50話 南蛮
益州の反乱軍の姿は異様そのものであった。おかしな石のお面を被り、日に焼けた肌は刺青があり露出している。棍棒や斧など思い思いの武器を手に取っていた。
「ショウジュウめ。南蛮を引き入れたか......」
益州の南側に広がる地域は、南蛮と呼ばれる地域がある。そこに居る様々な民族の事を南蛮と総称していた。
敵の数は2万程度。シバチョウは涪城に上陸すると総攻撃を命じた。
「南蛮など恐れるに足らん。踏み潰せ」
シバチョウ軍の騎馬隊2万が突撃した。
南蛮軍は短弓を構え、一斉に放つ。短弓を使うには距離がある。矢もそれほど勢いもなかった。
「その程度の矢で我が騎馬隊が止まると思うな」
だが、騎馬隊は次々と落ちていった。矢は掠めた程度であるが、騎兵は口から泡を吹き倒れていった。
「毒か!」
騎馬隊の勢いが落ちる。そこに南蛮軍の軽騎兵が来る。横腹を抉られ崩れた。
先頭に立つ将は女であった。小麦色に焼けた肌は最低限の布でしか覆われておらず、肩当てなどの鎧も、つける意味があるのかと思うほど軽装であった。
「我が名はシュクユウ!積年の恨みを晴らす!」
両腕から飛刀が放たれる。飛刀に惑わされた兵は、槍のひと突きで落とされていった。
「調子に乗るな!蛮族の女よ!」
騎馬隊を率いる将がシュクユウに挑む。
シュクユウは飛刀を投げる。将は体を捻り交わそうとするが体勢を崩す。すれ違いざまに深々と将の胸に槍が突き立った。
指揮官を討たれ騎馬隊は混乱した。
「何をしている!全軍前進!あの女を討て!」
シュクユウはシバチョウが前進してくるのを見ると、馬首を返した。
「追え!追うのだ!」
シバチョウは追撃を命じる。だが、その時、横から聞いたこともない異様な鳴き声と、ズシンという振動がした。
「なんだ!?あれは!?」
馬の何倍も大きな体に長い鼻。その鼻先には刃がついている。数は20頭ほどだ。騎馬隊は蹴散らされ大混乱に陥った。
「象だ!象兵だ!」
シバチョウは初めてみる象に腰を抜かした。その巨体は馬ごと吹き飛ばし、兵たちを足で踏み潰した。鼻はまるで大きな鞭のように動き、鼻先についた刃で切り刻んでいった。
「将軍!退却を!船へ引き返すのです!」
兵たちが腰を抜かして動けないシバチョウを抱え後退していった。船まで逃げおおせたのは僅かであった。
「早く!船を出せ!」
シバチョウは恐怖のあまり悲鳴をあげていた。股のあたりが濡れていた。船に乗らず多くの兵が取り残された。武器を捨て逃げる者、降参する者、シバチョウの軍は見る影もなく崩壊した。
「捕虜全て奴隷とせよ。我らがされたように扱え」
シュクユウは怒りに満ちた声で言い放った。
◆
南蛮はかつてショカツリョウに7度討伐され、7度許された。蜀の統治は緩やかであり、南蛮の自治を認めていた。だが、蜀が滅び晋になると、南蛮に対する扱いは変わった。
八王の乱と呼ばれる晋の王族たちの争いに駆り出され、奴隷兵のように扱われた。自治権はなくなり、税は重くなった。そしてなによりも人として扱われなくなった。
晋が崩壊し、益州はいくつもの軍閥のような政権が起きたが、南蛮の立場は変わらなかった。そして益州を平定した東晋になっても同じであった。
100年以上の恨みが積もっていた。ショウジュウが反乱を起こすと、南蛮はそれを利用しようと企み、手を貸した。そしてシュクユウを将として、援軍を出したのである。
シュクユウは歴代の女将軍に継承される名であった。当代のシュクユウは、かつて蜀軍を苦しめたものの再来と呼ばれた。
「捕虜を選別せよ。使える者は我が軍に組み入れる。使えない者は鉱山で労働させよ」
南蛮に降った兵は1万以上いた。そのうち3千が兵として組み入れられた。残りは鎖に繋がれ、奥深い山の鉱山に連れていかれた。
「荊州は叩いた。そろそろショウジュウに己の立場を分からせてやろう」
成都に向かった。シュクユウは益州を占領し、南蛮の国を樹立するつもりであった。
◆
シバチョウ敗退の報はカンキに届いた。
「リュウユウはこの事を知っているのか」
「いえ、シバチョウ将軍はカンキ殿にしか伝令は出していません。ですが、そのうち知る事になるかと」
(厄介な事になった......)
カンキは頭を抱えた。シバチョウが益州の反乱を速やかに鎮圧し、漢中へ救援くる事を期待していたのだ。だが、それも潰えた。何とかして単独で夏を追い払うしかなくなった。
(リュウユウに勝ってもらうしかないのか......)
カンキは考えを改めた。リュウユウに益州の状況を知らせる。その上で一刻も早くカクレンを倒せと伝令を走らせた。
癪ではあるが、ここはリュウユウの力を当てにするしかなかった。カンキはバリバリと歯軋りし、盃を床に叩きつけた。




