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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第3章 襄陽の激闘編

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30話 落城

 七日目の朝だった。

 東晋の陣に疲労の色が濃くなっていた。


 毎日攻めた。毎日弾かれた。梯子をかけては落とされ、丸太で門を叩いては跳ね返され、投石車の石は城壁に傷一つつけられなかった。井闌車はヨウソウの火魔法で灰になった。


 兵の目から光が消えかけていた。


「早く落とせ」


 シュカが書状を手に持っていた。顔が強張っていた。


「カンゲン様からの催促だ。これで三度目になる」


「焦っても城は落ちない」


 リュウロウシが静かに言った。


「兵糧攻めしかない。補給はリンシの商会が充実させてくれている。時間をかければ必ず落ちる」


「時間はない」


「なぜだ」


「カンゲン様が……」


「カンゲン殿の都合で兵を無駄死にさせるつもりか」


 シュカが口を閉じた。目が細くなった。


「リュウロウシ将軍。此度の総指揮は私が預かっております」


「それは承知している」


「ならば私の命に従っていただく。今日も総攻撃をかける」


 リュウロウシが黙った。

 シュカが全軍に命じた。


「総攻撃だ。城壁に梯子をかけろ」


 また梯子がかかった。

 また矢が降ってきた。

 また兵が落とされた。


 俺は後方から見ていた。歯噛みした。何度同じことを繰り返すんだと思った。だが命令だ。


「カンシュク」


 ボクシが声をかけた。


「例の弓は」


「まだ引けません」


 カンシュクが弓の前に座っていた。七日間、攻城の合間もずっと弓と向き合っていた。


「今日も試してみます」


 カンシュクが弦に手をかけた。魔力を流した。水系統の魔力だ。弦が光った。

 引いた。

 今日も引き絞れなかった。


 カンシュクが目を閉じた。何かを考えていた。それからもう一度弦に触れた。今度は魔力の流し方を変えた。一気に流すのではなく、ゆっくりと、弓の機構に合わせるように。


 弦が光り方を変えた。

 引いた。

 動いた。


「……!」


 カンシュクの表情が変わった。弦がじりじりと引き絞られていく。全部ではない。半分ほどだ。だが今までとは違った。


「もう少し……」


 カンシュクが魔力を絞り出した。弦がさらに引かれた。

 矢を番えた。城壁の上を見た。

 ヨウソウが指揮台に立っていた。兵に指示を出している。遠い。普通の弓では届かない距離だ。

 カンシュクが息を止めた。


 ヨウソウは城壁の上から東晋軍を見下ろしていた。

 七日間、持ちこたえた。このまま粘れば東晋の兵糧が尽きる。そうなれば引き上げるしかない。


「まだ持つ。兵糧はあと一月分ある……」


 その瞬間だった。

 何かが来た。

 巨大な矢だった。

 ヨウソウには避ける間がなかった。


 轟音がした。

 城壁の上の指揮台が揺れた。

 ヨウソウが崩れ落ちた。上半身を大きく抉られていた。即死だった。


 城壁の上が静まり返った。

 それから一気に乱れた。


「守将が……!」


「ヨウソウ様が!」


 指揮する者がいなくなった。兵たちが混乱した。矢が止まった。石が止まった。

 カンシュクが弓を下ろした。

 バキリという音がした。


 弓が砕けた。機構が崩れ、弦が切れた。一発で壊れた。


「粗悪品だったか……」


 カンシュクが呟いた。その顔は複雑だった。砕けた弓を見て、それから城壁を見た。


「それでも……届いた」


「今だ!」


 リュウロウシの声が飛んだ。

 梯子が一斉にかかった。

 俺は棍棒を握って梯子を登った。左肩にまだ痛みが残っていたが、構わなかった。城壁の縁に手をかけた。引き上がった。


 城壁の上に後秦の兵がいた。指揮を失って混乱していた。

 それでも戦おうとする者がいた。俺はその者たちと戦いながら前へ進んだ。ドウサイが横に並んだ。ショカツが続いた。カムキの隊が別の場所から登ってきた。


 城壁を制圧した。

 城門の内側に回った。閂を外した。門が開いた。

 東晋の兵が一気に流れ込んだ。

 制圧まで時間はかからなかった。


 襄陽が落ちた。

 俺は城内の広場に立っていた。

 戦の後の匂いがした。土と血と煙の匂いだ。

 シュカが馬上で城を眺めていた。満足そうな顔をしていた。


(この戦功もカンゲンのものになる)


 俺は思った。だが今は何も言わなかった。

 ボクシが来た。


「カンシュクが弓の残骸を抱えてしゃがみこんでいる。声をかけてやれ」


 俺はカンシュクのところへ行った。


 砕けた弓の残骸を拾い集めていた。その顔が複雑だった。


「よくやった」


「……砕けてしまいました」


「一発で仕留めた。それで十分だ」


「もう一度引けると思っていたのですが」


「粗悪品だったそうだ。しかたない」


 カンシュクが残骸を見た。


「あの弓の引き方、分かりました。魔力を流す方向と量に法則がありました。もし次があれば……」


「次があれば本物を用意してもらう。リンシに頼む」


「……はい」


 カンシュクが立ち上がった。


 落城の報は長安に届いた。

 ヨウチョウが書状を床に叩きつけた。


「カクレンを更迭しなければこうはならなかった!」


 側近たちが黙って俯いた。

 カクレンが呼ばれた。

 部屋に入った瞬間、ヨウチョウが殴りかかってきた。受け身を取る間もなかった。頬に衝撃が来た。


「貴様のせいだ!貴様が早く片をつけていれば!」


 カクレンは黙っていた。

 ヨウチョウが怒鳴り続けた。衣服を掴んで引き剥がした。組み伏せた。

 カクレンは屈辱を噛みしめた。歯を食いしばった。


 その時だった。

 ヨウチョウの目が見えた。

 虚ろだった。

 怒りに染まっているはずの目が、どこか焦点を結んでいなかった。まるで夢の中にいるような目だ。


(……もしや)


 カクレンは試した。

 低い声で静かに言った。


「足を舐めろ」


 ヨウチョウが動きを止めた。

 それから、ゆっくりと平伏した。

 カクレンの足を舐めた。

 部屋が静まり返った。側近たちが固まっていた。

 カクレンは自分の手を見た。


(戻った)


 失ったはずの力だった。ケイとの戦いで眼光の洗脳を失ったはずだった。なぜ戻ったのかは分からない。だが今、確かに機能していた。


 カクレンはゆっくりと立ち上がった。乱れた衣服を整えた。

 ヨウチョウを見下ろした。


「立て」


 ヨウチョウが立った。

 その目はまだ虚ろだった。


 それからのヨウチョウの変化は速かった。

 日に日に洗脳が深くなった。カクレンの言葉に逆らえなくなった。怒鳴ることもなくなった。カクレンが何かを言えば、それがそのまま命令になった。


 やがてカクレンはヨウチョウの正室として迎えられた。


 皇后として後秦の実権を握った。

 玉座の隣に座りながら、カクレンは遠くを見ていた。

 匈奴の奪還はまだ先だ。後秦を足場にして力を蓄える。それから動く。


 そしてあの男。


(リュウユウ)


 まだ決着がついていない。

 いつかまた会う。その時は生け取りにして従わせてわる。カクレンは静かにそう思った。

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