46話 使い捨て
翌日、配置につく。ショカツが離脱し、ドウサイたちも疲労していたので、第2歩兵隊と入れ替えた。
「また、俺の屁で追い払ってやる」
「......出来ればそうならないようにしたいな」
モウシュウシの意気込みにシャカイは顔を曇らせた。カムキもリュウイも同じ顔をしていた。
夏軍が来る。水弾に備え盾を構えるが、石門に入ってきたのは歩兵隊であった。敵も盾と短剣の装備であった。そのままぶつかり合う。策も何もなく肉弾戦になると思われた。
「いたぞ!あの屁の将校を狙え!」
夏の将軍、リョヘイはモウシュウシを囲めと指示を出した。
「俺狙いかよ!」
モウシュウシに十数人の兵が殺到する。分断し、孤立させようとする動きをしてきた。カムキとリュウイはモウシュウシを孤立させないよう間に割って入った。斬りあいになる。モウシュウシはとても尻を出す余裕は無かった。
「屁の将校さえ押さえたら怖いものはいない!押しまくれ!」
リョヘイは歩兵隊を入れ替わり立ち替わりで突っ込ませる。シャカイは奮闘した。モウシュウシ、カムキ、リュウイは絡みつく敵兵を解けない。シャカイが1人で指揮するしかなかった。
剣を振るう。風が舞い、敵兵を切り裂く。先頭で戦いながら、合図を送り歩兵を入れ替える。
「お前が指揮官か!首を貰う!」
リョヘイは矛を構え、シャカイを狙ってきた。
剣と矛が交錯する。リョヘイの矛は鋭く、シャカイの脇腹を掠める。シャカイの剣はリョヘイの頬を斬る。一進一退の攻防であった。何合も渡り合い決着がつかない。
シャカイはリョヘイに絡まれ指揮を取ることが出来なくなった。歩兵たちの疲労が出始め押されてきた。
「シャカイ!無理はするな!下がれ!」
ボクシが石門に入り叫んだ。歩兵隊の入れ替わりが上手く行ってないのを見て取り、援護に来たのだ。
ボクシが代わりに指揮を取る。
ボクシは歩兵を入れ替えながら、下がった隊を後退させた。徐々に石門を守る歩兵は少なくなっていく。モウシュウシも下がった。カムキとリュウイは殿をして踏ん張った。
シャカイも渾身の力で剣を振った。リョヘイは矛で受け止め、弾き飛ばす。ボクシが火球を飛ばし、シャカイを援護した。
シャカイは剣を振るう。ボクシの火球が風に煽られ、石門の中で広がっていく。
「くそ!火魔法使いが他にもいるのか!」
リョヘイは爆発を警戒し後退を命じた。だが、火球は爆発するものでは無い。
「この隙に下がるぞ!これ以上の犠牲は出すな!」
石門から後退した。リョヘイは爆発が来ないと分かると追撃する。
リョヘイは石門を抜けた。
「いまだ!撃ちまくれ!」
「な!ここは狩場か!盾を掲げよ!」
断崖の上からカンシュクの弓隊の矢が雨あられと降り注ぐ。高所から放たれる矢は盾を貫く。矢を浴びて夏軍は混乱した。次々と兵が倒れていく。
「これは堪らん!下がれ!下がれ!」
リョヘイは兵たちに石門の中に戻れと叫んだ。
「いくぞ!押し返せ!」
ドウサイの隊が石門の中に突入した。テイゴ、コウビが暴れる。第1歩兵隊は温存した体力をここぞとばかり振り絞った。
夏軍は背中を討たれ、石門の中でも踏み留まることが出来ず、叩きだされた。
2日目の戦闘は夏軍に犠牲が多く出た。ドウサイは勝鬨を上げた。
◆
「石門を抜けたら敵が待ち構えていることくらい分かるだろ!この馬鹿者!」
カクレンは怒り、戻ってきて平伏しているリョヘイの顔面を蹴り飛ばした。想像以上に苦戦し苛立っていた。4万を率いてきたのに、投入出来た兵は3千にも満たない。それなのに既に1千程の犠牲が出ている。
「......まあよい。明日も石門に突入せよ」
リョヘイは地面に額をこすり付ける。
「我が命に代えましても、明日こそはリュウユウの首を取って参ります!」
カクレンは冷たい目でリョヘイを見下ろした。
(この程度の男にリュウユウが討たれるわけがない)
「その言葉忘れるなよ」
リョヘイはわなわなと震えながら、カクレンの立ち去る足音を聞いていた。頭を上げることが出来なかった。
◆
3日目。
再び、ドウサイの第1歩兵隊が石門の守りについた。石門の中に柵を設け盾を並べた。ボクシが周辺の木を伐り急造の柵を作っていたのである。
本来は馬の突撃を防ぐものではあるが、狭い石門の中に並べられると障害物になり、攻める側にとっては邪魔で仕方ないことであろう。
武器も短剣ではなく、短槍に変える。柵を使っての防戦では剣よりも有効であった。
「突撃!」
リョヘイは歩兵に突撃命令を出した。だが、2日目までとは違い、柵を除くのに手間取り、槍で突かれ全く進むことは出来なかった。
「くそ!小癪な真似をする!鉤縄を使え!」
リョヘイは声を枯らし突撃を繰り返し命じた。柵に鉤縄をかけ引き倒そうとする。だが縄は断ち切られるばかりで効果が無かった。
◆
「ふん......やはりこの程度か」
カクレンはリョヘイが苦戦している姿を見て苛立っていた。
「アリ。やれ」
「本当によいのですか」
「構わん。所詮はリョヘイは将軍の器ではないのだ。使い潰す」
アリはカクレンがまだ匈奴の王であった時から従う古参の将であった。洗脳したわけでは無いが、長い間、忠義を尽くしてきた最も信頼する人物である。後秦のお下がりのリョヘイとは違う。
◆
「ん?なんだ」
リョヘイは背後からの圧力を感じ振り返った。
「な......何を!」
アリは歩兵1万を狭い石門の中に無理やり突入させた。リョヘイは背後から押され、2千の兵ごと石門の中に押し込まれた。
「お......押すな!」
石門の中にいた兵たちは狼狽した。背後から押され前に出るしかなかった。止まると踏みつぶされてしまう。
ドウサイは兵が塊になって押し寄せてくるのを見て驚愕した。柵は倒され、槍で突かれた敵兵が倒れても次々と屍を踏みつぶしてやってくる。敵兵たちの悲鳴が聞こえ、ぐちゃりと潰れる。ドウサイはその光景に息をのんだ。
「味方さえも潰してくるのか.......なんて奴らだ」
押し寄せる圧力に抵抗できなかった。敵の先頭は押しつぶされ死んでいる者も多かった。リョヘイの軍は死に兵に使われたようなものだ。ドウサイたちは徐々に後退を余儀なくされた。そしてついに石門から押し出されてしまった。
「くそ!狙いが定まらない。味方に当たってしまう」
カンシュクは矢を撃つことが出来なかった。石門から味方も敵も団子になって出てきてしまっている。入り乱れての戦闘になっていた。
「ボクシ......なんだ、これは......」
「くそ!人海戦術で無理やり押し込んできた。ユウ、立て直せ」
俺はどうやって立て直してよいか分からなかったが、とりあえず旗を持ち掲げた。
「旗の元に集まるんだ!バラバラに戦うな!」
それを見てバラバラに戦っていたドウサイたちが集まってくる。乱戦がほどけて来る。
「よし!うまくいったぞ!隊列を整えよ!」
歩兵たちは整然と並び、夏軍に対して壁を作った。盾を揃え、槍を構え直す。夏軍の脚が止まった。カンシュクは味方と敵が離れるのを見て、矢を放った。夏軍に矢が降り注ぐ。
「立て直すのが早い。なかなかやるな」
アリは攻撃の停止を命じた。石門の中に後退し占拠する。乱戦のまま押し切るのが狙いであったが、ほどけてしまった。こうなっては石門の外は地形的に不利だ。
押し出されたリョヘイの頭にカンシュクの矢が刺さった。その屍は味方にも踏み潰され、無残にも土に埋もれてしまっていた。
「無能な将には用は無い。使い捨てられるだけだ」
アリはリョヘイの最期を見てもなんとも思わなかった。ただ黙々と石門を奪還されぬよう防備を固めるのであった。




