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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第4章 破約

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37話 本当の名前

 リンシが船着き場へ案内した。チョウセキが先に乗り込んで準備を整えていた。


 ゴロウがリンシとチョウセキの前に立った。懐から何かを取り出した。


 宝石だった。深い赤色をしていた。見たことのない石だ。


 チョウセキが目を見張った。しばらく黙って石を見ていた。


「……これは」


「船代だ」


 ゴロウが短く言った。


 チョウセキが石を手に取った。指で転がした。目が細くなった。


「……珍しいものを持っている」


「文句があるか」


「ない。むしろ釣りが出る」


 リンシが静かに笑った。


「では決まりですね」



 俺はリンシを見た。


「お前も行くのか」


「商人ですから。倭との交易の足がかりになるかもしれません」


「……商売のためか」


「それだけではないですが」


 リンシが微笑んだ。それ以上は言わなかった。


 ビャクレンがリンシを見た。


「帰りは昆布でも仕入れるといいわ。あちらには良いものがある」


 リンシが目を丸くした。


「昆布……ですか?倭にそのようなものが」


「ええ。きっと売れますよ」


 リンシがしばらくビャクレンを見ていた。それから懐から手帳を取り出した。


「……詳しく聞かせてもらえますか」


 チョウセキが呆れた顔で言った。


「お前ら、今から商売の話をするのか」


 ビャクレンが笑った。


 リンシも笑った。


 俺は二人を見ていた。なんだかよく分からない気分だった。



 船に案内されながら、俺は甲板を見回した。


 船乗りたちが忙しく動いていた。綱を引く者、帆を確認する者。その中に一人、黙々と綱を扱っている女がいた。


 その横顔を見た瞬間、俺は足が止まった。


(……まさか)


「ソンオン」


 女が振り向いた。


 俺の声を聞いて固まった。


 ビャクレンが俺の隣にいた。ソンオンを見た瞬間、息を呑んだ。


「……ソンオン?」


 ソンオンの目が大きくなった。ビャクレンを見た。


 誰も動かなかった。


 波の音だけが聞こえた。


 ソンオンの目に何かが滲んだ。唇が少し震えた。だが声が出なかった。ビャクレンも動けなかった。ただ互いを見ていた。


 しばらくして、ソンオンがようやく口を開いた。


「生きていたのか」


 声が掠れていた。


 チョウセキが首をひねった。


「知り合いか?この女、岸に流れ着いていたのを拾ったんだが」


 誰も答えなかった。


 答える者がいなかった。



 ボクシが俺を呼んだ。


「ビャクレンは死んだことにする。だが証が必要だ。何かないか」


 俺は少し考えた。


 ソンオンと目が合った。


 俺は頭を掻いた。顔が熱くなるのを感じた。


「……以前、崖でお前から下着を剥ぎ取ったことがある。あれを証として使った」


 ソンオンが一瞬固まった。それからゆっくりと目を細めた。


「……あの時の、ね」


 笑い出した。


 ビャクレンが首をひねった。


「下着が証になるんですか」


「なった」


 俺はそれ以上説明しなかった。


「ならば」


 ビャクレンが静かに言った。


 その手が衣の胸元に入った。


 一同が固まった。


 ビャクレンが衣の前をはだけた。白い肌が月明かりに浮かんだ。豊かな双丘が露わになった。その間から赤いそれを引き抜いた。衣を閉じた。一連の動作が淀みなかった。まるで何でもないことのように。


 ビャクレンがそれをユウに差し出した。


「これで十分ですか」


 誰も動かなかった。


 ゴロウが顔を背けた。フコウシが前を向いたまま微動だにしなかった。コウビの顔が赤くなった。モウシュウシは完全に固まっていた。テイゴは無言で天を仰いだ。ボクシが小さく咳払いした。


 アイの顔が真っ赤だった。ビャクレンを見ていた。ビャクレンがアイを見た。二人の目が合った。


 アイが顔を背けた。


 俺はビャクレンの手からそれを受け取った。


「……十分だ」


 ビャクレンがまた微笑んだ。



 一行が船に乗り込んだ。


 綱が解かれた。船がゆっくりと動き出した。


 俺は岸に立って見送った。


 ビャクレンとソンオンが船首に並んで立っていた。


 二人は海を見ていた。しばらく黙っていた。


 それからビャクレンがソンオンを見た。


 ソンオンがビャクレンを見た。


 二人がお互いの名前を呼んだ。この世界では誰も知らない名前を。


 二人が抱き合った。


 岸が遠くなっていく。船の輪郭が小さくなっていく。


 アイが俺の隣に来た。何も言わなかった。


 俺も何も言わなかった。


 二人で船が見えなくなるまで立っていた。


 波の音だけが続いていた。

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