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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン


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2話 盗んだ馬で走り出す

 翌朝、村の入口に見知らぬ男が十数人立っていた。


 鎧を着ている。手に棍棒を持っている。朝靄の中で、息が白く立ち上っている。


 昨日の続きだ。


「おい!とんでもないことをしてくれたな!」


 声がした方を振り向くと、俺と同じくらいの年頃の男が立っていた。細身だが引き締まった体つきだ。目が鋭い。


「誰だお前?いきなりなんだよ」


「はあ?何寝ぼけてんだ!ボクシだ。リュウボクシだ。冗談言っている場合か!?」


 全然記憶にない名前だった。


「なんで逃げる必要がある?追い返してやる」


「馬鹿野郎!カン一家はその辺のヤクザじゃねえ!千人の野盗団だ!武装してるんだぞ!昨夜のうちに村中に話が広まった」


「千人……それは多すぎだろ」


「こっちだ!逃げる手はずは整っている」


 ボクシが走り出す。ついていくと、馬が2頭つないであった。朝露に濡れた草の匂いがする。


「この馬は?」


「昨日のうちに近くの地主の家から盗んできた。早くのれ!」


 貧相な馬だった。俺の体を乗せると、背骨が軋むような気がした。それでも馬腹を蹴ると、蹄の音を立てて駆け出した。


「いたぞ!追え!」


 背後から怒声が上がる。振り向くと、カン一家の男たちが走り出していた。だが足では馬に追いつけない。みるみるうちに豆粒ほどの大きさになっていった。


「どうやら逃げ切ったな。これからどうする」


「さあ……」


「さあ、じゃねえよ。俺は京口に行く。兵を募集しているんだ。一緒に来い」


「兵士か。まあいいか」


「兵士で終わるつもりはない。俺は将軍になる。お前も昔そう言っていただろ。王になりたいって」


「……俺が?」


「そうだよ。リュウホウの話をしてやった時だ。農民から漢の皇帝になった男の話。お前が一番食いついていたじゃないか」


「……覚えていない」


「は?昨日あれだけ人をぶん殴っておいて、頭でも打ったのか」


 黙っていた。覚えていないのは本当だが、説明のしようがなかった。


「まあいい。とにかく京口だ。俺には知恵がある。お前には腕がある。悪い組み合わせじゃないだろ」


「……お前に言われるまま動くのは気に食わん」


「じゃあ自分で考えろ。何か案があるのか」


「……京口でいい」


「素直じゃないな」


 馬を並べて走りながら、ボクシが独り言のように言った。


「俺はこの村で一番学問ができた。剣も誰にも負けなかった。それでも腹が減った。毎日腹が減った。学問も剣も、飯の前では何の役にも立たなかった」


 返す言葉が見つからなかった。


「将軍になれば腹は減らない。それだけだ」


 ボクシは前を向いたまま、それ以上何も言わなかった。今は太元14年だとだけ付け加えた。戦乱の世らしい。覚えることがたくさんある。頭が痛かった。


 しばらく馬を走らせると、大きな川に出た。


 思わず手綱を引いた。


 川ではない。海だ。水平線が霞んで見える。行き交う船が虫のように小さい。川面が朝日を跳ね返して、目が痛いほど輝いていた。


「なんだこれは……」


「揚子江だ。ここから船で京口に行く」


 広陵という街だった。城門をくぐると、活気が肌に当たってくる。魚の匂い、炭の煙、人いきれ。俺がいた寒村とは別の世界だ。焼き魚を売る声が飛び交い、石畳の上を荷車が轟音を立てて走っていく。


「お前、賭博で勝った金持っているだろ。運賃に使うぞ」


「置いてきた……」


「はあ?お前何やっているんだ!どうするんだよ!」


「だってお前が急かすから……」


 ボクシは頭を抱えた。完全に当てが外れたという顔だ。


「無いなら稼げばいい」


「ここで仕事を見つけろというのか。兵の募集が終わってしまうぞ」


「いや……金が無いなら増やす方法はあるだろ」


「まさか……お前……」


 乗ってきた馬を売った。貧相な馬だったので大した金にならなかったが、元手はできた。焼き魚を一本買い、かじりながら賭博の場所を聞いた。油の香ばしい匂いが口に広がる。


 賭場は街の片隅にある小綺麗な屋敷だった。寒村のボロ小屋とはえらい違いだ。


「なんだ?坊やたち、ここがどこだか分かっているの?」


 入り口に40歳前後の女性が立っていた。着物を着崩しており、白い肩が出ている。白粉の甘い匂いがした。


「チョボはやれるのか?」


「金はあるのかい?」


 金を見せると、女性は軽蔑したようにため息をついた。


「そんな端した金で勝負しにきたのかい?呆れるわ。1回分にもならないよ」


 女性はしばらく俺とボクシを眺めてから、妖しく目を細めた。


「でもあんたら……いい体してるわね。一発やらせてくれるなら、遊ぶ金くらい融通してやるわよ」


 2人で顔を見合わせた。身震いしたが、背に腹は変えられない。


 受け取った袋はずっしりと重かった。銅銭の冷たい感触が布越しに伝わってくる。


「おい……本当に大丈夫なのか……」


 ボクシが耳元で囁く。女性の視線が背中に刺さっている。逃げないように見張っているのだ。


「俺を信じろ」


 卓についた。


 木の札を手に取る。ざらりとした感触。1枚ずつ指で確かめると、わずかに重さが違う。均一ではない。


 イカサマだ。


 緊張して力が入りすぎたフリをした。木の札が割れる。中から小さな重りが転がり出た。


 賭場の空気が固まった。


 次の瞬間、客たちが立ち上がり、胴元に詰め寄った。怒声が飛び交い、卓が揺れる。


 受付の女性が素早く割って入った。


「どうか見逃してください。ここにいる皆様、今日負けた分の倍の額をお支払いします」


「口止め料か。わかった。手を打ってやる」


 なおも言い立てる客がいたが、卓を軽々と叩き割ると、どさりと崩れ落ちる音とともに騒ぎが静まった。


 女性は青ざめた顔で金を差し出した。借りた分を返してもなお、手の中の重さが出発前とは全然違った。


「金は返さなくていい。その代わりに一発やらせてよ」


「俺たちはもっと若い娘がいいんだ。年増には興味ねえよ」


 店を出た。背後から罵詈雑言が飛んできたが、2人は無視した。


「それにしてもよくイカサマを見抜いたな」


「神経を極限まで研ぎ澄ませれば感じるんだ」


 ボクシは黙った。俺を見る目が変わっていた。


 京口行の船に乗った。


 揚子江は日を反射し輝いている。波が船底を叩く音が規則正しく響く。潮の匂いとも川の匂いとも違う、広い水の匂いだ。


 ボクシが舷側に肘をついて川を見ていた。


「腹、減ったな」


「さっき魚食っただろ」


「もう減った」


「化け物か、お前は」


 2人で笑った。


 京口に何が待ち構えているのか分からない。だが心が高鳴っていた。

 ボクシ(劉穆之)はユウ(劉裕)の片腕として絶大な信頼を得ていた人物です。この物語でも、そんな2人の関係を描いていきたいと思います。

 また、作中に出て来る太元14年は、西暦で言うと389年にあたります。北側の覇者である前秦が崩壊していく時期でカオスな群雄割拠、真っ只中の時期になります。


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