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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第5章 西征編

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51話 夕日

 連日、カクレンの攻撃に耐えた。梯子をかけ、丸太を門にぶつける正攻法であった。城壁は低く、梯子は簡単にかかる。カンシュクの抜けた弓隊は戦力半減で、夏軍は難なく梯子を登ってきた。


「城壁から叩き落とせ!」

 

 それぞれの門の守備軍は、登ってきた敵を叩き落とす。城壁の上では、こちらの方が優位であった。


 俺はボクシと共に四方の戦況を見た。危ういところには、早めに援軍を送り対処した。それにより、褒中は崩れずに持ちこたえていた。


「意外と粘る......早く門を開けよ」


 カクレンはうずうずしていた。門に突入する為に、馬に乗って待機していた。だが、兵たちは城壁に登ることは出来ても、すぐに叩き落とされてしまっていた。


 そうして何日か過ぎた。夏軍は夜は攻めてこなかったが、俺はあまり眠れず目の下に隈が出来ていた。ボクシも、同じような顔をしていた。神経がすり減らされ、疲労していた。このままでは、どこかが突破されかねない状況であった。


 夜陰に紛れて南鄭から伝令が来た。カンキの指令を伝えてきた。


「カンキは何と言ってきているのだ」


 俺は腹が立っていた。新米の将軍とは言え、カンキとは同格なのである。それが、俺を手下のように扱い、命令を出してきている。そもそもカンキが協力的であれば、このような状況にはなっていないのだ。


「撃って出てカクレンを追い払えと言ってる......」


「そんな事が出来れば苦労はしない」


「益州に入ったシバチョウが大敗したそうだ。事態は悪化している」


 俺は白帝城で見たシバチョウの傲慢な顔を思い出した。益州の反乱軍には負けるつもりは無かったのであろう。俺も腹正しいが、西府の軍が反乱軍に後れを取るとは思ってなかった。


 それが大敗である。何があったのかは詳細は分からない。だが、状況は良くないことは分かった。


「反乱軍が漢中に介入してきたら収拾がつかなくなるぞ」


 ボクシも青ざめていた。そうなる前に夏を追い払わなくては漢中を失ってしまう恐れがあった。


「撃って出るのか......」


 俺は腕を組んで考え込んだ。左肩の痛みは引いている。だが、カクレンに勝つ自信が無かった。


 アイの懸命な治療で、ドウサイとカンシュクはようやく動けるようになった。2人とも鈍った体に喝を入れようと、アイが止めるのも聞かず、武器を素振りしていた。


 全員で仕掛ければカクレンを倒せるかもしれない。しかし俺は判断が出来なかった。



「そうか。反乱軍が勝ったか」


 シバチョウが大敗した情報はカクレンも掴んでいた。荊州の主力の軍が壊滅したのだ。漢中は孤立したと言ってよい。


「ショウジュウが漢中を狙う前に落とすぞ」


 カクレンは明日の総攻撃を命じた。今度こそあの男を捕らえる。カクレンは興奮して眠れなかった。濡れている。指でなぞる。そしてその指を舌で舐め、うっとりとするのであった。



 カクレンの総攻撃が始まった。城壁に次々と夏軍が登ってくる。カクレンの本陣の兵も登ってきており、城壁から叩き落とすのに苦労した。


「くそ!どうやら、敵も知っているようだな......」


「これでは撃って出るなんて無理だぞ!」


「ユウ。覚悟を決めろ。この状況を打破するにはカクレンを討つしかない」


「だからどうやって!?」


 ボクシは間を置き、やがて意を決したように言った。


「この城を捨てるのだ。全軍で撃って出てカクレンを狙う」


「なんだと!」


「カクレンの狙いはお前だ。城では無い。お前が撃って出たら必ず城への攻撃は緩む」


「......」


 俺は大きく息を吸った。首だけとなったカムキとリュウイの顔を思い出す。仇を討つ。


「ドウキ。アイを連れて離脱しろ。頼むぞ」


 ドウキは頷いた。アイは納得しないだろう。無理やりでも連れていくしかない。


「出撃する......南門から出て、カクレンを引き連れる」


 四方の中でも南門の攻撃が一番薄い。俺はモウチョウに騎馬を準備させた。


「ドウサイ。復帰早々すまないが、歩兵を纏めて南門の敵を抑えてくれ」


「分かった......カクレンへの道は作る」


 ボクシは四方の指揮官たちに伝令を送った。徐々に兵を南門に移動させる。そして正門には馬草など燃えやすい物を集めた。



「いよいよ落ちるか」


 カクレンは城の中が揺らいでいるのを感じた。城壁の上にいる兵が徐々に移動している。


「正門の揺らぎが最も大きい」


 正門への攻撃を強めた。城壁の上は徐々に夏軍が制圧していった。


 カクレンは馬に乗った。


「リュウユウの姿を見逃すな。城から逃げ出すかもしれん」


 ついに正門が開いた。夏軍が雪崩れ込んでいく。


 2千程が城内に突入した時、突然、爆発した。


「なっ!罠だと!」


 正門を守っていたモウシュウシは退きながら尻を出す。かました。爆音を立て引火する。正門に積まれた馬草に燃え移り、一気に火の海に包まれた。


 突入した兵たちの体に火が燃え移り混乱した。悲鳴が上がり、逃げ惑う。阿鼻叫喚であった。


「許せぬ!妾をこけにしおって!」


 カクレンは悔しがり鉄鞭を振り地面を叩いた。桟道、石門に続いて、再び屁将校にしてやられた。怒りで頭に血が上ってきた。


「南門からリュウユウが出てきました!東へ向かっています!」


 カクレンはそれを聞き、馬腹を蹴って南門へ駆けた。


「続け!この屈辱はリュウユウで晴らす!」



 俺は騎馬2千で南門を出た。アイが何やら叫んでいるのが聞こえた。ドウキに腕を掴まれもがいているのが見えた。


 城に火の手が上がる。ドウサイは南門を攻めている夏軍を抑えていた。


「カクレンが来るぞ!読み通りだ!」


 俺の正面にカクレンが回り込んでいる。棍棒を握りしめた。


「カクレン!貴様を討つ!」


 カクレンが近づいてくる。ボクシが手を挙げると、2千の騎馬は3つに分かれた。左にボクシ、右にモウチョウ、そして俺はそのまま真ん中を駆ける。カクレンの軍を囲むように動く。


 カクレンが率いているのは1千だ。この瞬間で言えば、こちらの方が多い。カクレンはボクシとモウチョウの方に3百ずつを回した。


 カクレンが鉄鞭を振り上げると光輪が襲ってくる。俺はそれを棍棒で払いのけた。


 目が合う。棍棒を突き出す。


 交錯した。


 棍棒と鉄鞭がぶつかり合い、火花が散った。


 俺はそのまま駆け抜けた。


「逃げるな!将が背を見せるな!」


 カクレンは叫びながら追ってくる。


 追いつかれた。


 俺は振り向きざま棍棒を薙ぎ払った。


 カクレンは虚を突かれた。手ごたえがあった。


 右腕を叩いていた。カクレンは顔をしかめ、右の鉄鞭を落とした。


 俺は棍棒を突き続けた。カクレンは鉄鞭一本で受けた。


「いいぞ!リュウユウ!それでこそ妾の婿となる男だ!」


「黙れ!お前の婿になどならん!」


「ユウ!早く仕留めろ!敵の増援が来るぞ!」


 ボクシとモウチョウはカクレンの兵たちと組みあっている。城の囲みを解いた夏軍がこちらに向かってきている。


「ははは!いい加減に降伏しろ!」


 カクレンは狂気が宿り、鉄鞭の一振りが重くなっていく。俺の方が防戦一方になった。鉄鞭を受けきれず、体が抉られていく。俺の返り血を浴び、カクレンの目は完全にいっていた。


「ユウ!カムキとリュウイの仇を討つのだろ!」


 俺はボクシの叫びを聞き、ハッとした。ここで負けるわけにいかなかった。


 棍棒を持つ手に意識を集中し、振り下ろした。


「なに!ぐうううう」


 カクレンの顔に動揺が走った。俺の棍棒は鉄鞭を弾き飛ばし、カクレンの胸を掠めた。俺は再び攻勢に出た。何度も棍棒を叩きつける。


「なんだ!貴様!その力は!」


 カクレンを押していた。その顔は余裕がなくなり、困惑していた。


「カクレン様!お下がりください!」


「邪魔をするな!」


 カクレンの兵が見かねて割って入ってきた。同時にボクシも俺をカクレンから引き離した。


「もういい!ドウサイたちと合流するんだ!」


「でも!カクレンが!仇を討つんだ!」


「敵の増援が来た!無理をするな!」


 夏軍が集まってきた。カクレンは俺を睨みながら後ろに下がっている。俺は唇を噛みしめ、ボクシに従った。


「立て直せ!今一度、陣を組み、攻撃する!」


「なりません!敵の援軍が来ます!アリ様から撤退の伝令が来ています!」


「援軍だと!いったい何処からだ!」


「襄陽の軍です!東晋の将軍レイセキ3万です!」


 カクレンは絶句した。東晋の援軍は無いと踏んでいた。3万は襄陽のほぼ全軍であろう。それが襄陽を空にして漢中に現れた。


「アリ様の軍はレイセキに背後を取られ、被害が出ております!」


「南鄭からカンキ軍が撃って出た模様!追撃を受けております!」


 次々に夏軍の不利を伝える知らせが届いた。


 カクレンは怒りで伝令を蹴り飛ばした。


「ぐぬぬ......全軍撤退だ!」


 アリが率いる夏軍の本隊が崩れたなら、これ以上、戦を続けることは出来なかった。カクレンは急いで兵を纏め石門へ後退していった。


「カクレンが後退していく......」


 俺は棍棒を落した。カムキとリュウイの仇を討てなかった。悔しかった。俺は無力感に襲われた。


「どうやらレイセキが援軍に来てくれたらしい。助かったな......」


「ああ......ギエイにも感謝しないとな......」


 アイがドウキに連れられ合流してきた。離脱する途中、レイセキの軍が動いていることを知り、戻ることにしたようだ。


 アイの顔を見ると俺は何故か安心した。夕日に照らされ、その姿はとても美しく感じた。


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