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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン


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5話 勘が鳴っていた

 明後日までに人を集めろ。


 リュウロウシの言葉が頭の中で繰り返されていた。三人で練兵場の外に出た。日が完全に落ちていた。


 まったく見当がつかなかった。


「どうする。誰に声をかける」


 ボクシが腕を組んで言った。


「試験に落ちた奴らに声をかけるか」


「無駄だ」


 ボクシがすぐに返した。


「試験に落ちたということは北府に認められなかった人間だ。数十人で千人の盗賊を退治するのに、そんな人間を連れて行っても足手まといになるだけだ」


「じゃあどうする」


 ボクシが黙った。俺も黙った。


 二人でアイを見た。


 アイは気づいていた。気づいた上で空を見上げていた。


「……なんだ」


「人脈はないか」


「ない」


「本当か」


「ない」


 ボクシが静かに口を開いた。


「アイ。もし試練が失敗したら、俺たちはシャアン様とリュウロウシ様に報告しなければならない。その時、お前が非協力的だったと伝えることになる」


 アイの目が細くなった。


「……脅しか」


「事実を報告するだけだ」


「合格が取り消されるぞ」


「それはシャアン様とリュウロウシ様が判断されることだ。俺たちにはどうすることもできない」


 沈黙が続いた。


 アイは舌打ちをした。


「……ゾウ家の家人を呼ぶ。それでいいか」


「何人集められる」


「三十人」


 ボクシと顔を見合わせた。ちょうどいい。


「頼む」


「貸しだぞ、リュウユウ」


 アイは俺を睨みつけてから、踵を返した。



 翌日の朝、練兵場の外れに三十人が集まっていた。


 みな体つきが良く、目つきが鋭い。素人ではなかった。ゾウ家に仕える家人たちだ。アイが一言告げただけで、これだけの人間が集まった。


 アイの出自が改めて頭をよぎった。


 三十人がユウを見ている。値踏みするような目だった。これに数十人で千人の盗賊を退治しろと言われた男が、こいつかという目だった。


 その中に一人、やけに若い男がいた。


 年は俺より二つか三つ下だろうか。体は細いが目が生意気だった。じっとこちらを見ながら、口の端を上げている。


「お前が千人を退治するとかいう馬鹿か」


 いきなり言ってきた。


「そうだ」


「本気か」


「本気だ」


 男はしばらく俺を見てから、ふんと鼻を鳴らした。


「俺はドウキだ。お前が本物かどうか確かめてやる」


「確かめ方は?」


「一発殴らせろ。死ななかったら本物だ」


 周囲の家人たちが笑った。


 俺は顎を突き出した。


「どこからでもどうぞ」


 ドウキが拳を握った。そのまま思いきり俺の顎に叩き込んだ。


 痛くなかった。


 ドウキが顔をしかめた。自分の拳を見ている。


「……痛っ」


「折れてないか」


「折れてない……けど」


 ドウキはしばらく自分の拳と俺を交互に見ていた。それからニヤリと笑った。


「本物だな」


「そう言ったろ」


「ついていってやる。死ぬなよ」


「お前がな」


 笑いが起きた。少し空気が柔らかくなった。



 ボクシが三十人の前に立った。


「聞いてくれ。俺たちはソンオンの手下の盗賊団、千人を退治する。これはシャアン様の命だ」


 ざわめきが起きた。


「報酬は北府への推薦状だ。試験なしで入隊できる。それだけの価値はある」


 ざわめきが大きくなった。


「危険な任務だ。嫌なら今すぐ帰っていい。引き止めない」


 誰も動かなかった。


 ボクシが俺を見た。俺が前に出た。


「俺はリュウユウだ。字も読めないし、兵法も知らない。だが数十人で千人を叩きのめす自信はある。一緒に来てくれ」


 笑いが起きた。だが温かい笑いではなかった。


 一人の家人が口を開いた。


「字も読めない男の下で戦えというのか」


 空気が変わった。


「孫子も読めない。呉子も読めない。兵法の欠片も知らない男が、どうやって千人を指揮するんだ」


 反論できなかった。事実だった。


 別の家人が続いた。


「俺たちはアイ様に従って来た。あんたの命令で動くつもりはない」


 ざわめきが広がった。ドウキだけが黙って俺を見ていた。


 情けなかった。字が読めない。それだけで指揮を奪われた。体力も魔法も関係なかった。試験の時と同じだ。俺はいつも同じところで躓く。拳を握ったが、殴る相手がいなかった。


 アイが前に出た。


「……分かった。指揮は私が取る」


 家人たちの表情が緩んだ。


 アイが俺を横目で見た。


「文句あるか」


「……ない」


「なら決まりだ」


 ボクシが俺の耳元で囁いた。


「アイに任せておけ。お前は体で働け」


「分かってる」


 分かってはいたが、面白くなかった。



 リュウロウシから場所が指定された。


 京口から南に二日ほど下った山間の村だ。ソンオンの手下が村を占拠し、略奪を繰り返しているという。


「千人と言ったが、正確には八百から九百の間だ」


 リュウロウシが地図を広げた。


「地形を活かせ。正面からぶつかれば三十人など一瞬で潰される」


「地図が読めない」


 リュウロウシが俺を見た。


「……ボクシ、お前が読め」


「はい」


 ボクシが地図を覗き込んだ。リュウロウシが指で地形を示しながら説明する。俺はその横で話を聞いた。山があって、川があって、村がある。それだけは分かった。


「出発は明朝だ。以上」


 リュウロウシは地図を畳んで去っていった。


 アイが地図を引き取り、家人たちと囲んで話し始めた。俺とボクシは輪の外だった。


 声は聞こえなかった。だが断片的な言葉が耳に入ってきた。夜襲。山の裏手。斥候。アイが地図の一点を指で叩いている。家人たちが頷いていた。


 悪くない作戦に見えた。だが何かが引っかかった。何が引っかかるのかは分からなかった。勘だけが、微かに鳴っていた。


「……完全に蚊帳の外だな」


 ボクシが呟いた。


「ああ」


「お前が字を読めれば、こうはならなかった」


「分かってる」


「勉強しろ」


「今更言うな」


 輪の中でアイが指を地図の上に走らせていた。家人たちが頷いている。ドウキだけが輪の外に出てきて、俺の隣に立った。


「あんた、本当に大丈夫か」


「大丈夫じゃないかもしれない」


「正直だな」


「嘘をついても仕方ない」


 ドウキはしばらく考えてから言った。


「まあいい。俺はあんたについていく」


「アイの指揮に従わなくていいのか」


「アイ様の指揮に従いながら、あんたを見る。それだけだ」


 悪くない目だった。



 その夜、三十人で飯を食った。


 焚き火を囲んで、めいめいが椀を手にしていた。家人たちはアイの周りに集まっていた。俺とボクシとドウキは少し離れたところに座っていた。


「明日の作戦はアイ様に任せるのか」


 ドウキが聞いた。


「今日の流れでは、そうするしかない」


 ボクシが答えた。


「止められないのか」


「無茶な作戦なら止める。だがアイは馬鹿ではない。それなりのものを考えているだろう」


 焚き火が揺れた。


「なあ」


 ドウキが俺に向かって言った。


「怖くないのか」


 考えた。怖いかどうか。


「怖い。だが、ここで引いたらもっと情けない」


 ドウキが焚き火を見た。炎が揺れていた。


「……俺も同じだ」


 それきり二人とも黙った。焚き火の音だけが聞こえた。


 明日、千人と戦う。


 まったく正気の沙汰ではなかった。だが不思議と眠れる気がした。

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― 新着の感想 ―
呪術は見かけますが、中華作品で魔法というのはあまり見たことがないので、新鮮な気持ちでここまで読ませていただきました! 千人との戦いがどうなるのか、また、27人の他のメンバーはどんな人たちが出てくるのか…
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