ喰らえだ」
俺は酒を飲まされた。一気に飲み干すと二人は大喜びであった。よほどカンゲンの事が嫌いらしい。酔っぱらって呂律は回っていなかったが、カンゲンに対して毒を吐きまくっていた。時々、それは放送禁止用語だよなと思う言葉も使っていた。
要するに二人はカンゲンに睨まれ、ここで不遇を囲っているというわけだ。それでも水軍の将でいられるのは、水軍に人材がいないとオウヒツが言っているからであった。二人の言うことを鵜呑みにするならば、船を扱わせれば二人の右に出るものはいないのだと言う。
「なあ、兄ちゃんはリンシと仲がいいのか」
「......いや、どうなんだろうな」
「よければ、俺たちの女になってくれと口添えしてくれよ」
「やめておけ。お前ら骨の髄までしゃぶられるぞ......それにリンシには彼氏がいるだろ」
「でもなあ。あの胸が好きなんだよ」
「確かに胸は大きいが......胸でいいなら違う女を紹介してやるよ」
俺がそういうと二人は「じゃあ頼んだぞ!」大笑いしていた。俺はコハンの顔を思い浮かべたが、あれこそ猛毒だ。二人に恨まれるかもしれないと思った。
朝まで飲み続け、俺はそのまま酒場でウトウトしていた。
「よし。行くぞ、兄弟」
俺は二人に起こされた。カイギョクもチンアクもあれだけ酒を飲みまくったのに、シャキッとしていた。案内された船団は五十艘の戦艦であった。何でも最新鋭の戦艦なのだという。船首には巨大な銛がつけられており、船体には弩がいくつも並べられていた。帆は3つ付いている。商船と違い、戦闘に特化した船であった。
「どうだ。俺たちの船はすげえだろ」
俺の語彙力もたいしたことは無いが、この二人の語彙力もいい勝負であった。
「ああ...すげえな」
俺が言うと、二人は白い歯をむき出しにして笑った。兵たちが乗る。一艘につき百人乗る。全部で五千人である。そこに俺の千人隊が加わった。
「兄弟は海は初めてか?」
「いや、一度だけある。すごい揺れだった」
「ははは!並みの商船ではそうだろうよ!この船なら大丈夫だ!まさしく大船に乗った気でいられるぞ!」
まあ、二人の言うことは本当なのであろう。ボクシもシャカイも船酔いした記憶が蘇ったのか、早くも青くなっていた。
「大丈夫だ!船酔いで死んだ人間なんていねえ!」
広陵から揚子江を下り海に出た。水の匂いから潮の匂いに変わる。晴天で風が気持ちよかった。本当に揺れが少なかった。ボクシもシャカイも安堵した顔をしていた。
海賊たちの根城は舟山諸島にある。大小、千以上の島があり入り組んでいた。ここから会稽などの港町を襲ったり、揚子江に入ってくる商船を狙うのだという。
「さっそくおいでなすったぞ」
カイギョクとチンアクが叫んでいる。船が陣形を組み始めた。俺は身構えた。千人将からの出直しだ。負けるわけにいかなかった。




