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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第1章 北府入軍編

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3話 お決まりの展開ではなかった

 京口は、広陵とも違う匂いがした。


 海が近い。潮の匂いと、鉄の匂いと、人の匂いが混ざり合っている。城門をくぐると、行き交う人間の数が広陵の比ではなかった。荷を担いだ商人、武器を帯びた兵士、ぼろをまとった難民。石畳の上に声と足音が重なって、頭がうるさかった。


「でかい街だな」


「北府の本拠地だからな。当然だ」


 ボクシは慣れた様子で歩いている。俺はただついていくしかなかった。


 まず服を買った。


 寒村から逃げてきた格好のままでは、試験どころではないとボクシが言った。確かに俺の服は泥と汗で固まっていた。


 市場の端に古着を売る店が並んでいた。ボクシが値段を交渉し、俺は言われるままに着替えた。麻の上衣と袴。質素だが清潔だ。袖が短すぎて手首が出たが、合う服がなかった。


「それでいい。お前はどうせ体で目立つ」


「失礼なやつだな」


「事実だろ」


 宿を取り、荷を置いた。


 日が落ちると、ボクシが飯を食いに行くぞと言った。連れていかれたのは宿の近くの酒場だった。煙と油の匂いが充満している。荒くれた男たちが卓を囲み、酒を飲んでいた。応募者だろうか、北から流れてきたらしい難民風の男たちもいる。みな目つきが鋭かった。


 席に着くと、ボクシが酒と焼いた肉を頼んだ。陶器の杯が卓に置かれる。酒は薄かったが、温かかった。


「試験の話をしておく」


 ボクシが杯を置いた。


「体力試験、筆記試験、魔法試験の三つだ」


「体力はいい。筆記は……」


 頭を抱えた。字が読めない。書けない。何を聞かれるかも分からない。


「筆記は俺も受ける。お前は無理だ」


「無理って言い切るな」


「現実を見ろ。お前は自分の名前も書けないだろ」


 返す言葉がなかった。


「体力と魔法で稼げ。俺は筆記と魔法と体力、全部で稼ぐ」


「お前、剣術もできるのに体力試験も全部受けるのか」


「当然だ。俺は全部受ける」


 なんだそれは。俺は筆記だけ穴が空いているというのに、こいつは穴がない。


「お前って嫌なやつだな」


「ありがとう」


 全然堪えていない。


「それより魔法試験だ」


「魔法……」


 まだ実感がなかった。


「今の世は戦闘魔法が使えると出世できるのは当然知っているよな」


「……まあ」


 知らなかったとは言えなかった。


「火・水・木・土・金の五系統だ。試験では自分の系統と練度を測られる」


 ボクシは腰の剣に手をやった。鞘から抜くと、刀身がわずかに赤く光る。一振りすると、拳ほどの火球が宙を飛んで、酒場の壁際で消えた。


 周りの客は誰も驚かない。隣の卓では男が指先から水の流れを作って遊んでいた。別の男は手のひらに土の塊を浮かせている。日常の光景らしい。


「火系統だ。強くはないが試験は通る。お前は何系統だ」


「……分からない」


「は?」


「魔法、使ったことがない」


 ボクシが俺をじっと見た。


「お前、本当に頭でも打ったのか。あの怪力はなんだと思っているんだ」


「転.....いや、怪力は……昔からだ」


「まあ、体はでかいしな」


 転生したからと言いかけてしまったが、なんとかやり過ごすことが出来た。あっさり納得した。助かった。


「木系統の身体強化だ。お前が岩を軽々と持ち上げて、カン一家の二十人を投げ飛ばして、腹を殴られても平気だったのは全部魔法だ。無意識に使っているんだろ」


 止まった。


 全部、魔法だったのか。


「……まったく気づかなかった」


「使い手は少ない。試験官が見ればすぐ分かる。むしろお前の一番の武器はそこだ」


 杯を口に運んだ。酒が喉を流れていく。転生して怪力になったと思っていた。魔法だったとは。この世界はまだ知らないことだらけだ。


「北府の試験は難しいぞ」


 ボクシが肉を噛みながら続けた。


「北から逃れてきた難民、遊牧民、食い扶持を求めた荒くれどもが大量に応募してくる。北府は精鋭しか取らない。振い落とすための試験だ」


「それをお前は全部合格するつもりか」


「当然だ。将軍になるんだからな」


 まったく揺らがない。腹が減って将軍を目指す男だ。


 酒が進んできた頃、酒場の隅が騒がしくなった。


 見ると、荒くれた男が三人、一人の女性を囲んでいた。俺たちと同じくらいの年頃だ。端正な顔立ちで、仕立ての良い服を着ている。腰に下げた剣の鞘には細かい細工が施されていて、この酒場には明らかに不釣り合いだった。


 男たちが腕を掴もうとしている。


 来た。


 これだ。異世界転生といえばこれだ。酒場でヒロインが絡まれている。颯爽と助けに行く。お決まりの展開だ。俺の出番だ。


 鼻息が荒くなった。立ち上がった。椅子が後ろに飛んだ。


 その瞬間——


 女性が男の腕を掴んだ。


 腰を落とし、一息に投げた。男が宙を舞い、卓に叩きつけられる。残りの二人が飛び掛かると、女性は身をかわしながら二人をまとめて壁に叩き込んだ。


 三人が床に転がっている。


 女性は乱れた服の袖をさりげなく直してから、こちらを見た。その仕草だけが妙に洗練されていた。


「何こっちみてんだ」


 俺はまだ立ち上がったままだった。椅子が後ろに転がっている。


「……いや、助けようと思って」


「いらん」


「でも、三人相手に……」


「うるさい」


 ボクシが口を挟んだ。


「北府の試験に来たのか」


 女性は少し間を置いてから答えた。


「そうだ。だから助けなど要らんと言っている」


「俺たちもだ」


 俺は名前を聞いた。


「ゾウアイシン」


 アイシン。アイ。なんとなくそう聞こえた。


「じゃあアイだな」


 女性の目が細くなった。


「……なんでアイなんだ」


「アイシンのアイだろ」


「誰がそう呼んでいいと言った」


 次の瞬間、俺は宙を飛んでいた。


 床に叩きつけられる。背中に衝撃が走る。天井が見えた。


 足音が遠ざかっていく。


 ボクシが上から俺を覗き込んだ。


「今の、魔法じゃなかったな」


「……気づいてる場合か」


「純粋な格闘術だ。面白い女だな」


 背中が痛かった。酒場の床は固かった。


 アイシン。アイ。


 なんとなく、また会う気がした。

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― 新着の感想 ―
Xからお伺いしました 転生の仕方が面白いし、なによりギャンブラーなのがツボにはまりました! うん、たしかに若い子のほうがいい(笑) そして、強者との出会いがこの後なにか起こりそうな予感がプンプンします…
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