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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第5章 西征編

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39話 いっときのハーレム

 建康は京口とは別の世界だった。


 城壁が高い。道が広い。行き交う人間の数が違う。商人、貴族、兵士、官吏。それぞれが別の顔をして同じ石畳を歩いていた。


 俺とボクシだけだった。将軍になったとはいえ、連れてこられたのは二人だけだ。


「大きい街だな」


「建康だ。東晋の都だ。当然だ」


 ボクシが周囲を見ながら言った。


 正式な任命式が行われた。


 皇帝が玉座に座っていた。目が虚ろだった。何も分かっていないような顔をしていた。辞令が読み上げられた。リュウユウ、将軍に任ずる。皇帝が頷いた。だがその目は俺を見ていなかった。どこか遠くを見ていた。


 式が終わった後、ボクシが小声で言った。


「あれが皇帝だ」


「……知っている」


「見れば分かるだろう。カンゲンが全部仕切っている。皇帝は飾りだ」


 俺は何も言わなかった。


 その夜、カンゲンの屋敷に招待された。

 広かった。京口の屋敷など比べものにならない。庭に池があった。橋がかかっていた。灯りが水面に映っていた。


 歓待を受けた。食事が並んだ。見たことのないものばかりだ。酒が注がれた。香りが違った。


 カンゲンが上座に座っていた。扇を手に持ったまま微笑んでいた。


「リュウユウ将軍。よく来てくれた」


「お招きいただきありがとうございます」


「遠慮はいらない。今夜はゆっくりしてくれ」


 俺はカンゲンを見た。初めて間近で見た。細身の男だ。目が鋭い。笑っているが目が笑っていない。


 この男がシャアンの敵だ。幼王を殺した男だ。

 だが今は笑顔で酒を勧めてくる。


 翌日、建康に屋敷が与えられた。


 大きかった。門をくぐると庭が広がっていた。部屋がいくつもあった。


 そして風呂があった。


 広かった。石造りで湯気が立ち上っている。こんな風呂は見たことがなかった。


 侍女がいた。たくさんいた。色とりどりの衣を着た女たちが並んで頭を下げた。


「将軍のお世話をいたします」


 俺は固まった。

 ボクシが小声で言った。


「カンゲンからの贈り物だ」


「……分かっている」


 分かっていたが、これほどとは思っていなかった。


 夜になると侍女が順番にやってきた。

 一人目が来た。断れなかった。

 二人目が来た。気づいたら朝になっていた。

 三人目が来た。

 俺は骨抜きになっていった。


 これまでの人生でこんな経験はなかった。チンピラだった頃、女に縁などなかった。北府に入ってからも戦いばかりだった。


 それが今、こうなっていた。

 悪い気はしなかった。というか、何も考えられなかった。


 ボクシがいつの間にかいなくなっていた。どこに行ったのか聞いていなかった。そのことに気づく余裕もなかった。


 数日後の昼間だった。

 俺は風呂に入っていた。


 湯気が立ち込めていた。広い湯船に肩まで浸かっていた。侍女が三人、湯船の縁に腰かけて俺の肩や背中を揉んでいた。別の二人が湯を足していた。


「将軍、肩が凝っていますね」


「戦場に出ていたのですから当然ですわ」


 俺はすっかり緩んでいた。目が半分閉じていた。


(これがずっと続けばいいのだが)


 その時、廊下の方が騒がしくなった。


「お待ちください。将軍は今……」


「うるさい。どきなさい」


 聞き覚えのある声だった。

 俺は目を開けた。


 扉が勢いよく開いた。

 アイが立っていた。


 湯気の中の光景を見た。俺と侍女たちが湯船に並んでいるのを見た。


 一瞬固まった。


 それから目が変わった。ゆっくりと剣を抜いた。


「……何これ」


「アイ。これには事情が」


「事情?」


 アイが一歩入ってきた。侍女たちが悲鳴を上げて飛び退いた。


「女の尻を追い回して風呂に入っていることに、どんな事情があるの」


「カンゲンを油断させるための作戦で……」


「黙りなさい」


 アイの声が低くなった。


「あなたのそれを斬り落とすわよ」


 湯船の中で俺は両手で股間を押さえた。

 ボクシが扉の外から顔だけ出していた。腕を組んでいた。ざまあみろという顔をしていた。


 侍女たちが浴場の隅で肩を寄せ合って震えていた。


「将軍……助けてください」


「黙っていて」


 アイが侍女たちを一瞥した。それから俺を見た。


「どうするの」


 俺は湯船から出た。

 床に額をつけた。


「……すまなかった」


 濡れたまま土下座だった。

 長い沈黙が続いた。


「……分かった。今回だけよ」


 アイの声がわずかに和らいだ。

 侍女の一人が恐る恐る声をかけた。


「あの……私たちは……」


「あなたたちは悪くない」


 アイが静かに言った。


「ただ帰ってください」


 翌日、俺はカンゲンの屋敷に出向いた。


「侍女たちをお返しします」


 カンゲンが扇を止めた。


「……気に入らなかったか」


「ありがたいお心遣いですが、身に余ります」


 カンゲンの目が細くなった。


「そうか」


 それだけだった。だが扇の動きが変わった。

 シュカが傍らで俺を見ていた。

 俺は頭を下げて屋敷を出た。


 カンゲンが小さく言うのが聞こえた。


「……取り込めないか」


 その頃、京口では。


 リュウロウシの様子がおかしかった。


 シャアンが死んでから、どこか変わった。北府を率いる重圧だけではない。もっと別の何かがある。


 執務室に一人でいることが増えた。酒を飲む量が増えた。部下への言葉が短くなった。


 ドウキが心配して声をかけた。


「将軍。お体は」


「問題ない」


 それだけだった。


 リュウロウシは窓の外を見ていた。


 シャアンは自分ではなくユウに託した。なぜだ。自分はシャアンのために北府を守ってきた。シャアンの剣であろうとしてきた。それなのに。


 嫉妬だと分かっていた。みっともないと分かっていた。だが消えなかった。


 その時、来訪を告げる声がした。


「シュカ殿がお見えです」


 リュウロウシが目を上げた。

 扉が開いた。


 シュカが入ってきた。笑顔だった。


「リュウロウシ将軍。ご無沙汰しております」

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