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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第5章 西征編

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42話 白帝城

 俺は歩兵の到着を待った。馬は使い物にならない。モウチョウや騎兵たちは馬に水を与え、体を揉みほぐしていた。夕方になると馬を曳いて歩かせた。疲れているからといって、休ませたままだと本当に使い物にならなくなってしまう。俺もモウチョウがやっているのを真似た。


「モウチョウ。馬に人間の言葉通じるのかな」


「毎日話しかけていれば通じる。将軍もそうするべきだ」


 俺は馬に話しかけようとして、ふと気が付いた。


 名前が無い。


 これほどデカイ体で乗り回しておきながら、どこか馬の事をただの乗り物だと思っていた。こうして鼻面を撫で、身近に息遣いを感じると生き物なんだと改めて感じる。


「お前に名前をつけてやる。そうだな......お前の名前は今日からツノッチだ」


 どうという事はない。俺が転生前によく打っていたスロットのキャラクターの名前だ。どうやら俺には名前を付けるセンスが壊滅的に無いようであった。


「おい、将軍。変な名前つけるなよ」


「いやいや、モウチョウ、よく見ろよ。喜んでいるように見えないか」


 馬が鼻息を鳴らし、尻尾を上げた。尻の穴から馬糞がボトボトと落ちてきた。


「......もう少し、馬の気持ちになってみることだな」


 俺は馬糞を掃除しながら、お前の名前はツノッチだと繰り返し言った。馬はデカイ欠伸をした。特に関心が無いようであった。


 漢水に何隻もの船が浮かんでいる。シバチョウの兵たちが物資を乗せ出発の準備をしていた。どうやら俺の歩兵の到着を待たず、さっさと出発するつもりのようであった。


 俺はボクシと白帝城の中を歩いた。所々、廟があった。


「この耳の長いおっさんは誰だ。偉いのか」


「......お前、本当に歴史の勉強をしろよ。この方はリュウビだ」


「ああ......リンちゃんが言っていた蜀の皇帝ね」


 ボクシが言うには、白帝城は蜀のリュウビが呉との戦いに負けた後に、最期の時を過ごした場所だという。ショカツリョウを呼び、蜀の後事を託した場所でもある。リュウビは漢王朝の血筋と名乗っていたが、寒村のむしろ売りから成り上がった人物である。


 俺はそれを聞いて、自分と共通点があるなと感じ、廟の木像に向かって手を合わせた。


「そう言えば、前に言っていたリュウホウと名前似てるな。あいつも農民だったんだろ」


「お前、酷いこと言うな。リュウホウに憧れていたのではないのか」


「まあな。農民から皇帝に成り上がるんだぞ。すごいだろ」


 リュウビにリュウホウ。皇帝に成り上がった人物。俺もそうなりたい。でなければ何の為に転生したのか分からない。


「俺たちもリュウ姓だ。リュウビの子孫を名乗ってもいいんじゃないか」


「そんなものは名乗ったもの勝ちだ。だいたい、お前さっきまでリュウビの事を知らなかっただろ」


 俺は笑った。ボクシも笑っていた。


 夜、寝苦しくて目が覚めた。


「おい。起きろ」


 俺はハッとして目が覚めた。体を起こそうとしたが動かなかった。


「だ.......誰だ、お前」


 枕元に耳の長い人物が立っていた。廟にあった木像と同じ顔であった。リュウビだ。


「ひええええ!お化けだ!」


「お化けではない。ユウよ。ワシはお前の父だ」


 俺は聞き間違えたかと思った。なぜリュウビが俺の父なのだ。


「ワシに似ずデカイ体だな。まあ顔は母親のビ夫人に似ているか」


「な......何を言ってるのだ。分かるように言え」


「そうだな......こうしてお前が戻ってきたのだ。よく聞け息子よ」


 リュウビが語った内容は驚愕であった。かつて、まだ蜀を建国する前の話。リュウビは負け続け、各地を転々とする流浪の軍であった。ソウソウが荊州に侵攻し、逃げる途中に、まだ赤子であった子供と妻のビ夫人とはぐれた。


 リュウビの配下の将軍のチョウウンが捜索に出た。大軍に囲まれたビ夫人は赤子を抱えたまま井戸に身を投げたのだ。チョウウンはあと少しの所で間に合わず、目の前で井戸に落ちていくのを目撃してしまった。チョウウンは井戸に入り救いだそうとしたが、ビ夫人は頭を打ち即死しており、赤子の方は探してもどこにもいなかった。


 チョウウンはやむを得ず、その辺りで泣いていた赤子を拾い上げ連れて帰った。リュウビは赤の他人の赤子を見て放り捨てた。チョウウンは「殿の子が死んだら全軍の士気に関わります。この赤子を実の子とするのです」と言った。リュウビは渋々、その赤子にアトと名付け育てるのであった。


 アトは大きくなりリュウゼンと名乗った。だが、決定的にアホであった。学問も出来なければ、力もないし、指導力もない。2代目皇帝にするには荷が重すぎた。


 だから、ショカツリョウには、リュウゼンに取って代わってしまってよいと言った。だが、真面目なショカツリョウはリュウゼンに仕え、結局は過労死してしまった。彼の死後、蜀はあっという間に滅ぼされてしまった。


「その井戸に落ちた赤子が俺だと言うのか」


「......そうだ」


 信じられなかった。井戸に落ちて転生して現代の日本に来たというのか。そしてそこでも死んで、この世界に戻ってきたという事になる。


「俺があんたの息子だという証拠はあるのか」


「ない。ワシの勘だ。出来ればそこで寝ている男の方が良かったが、勘がお前の方だと告げている」


「え!?」


 俺は隣で寝ているボクシの方を見た。この騒ぎでも気づかず、すやすやと眠っている。


「まあ良い。お前にはワシの悲願であった漢王朝再興をして欲しい」


「断る」


「なんだと!なんでよ!そこは分かったと言うところじゃろ」


「皇帝にはなる。だけど漢王朝とかはどうでもよい」


「.......そうか。しかし、お前が皇帝になればそれでよい。託したぞ」


 そう言ってリュウビは消えた。俺は勘だと言われて、逆に信じた。俺の勘もリュウビの言うことは真実だと告げていた。


「おい、ボクシ。俺はリュウビの子供らしい......」


「は?まだ寝ているのか。寝言は寝ているときに言うものだぞ」


「いや、俺はいつかリュウビの子孫を名乗り立ち上がる」


 ボクシは黙って俺を見ていた。それも悪くない話だと思っているようであった。


 残りの軍も到着した。漢中に向けて進軍の準備をしていた。その時、ギエイが血相を変えてやってきた。息を切らしており、すぐに話す事が出来ない様子であった。俺はギエイが落ち着くのを待った。




 長坂の戦いは三国志のチョウウン(趙雲)が単身、曹操の大軍に切り込み、劉備の子供を救出する場面がある有名な戦いです。数々の小説でも語られ、映像化もされた名場面の1つで、この改変は三国志ファンから怒られるかもしれません(笑)

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