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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第4章 破約

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34話 潜入

 城壁の上から、東晋の旗が見えた。


 先鋒だ。二千ほどか。

 私は手すりに手をかけたまま、その旗を見ていた。


 約束を破って来た。三年の不可侵。トクが交わした約束だ。だが東晋はそれを破った。カンゲンが破らせた。信者たちはそれを知っている。だから怒っている。だから死ぬつもりで出ていく。


「ビャクレン様」


 侍女が来た。


「また信者が城門を出ようとしています。止めますか」


 私は少し間を置いた。


「……止めない」


「ですが」


「止める資格が私にあるか」


 侍女が黙った。


 私には分からなかった。50万が死んだ。魏の連環馬に踏み砕かれた。私が燕に入ったから、トクを取り込んだから、信仰の国を広げようとしたから、魏が動いた。


 救済を叫びながら、信者を死に追いやった。

 それが正しかったのか。今でも分からない。


 トクのことを思った。


 子がいる。顔はトクに似ていた。私には似ていない。私はこの世界で産んだが、母親になった実感がまだない。


 トクとの関係は何だったのか。信者と教祖の延長線上だったと思う。トクは私を崇めていた。私はトクを利用していた。愛だったのか。今となっては分からない。


 それよりもなぜ、あの夜のことを忘れられないのか。


 ユウ。


 一夜だけだった。それだけだ。だがあの感触が、声が、今でも消えない。なぜか。同じ転生者同士だったからかもしれない。この世界で私と同じ場所から来た人間。それだけのことかもしれない。


 だがそれだけではない気がする。

 自分でも分からなかった。


 今日も信者が入城してきた。


 遠くの村から歩いてきた者もいる。老いた者もいる。子供を連れた母親もいる。みんな私を見る。ビャクレン様、と呼ぶ。


 私は一人一人の前に座った。口移しで米を渡す。毎日続けている。いつから始めたのか。いつまで続けるのか。


 分からない。


 ただ続けている。続けなければ私は何者でもなくなる。そんな気がしていた。


 伝令が来た。


「東晋の先鋒の将軍が判明しました。リュウユウという千人将です」


 手が止まった。


「……リュウユウ」


「はい。北府の将です。白紙将校と呼ばれているとか」


 白紙将校。あの男だ。


(ユウ)


 会いたい。

 その感情が出てきた瞬間、私は自分に驚いた。何を考えているのか。あの男は今、私がいる城を攻めに来ている。会いたいとは何だ。


 だが感情は消えなかった。

 消えなかった。


 東晋の陣では膠着が続いていた。

 カムキが来た。


「正面からでは埒が明かない。あいつらは止まらない」


「分かっている」


 俺は地図を見ていた。下邳の城壁は厚い。信者の数は減らない。むしろ増えている。城外で戦っている者がいる一方で、城内に入り込む者がいる。


 その時ボクシが口を開いた。


「一つ手がある」


「何だ」


「信者が今も城内に入り込んでいる。俺たちも紛れ込める」


 カムキが眉をひそめた。


「潜入か」


「そうだ。城門が完全に閉じていない。信者の流れに乗れば入れる可能性がある。城内の様子を掴めれば次の手が打てる」


「誰が行く」


「ギエイが適任だ。それと新しい四人を連れて行け」


 カムキが首をひねった。


「なぜ新顔を」


「古参は南燕との戦いで顔を見られている可能性がある。新顔の方が信者に紛れやすい」


 フコウシ、コウビ、モウシュウシ、テイゴの四人が顔を上げた。フコウシが静かに言った。


「やります」


 コウビが大きく頷いた。


「任せろ」


 モウシュウシが目を輝かせた。テイゴは黙って頷いた。


「リュウロウシ将軍の後続四万が来るまで待つつもりはない。合流まで時間がかかりすぎる。その間も兵が削られ続ける」


「長期化は避けたい」


 カムキが言った。


「賛成だ。やってみろ」


 俺も頷いた。


「ギエイ。頼む」


「はい」


 ギエイが立ち上がろうとした時、アイが黙っているのに気づいた。

 いつもならもう何か言っている。それが今日は黙っている。地面を見ている。


「アイ」


「……何」


「どうした」


「何でもない」


 そう言ったが、顔が違った。

 俺には分かった。ビャクレンのことを考えている。支援で従軍しているアイは、城の中に誰がいるか知っている。


 だが俺は何も言えなかった。

 アイも何も言わなかった。


 ギエイと四人が静かに立ち上がり、夜の闇に消えていった。

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