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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第5章 西征編

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38話 処刑

 リュウロウシが四万を率いて到着した。


 城壁を見上げた。東晋の旗が立っていた。すでにシャカイたちが城内を制圧していた。


「……落ちているな」


 リュウロウシが静かに言った。


「はい」


「どうやって落とした」


 俺は少し間を置いた。


「信者に紛れさせて城内に侵入させました。ビャクレンを見つけ、襲撃しました。逃げられそうになりましたが、海まで追いかけました。海に身を投げました」


 リュウロウシが俺を見た。


「証はあるか」


 俺は懐から赤いそれを取り出した。


 リュウロウシが目を細めた。しばらく黙って見ていた。それから小さく笑った。


「……以前にも聞いたことがあるな。そういう話を」


「はい」


「お前という男は」


 リュウロウシが首を振った。呆れているのか笑っているのか分からない顔だった。


 カムキが腕を組んだまま黙っていた。釈然としない顔だった。


「ユウ」


「何だ」


「いつの間に城が落ちていた。俺が気づいた時にはシャカイたちが城内を歩いていた。何がどうなったのか、誰も説明してくれない」


「うまくいった」


「それだけか」


「それだけだ」


 カムキがしばらく俺を見ていた。それから深く息を吐いた。


「……まあいい」


 納得はしていなかった。だが追及しなかった。



 こうして南燕は滅んだ。


 残された幼王が城から連れ出された。まだ幼い。父のトクに似た顔をしていた。周囲を見回していた。母を探しているようだった。


 幼王は建康に護送されることになった。



 建康では、カンゲンが報告を受けていた。


 扇を手に持ったまま、動かなかった。


「……もう落ちたのか」


 シュカが頭を下げた。


「はい。想定より早く」


「北府はもっと消耗するはずだった」


 カンゲンが扇を閉じた。


「ビャクレンの証は」


「赤い下着と申しておりました」


「……赤い下着が証になるか」


 カンゲンの目が細くなった。怒りが滲んでいた。


 その時、幼王が連れてこられた。


 カンゲンが幼王に向き直った。


「これはお前の母のものか」


 幼王が赤いそれを見た。しばらく黙っていた。


「……母上のものだ」


 幼王の目が揺れた。母親がどこにいるのか分からない。海に身を投げたと聞いている。それがこうして証として目の前に出てきた。


 カンゲンが扇を開いた。


「認めるしかないな」


 周囲が静まり返った。


 母に見捨てられた形になった幼王に、その場にいた者たちの目が集まった。同情が広がった。


 カンゲンが静かに言った。


「処刑する」


 その場が固まった。


「後顧の憂いを絶つ。南燕の血筋を残してはならない」


「カンゲン様」


 ジョセンシが前に出た。


「幼王はまだ幼い。何の罪もない子供です。処刑は」


「黙れ」


「しかし……」


「黙れと言っている」


 カンゲンの声に温度がなかった。


 トウリョウも前に出た。


「ジョセンシの言う通りです。これは道理に反します」


「道理」


 カンゲンが二人を見た。


「道理を説くか。ならばお前たちに道理を教えてやろう。邪魔な者は消える。それが道理だ」


 カンゲンが手を振った。


「二人とも追放する。今すぐ建康を出ろ」



 その話が北府に届いたのは数日後だった。


 ボクシが報告した。


「カンゲンが幼王を処刑した。反対したジョセンシとトウリョウを追放した」


 俺は黙っていた。


 カンゲンへの怒りはずっとあった。シャアンの敵として。北府を骨抜きにしようとした男として。だがそれはどこか政治の話だった。


 乱世では珍しくない判断だと分かっている。後継者となり得る者を残せば禍根になる。合理的な判断とも言える。


 だが分かっていても、許せなかった。


 あの幼王の顔が頭から離れなかった。母を探すように周囲を見回していた顔が。


 胸の中で何かが冷えた。怒りではなかった。もっと深いところにある、静かな嫌悪だった。


「カンゲンは……」


 俺は言葉を探した。


「人でなしだ」


 ボクシが黙った。


 カムキが低く言った。


「同感だ」


 誰も何も言わなかった。



 論功行賞が行われた。


 南燕を滅ぼした功績は無視できなかった。建康から辞令が届いた。


 リュウユウ、将軍に任ずる。


 異例の出世だった。千人将から将軍へ。五千人将を飛び越えた。北府の将兵がざわめいた。


「……将軍か」


 ボクシが静かに言った。


「カンゲンにしては気前がいいな」


「気前がいい時ほど裏がある。前にも言ったな」


「そうだ」


 ボクシが地図を広げた。


「カンゲンはお前を建康にとどめようとするはずだ。将軍という地位を与えて手駒にしようとしている。北府から切り離したい」


「受けるか」


「受けるしかない。だが……」


 ボクシが地図を指で叩いた。


「建康に入れば、カンゲンの目の届く場所に置かれる。動きを制限される。何かを仕掛けてくる可能性もある」


 俺は将軍の辞令を見た。


 シャアンが言っていた。大将軍を目指せ。


 まだ途中だ。


「行く」


「覚悟の上か」


「カンゲンの手駒になるつもりはない。だが逃げるつもりもない」


 ボクシが少し間を置いた。


「……気を付けろよ」


 俺は辞令をたたんだ。


 まだ終わっていない。それだけは確かだった。

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