58話 くっ殺
シュクユウの姿は目を引いた。小麦色の肌を惜しげもなく露出させている。鎧は胸や肩当や小手など最低限のものしか着けていない。羽毛で出来たスカートから太ももが覗く。まるで美しさを強調したかのような姿である。茶色い長い髪が靡く。端正な顔立ちは美しかった。
「貴様がリュウユウか!」
「シュクユウ!いくぞ」
シュクユウが飛刀を投げてきた。俺は棍棒で防ぐ。間合いが詰まる。シュクユウは剣を抜き薙いだ。俺はそれを棍棒で弾き返すと驚いた顔をしていた。
「どうした!?この程度で俺を討てると思ったのか」
シュクユウは唇を噛んだ。大抵の敵は、最初の飛刀で驚き、斬られたのだ。初撃をかわされシュクユウは焦った。馬腹を蹴り、距離を取ろうとする。
俺は追うと、シュクユウは振り向きざまに飛刀を投げてきた。俺は予想できていたので、簡単に棍棒で弾き飛ばした。
追いつく。
シュクユウは剣と飛刀を持ち、二刀流のように剣を使った。一振り一振りが鋭い。
だが、カクレンのような圧力は感じなかった。ただ鋭いだけで、剣を受けても軽く感じた。
「俺はお前を殺す気はない。降伏してくれるか」
「舐めるな!南蛮の意地を見せてくれる!」
シュクユウの剣捌きが一段早くなった。俺は棍棒で受けた。棍棒をすり抜け、剣先が掠める。だが強化魔法を使う俺の体は、簡単に斬れない。せいぜいかすり傷程度だ。カクレンならば、強化魔法など無いかのように俺を斬り飛ばしたはずだ。
シュクユウの息遣いが荒くなってきた。斬っても斬っても、かすり傷しか負わすことができず、剣捌きが雑になってきた。
俺は頃合いだと思い、棍棒を握り直した。横に薙ぎ吹き飛ばそうと思った。
その時である。シュクユウが口から何か飛ばしてきた。
右目の瞼に何か小さな針のようなものが刺さった。途端に瞼が痺れ目を開けていられなくなった。右目の視界が無くなった。
「毒か!」
シュクユウは再び猛攻をかけてきた。右から来る剣が見えず、右腹を斬られた。かすり傷ではない。浅かったが血が滲んでくるのを感じた。
シュクユウは手ごたえがあったと感じたのか、俺の右へ右へと回り込んでくる。俺は何とか左の視界でシュクユウの動きを捉え、攻撃を交わした。
油断した。手加減してしまった。普通ならば棍棒を叩きこんで終わるはずであった。
「しぶとい男だ!いい加減に死ね!」
シュクユウはなかなか決定打を与えられず、焦っていた。右目に刺した毒針などすぐに効果がなくなってしまう。効果が続いている間に決着を付けたかった。シュクユウは距離を取り、右に回り込み持っていた飛刀を投げた。
俺はそれを音で聞き避けた。シュクユウは1本になった剣を両手で持ち、振り下ろす。俺は棍棒で受けた。だが、棍棒は剣の一閃で真っ二つに折れた。
「うそだろ!剣で棍棒を斬るのかよ!」
俺は武器を失い、避ける一方になった。両手持ちになってから、一振りが重くなっている。斬られるとかすり傷では済まない。
「将軍!油断するなと言われたろ!」
モウチョウはシュクユウの騎馬隊とやり合っていた。騎馬隊は互角であった。かなりの練兵を積んだが、まだまだ馬の質も揃って無く、肝心なところで遅れることもあった。
カンシュクの弓隊が近づき矢で援護した。モウチョウに絡んでいる敵の騎兵を確実に落としていった。
「くっ!押されているのか!」
シュクユウは周りの様子を見て、押され始めているのに気が付いた。
「次で決める!」
シュクユウが剣を持ち直した時である。水龍の矢がシュクユウを襲った。
「カンシュク!」
矢はシュクユウの体を貫くと思ったが、寸前で軌道が変わり、シュクユウの胸鎧だけを弾き飛ばした。
俺の目にシュクユウの豊かな双丘が飛び込んできた。ちょうどよく右目の痺れが無くなっていた。俺は思わず両目でしっかりとガン見してしまった。
「きゃああああああー!」
シュクユウは慌てて両手で胸を隠した。その拍子で剣を落とす。俺は馬から跳躍し、シュクユウに飛び掛かった。体当たりし、シュクユウを馬から落とす。
俺とシュクユウは地面に落ちた。組み伏せた。シュクユウは俺の巨体に乗られ悶えていた。
「その手を放せ!無礼者!やだ!胸を掴むな!」
俺は必死すぎて、どこを抑えていたのか分からなかった。シュクユウの言葉で初めて気づいた。俺の手はしっかりと双丘を鷲掴みにしていた。
「い、いやこれは!?済まない!事故だ!事故!」
俺は慌てて手を離した。しまったと思った。アイに怒られる。コハンに揶揄われる。そんな場面が走馬灯のように駆け巡った。シュクユウは観念した。
「くっ......ひと思いに殺せ......私たちはお前らに酷いことをしてきた......」
俺は「くっ殺」なんて言うやつがいるのかと、ちょっと感動した。思わずニヤつきそうになるのを堪え、真面目な顔でこう言った。
「それはお互い様だ。過去の事を反省してこれから共に生きていけばよい」
シュクユウは目を見開いた。俺はずっと見つめられ恥ずかしかった。俺は立ち上がり、手を差し伸べた。
シュクユウは戸惑っていた。だが、意を決して俺の手を取り立ち上がった。
「降伏する......お前は他の漢人とは違う気がする......」
俺はシュクユウを馬に乗せ、自陣に連れて帰った。シュクユウの部下たちも武器を捨て降伏し付いてきた。
◆
「馬鹿な!シュクユウめ!何をしているのだ!」
長老たちはシュクユウが連れていかれるのを見て慌てた。操り人形とはいえ、南蛮の総大将なのである。あってはならないことであった。
戻ってきた象兵を再び出撃させた。象は疲れていたが、馬にバナナを付けて走らせると、それを追うように出て行った。
「象兵がくるわ。セキカさん出番よ」
コハンは本陣で待機していたが、馬に乗り飛び出した。セキカたち諜報部隊も続いた。
「これで効果なかったらリンシさんをお仕置きしてあげるわ」
コハンは銅鑼を鳴らさせた。馬が驚いて棹立ちになり走り去っていった。
「痛たた......何よこれ」
コハンは馬から落とされ尻を打っていた。顔を上げると戦場は様相が一変していた。敵味方関係なく、馬は音に驚き暴れていた。そして肝心の象も混乱しており、味方であるはずの南蛮の軍の方に突進していった。
「どうやら効果があったようね......」
コハンは尻を抑えながら立ち上がった。象兵が南蛮の背後から襲い掛かる。馬の制御が取れないうえに象に突っ込まれ大混乱に陥った。
「セキカさん!シュクユウが降伏したと触れ回って!」
諜報部隊が四方に走り、シュクユウが降伏したぞ!武器を捨てろ!と呼びかけた。
レイセキは好機と見て歩兵を督戦した。崩壊した南蛮は武器を捨て投降していった。成都の門が開いた。長老たちの一団が逃げ出した。
「逃がすな!あいつらがこの戦の元凶だ!」
コハンが叫ぶ。銅鑼が鳴った。長老たちが乗っていた馬は制御を失い城壁に突撃した。コハンは無様に気絶している長老たちを捕縛させた。そして成都の城門を制圧し、東晋の旗を掲げさせた。
戦いが終わった。城壁に立つ東晋の旗を見てシュクユウはこれで良いと思った。




