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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第4章 破約

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31話 喪

 京口に戻ると、シャアンはすでに埋葬されていた。


 葬儀は静かだった。


 北府の将兵が全員集まった。千人将から兵卒まで、全員が喪服を着て並んでいた。普段は感情を見せない古参の兵たちが、目を赤くしていた。


 リュウロウシが弔辞を述べた。


「シャアン様は北府の父であった。その教えは我々の中に生き続ける」


 短かった。飾らなかった。だが誰もが黙って聞いていた。


 俺は位牌の前に立った。


 何も言えなかった。スロットしか知らなかった男が、気づけばここまで来ていた。全部、この人が導いてくれたわけではない。だが道標はいつもここにあった。


 香の煙が細く立ち上っていた。


 ◆


 葬儀の後、リュウロウシが俺を執務室に呼んだ。


「シャアン様からお前に預かっていたものがある」


 書状だった。


 手が少し震えた。開いた。


 筆跡は震えていた。病が進んでいた頃のものだと分かった。だが内容は明確だった。


「ユウへ。カンゲンを止めるのはお前しかいない。北府を頼む。リュウロウシを支えろ。大将軍を目指せ。お前ならできる。俺はそう信じている」


 それだけだった。


 俺は書状を持ったまま黙っていた。


「……重いな」


「そうだな」


 リュウロウシが静かに言った。


「だがシャアン様はお前を選んだ。俺ではなく、お前を」


「なぜ俺なんですか」


「さあ。俺にも分からん」


 リュウロウシが少し笑った。珍しい顔だった。


「だがシャアン様の目に狂いはなかった。少なくとも、俺はそう思っている」


 俺は書状を懐にしまった。


 ◆


 その夜、リュウロウシが珍しく酒を飲んでいた。


 俺が呼ばれた。二人で杯を重ねた。リュウロウシは寡黙だった。しばらく黙って飲んでいた。


「ユウ」


「はい」


「俺はもう老いた」


「将軍……」


「シャアン様がいた頃は、この人を守ればいいと思っていた。北府はシャアン様のものだった。俺はその剣であればよかった」


 リュウロウシが杯を置いた。


「だが今は……北府を誰が支えるのか。俺が死んだ後、誰が守るのか」


「将軍はまだ……」


「まだ動ける。だが時間は限られている」


 リュウロウシが俺を見た。


「お前が大きくなるまで、北府を持たせなければならない。それが今の俺の仕事だ」


 俺は何も言えなかった。老将が自分に託そうとしているものの重さが、じわりと肩に乗ってくる気がした。


「将軍。俺はまだ五百人将です。大将軍などという話は……」


「今はそうだ。だがシャアン様はお前の10年後を見ていた。俺も同じものを見ている」


 リュウロウシが再び杯を手に取った。


「飲め。今夜だけは、難しいことは考えるな」


「……はい」


 二人で黙って飲んだ。夜が深くなっていった。


 ◆


 その頃、建康では。


 シュカがカンゲンの前に跪いていた。


「遅い」


 カンゲンの第一声だった。扇を手に持ったまま、冷たい目でシュカを見下ろしている。


「ハンリョウが討たれたことはすでに聞いている。西府の副将が敵の女将軍一人に討ち取られた。それをなぜ止めなかった」


「申し訳ございません。ハンリョウが独断で……」


「言い訳は聞いていない」


 シュカが頭を下げたまま黙った。


 しばらく沈黙が続いた。カンゲンが扇をゆっくりと動かした。


「それで。北府はどうだった」


「……北府の五百人将、リュウユウという男が際立っておりました。リュウロウシ将軍と連携し、カクレンを退散させました」


「五百人将が」


 カンゲンの目が細くなった。


「南燕との戦いでも頭角を現していたと聞く。今回もか」


「はい。ハンリョウが討たれた後、実質的に戦局を立て直したのはリュウユウでした」


 カンゲンがしばらく黙った。


「シャアンが死に、北府はリュウロウシだけと思っていたが……」


「カンゲン様」


「厄介な芽だ」


 カンゲンが扇を閉じた。


「早いうちに摘んでおく必要がある」


 ◆


 数日後、建康から使者が来た。


 論功行賞のため、リュウロウシと将校たちが建康へ出頭するようにとの命だった。


 建康の朝廷は広かった。カンゲンが上座に近い位置に座り、皇帝の名で褒賞が読み上げられた。


 前回の南燕戦とは比べ物にならなかった。金品の量が違う。北府への分配も明らかに多かった。


「北府の奮戦に対し、特に五百人将リュウユウの働きを称え、千人将に昇進を命ずる」


 その言葉が読み上げられた瞬間、周囲がざわめいた。


 俺は一瞬、自分の耳を疑った。


 千人将。


 正式な辞令だった。カンゲンが主導した論功行賞の中に、俺の名前があった。


「……受けていいんですか」


 俺はリュウロウシの隣で小声で聞いた。


「受けろ。断れば角が立つ」


 リュウロウシが静かに答えた。その顔は平静だった。だがその目は違った。何かを考えている目だった。


 朝廷を出た後、ボクシが俺の隣に来た。


「カンゲンにしては気前がいいな」


「そう思うか」


「思う。前回はほとんど何も寄越さなかった。今回はこれだ」


 ボクシが声を低くした。


「気前がいい時ほど、裏がある。何かを企んでいる」


「何を」


「まだ分からない。だがお前を昇進させることで、何かを得ようとしている」


 俺は建康の空を見上げた。


 千人将。悪い話ではない。だが手放しで喜べる気がしなかった。


 懐の書状が重かった。


 ◆


 京口に戻ると、俺はその夜、屋敷の縁側に座っていた。


 夜風が冷たかった。


 懐から書状を取り出した。シャアンの震える筆跡を、もう一度読んだ。


(お前ならできる)


 千人将になった。シャアンが見ていた10年後には、まだ遠い。


 だがやるしかない。それだけは分かった。


 俺は書状を丁寧にたたんで、また懐にしまった。


 夜の京口が静かだった。遠くで波の音がした。

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