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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第4章 破約

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36話 再会そして東の海へ

 夜の城内で、両者は動かなかった。


 ギエイと四人。セキカと暗殺団。


 どちらも息を潜めていた。


 ギエイが静かに口を開いた。


「我々はビャクレン様を傷つけに来たのではありません」


 セキカが答えなかった。


「ビャクレン様を逃したい。東の島国へ。カンゲンの手が届かない場所へ」


 セキカがしばらく黙っていた。その目は冷たいままだった。だが殺気が少し変わった。


「……武器を置け」


 ギエイが四人を見た。四人が順番に武器を地面に置いた。


「ビャクレン様に直接聞く」


 ギエイたちは囲まれたまま連れていかれた。



 ビャクレンの前に立った。


 ギエイが説明した。東晋の先鋒の将が計画したこと。カンゲンの思惑。建康に護送される前に逃がしたいこと。倭という島国のこと。


 ビャクレンは静かに聞いていた。


 倭という言葉が出た瞬間、目が変わった。


 ギエイが気づいた。だが何も言わなかった。


「条件がある」


 ビャクレンが静かに言った。


「何でしょうか」


「リュウユウに会わせろ」



 ギエイが戻ってきた。


「ビャクレン様にお会いできました」


「どうだった」


「条件があると言われました」


「何だ」


「リュウユウに会わせろ、と」


 俺は黙った。


 ボクシが俺を見た。何も言わなかった。



 その前に片付けることがあった。


 リンシとチョウセキを呼んだ。


「頼みがある」


 チョウセキが腕を組んだ。話を聞きながら、だんだん顔が険しくなっていった。


「……東の国か」


「倭だ」


「細々とではあるが交易はある。だが海が荒れる。時化れば船ごと沈む。高くつくぞ」


「分かっている」


「分かっているで済む話じゃない。船頭も嫌がる。積み荷も限られる」


 チョウセキが頭を掻いた。


「……何人だ」


「まだ分からない。ビャクレンと、その手勢」


「手勢……何人だ」


「それも分からない」


 チョウセキが天を仰いだ。


「お前という男は……」


 リンシが静かに笑った。


「チョウセキ。お願いできますか」


「……リンシが頼むなら断れないが」


「貸しですよ」


「分かっている。分かっているが……」


 チョウセキが深く息を吐いた。


「やってやる。だが次から次へと無茶を言うな」


「ありがとう」


「礼はいい。準備を始める」


 チョウセキが立ち上がって去っていった。


 リンシが俺を見た。


「ユウ。ビャクレンという人は……どんな方ですか」


「……会えば分かる」


 リンシが少し間を置いた。


「そうですね」


 それだけだった。



 深夜、俺は少数だけ連れて城壁の外で待った。


 ボクシ、ギエイ。それからアイが黙ってついてきた。止めなかった。止める理由が見つからなかった。アイは何も言わなかった。俺も何も聞かなかった。


 静かだった。遠くで虫の声がした。


 城門がわずかに開いた。


 人影が出てきた。


 先頭にビャクレンがいた。白い衣が夜の闇に浮かんでいる。その後ろにセキカ。そして数人の手勢。フコウシ、コウビ、モウシュウシ、テイゴの四人がビャクレンの手勢の後ろについた。


 四人の顔が強張っていた。コウビはいつもの大声が出ない。モウシュウシは唇を引き結んでいた。フコウシは無言で前を向いていた。テイゴは無言のまま手が柄の近くにあった。


 ギエイは無言で周囲を確認し続けていた。


 一人の男がビャクレンの隣から前に出た。目つきが鋭い。周囲を素早く確認していた。その顔を見て、俺は思い出した。


 広固だ。オウヒツの護衛として行ったあの時に会った男だ。


「……ゴロウか」


 男が俺を見た。少し目を細めた。


「あの時の護衛か」


「そうだ」


 ゴロウがしばらく俺を見ていた。面識があると分かっても、警戒は解かなかった。それでも表情がわずかに変わった。


 ゴロウがビャクレンに何か言った。ビャクレンが静かに首を振った。ゴロウがまた言った。ビャクレンが今度は少し強く首を振った。


 ゴロウは黙った。だが離れなかった。手勢を連れたまま後ろについた。


 ビャクレンが俺の前に来た。


 月明かりの中で顔が見えた。


「……久しぶりだな」


「……ええ」


 それだけだった。


 なぜか言葉が出なかった。ビャクレンも黙っていた。



 馬を並べて駆けた。


 夜風が冷たかった。蹄の音が地面に響いた。


 誰も喋らなかった。


 ギエイが先頭で周囲を確認しながら走った。フコウシは口を引き結んだまま前を向いていた。コウビは大声どころか息も殺していた。モウシュウシは顔が強張っていた。テイゴは無言のまま後方を時折振り返った。


 いつ追っ手が来てもおかしくなかった。


 城からどんどん離れていく。後ろを見た。松明の火が小さくなっていく。


 ビャクレンは前を向いたまま何も言わなかった。


 俺も何も言わなかった。


 ただ馬を走らせた。



 海についた。


 チョウセキの船が沖に停まっていた。松明の火が揺れていた。


 コウビが小さく息を吐いた。


「……着いたか」


 それだけだった。四人の肩から力が抜けた。


 俺はビャクレンと並んで立った。


 波の音がした。潮の匂いがした。


 ビャクレンが海を見ていた。


「倭……」


 小さく呟いた。


「知っているのか」


「……ええ。知っています」


 ビャクレンが俺を見た。


 俺もビャクレンを見た。


 何かを言おうとした。言葉が出なかった。ビャクレンも同じだった。


 しばらく二人で見つめ合っていた。


 その時、ビャクレンの目が俺の後ろに動いた。


 俺は振り向いた。


 アイがいた。


 アイがビャクレンを見ていた。複雑な目だった。警戒と、もう一つ何かが混じった目だった。隠しているつもりかもしれないが、隠しきれていなかった。


 ビャクレンがそれを見た。


 しばらく黙っていた。


 それからゆっくりと俺に向き直った。


 微笑んだ。


「……行きます」


「ビャクレン」


「この世界に、あなたを思う人がいる」


 俺は何も言えなかった。


「それで十分です」


 ビャクレンが船着き場へ向かった。


 俺はその背中を見ていた。


 何か言わなければならない気がした。だが言葉が出なかった。


 波の音だけが続いていた。

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