表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第3章 襄陽の激闘編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/55

28話 更迭

 激闘から五日が過ぎた。


 膠着が続いていた。


 カクレンが慎重になっていた。野戦部隊を大きく動かさなくなった。小競り合いが続くだけで、決定的な衝突がなかった。


「もう五日になるな」


 カムキが言った。


「手強いと感じているんだろう。あれだけの使い手が慎重になるとは」


「それだけ連携の攻撃が効いたということだ」


 ボクシが地図を眺めながら言った。


 俺は黙って対岸を見ていた。


 カクレンは今日も出てくるだろうか。出てくるとすれば、今度は別の動き方をしてくる。昨日と同じ手は通じない。


 そう考えながら待っていた。


 ◆


 長安では、使者がヨウチョウの前に跪いていた。


「カクレン将軍は北府の老将と若い武将の連携に手を焼き、現在は膠着状態でございます」


「ほう」


 ヨウチョウが目を細めた。体を玉座に沈め、杯を傾けている。


「それだけではございません。東晋の将ハンリョウを討ち取りました」


「……なるほど」


 ヨウチョウの隣に立っていた側近が前に出た。


「ヨウチョウ様。カクレンがこのまま戦果を上げ続ければ、匈奴奪還の支援を約束せねばなりません」


「そうだな」


「膠着している今が好機かと。更迭の口実としては十分です」


 ヨウチョウが杯を置いた。


「では代わりを送れ。ヨウキでいい」


「ヨウキ様は戦経験が……」


「構わん。カクレンをここへ戻せ」


 ◆


 カクレンのもとに使者が来たのは、夜明け前だった。


 書状を受け取った。読んだ。


 更迭。後任はヨウキ。即刻長安へ戻れ。


 カクレンは書状を置いた。


 怒りが来るかと思った。来なかった。悲しみが来るかと思った。それも来なかった。


 ただ、冷たい何かが胸の中に広がった。


(やはりそうか)


 分かっていた。手柄を立てすぎれば約束を果たさなければならなくなる。ヨウチョウはそれを恐れている。戦場で勝つことより、カクレンを手元に置き続けることの方が都合がいいのだ。


「……分かった」


 使者に告げた。


 鉄鞭を見た。手に取った。あの男を従わせる機会はまた訪れると考えた。


 軍営の外に出た。夜明けの空が白んでいた。漢水が光っていた。


 対岸に東晋の陣が見えた。


(リュウユウ)


 あの男の事を考えると体が疼いた。


 カクレンは空を見上げた。それから踵を返した。


 ◆


「カクレンが引いていく」


 ギエイが報告した。


「どういうことだ」


 カムキが眉をひそめた。


「後秦の陣から、カクレンと思われる人影が北へ向かっています。荷も持っています。戻るつもりかと」


「更迭か」


 ボクシが静かに言った。


「なぜこの時期に」


「手柄を立てすぎたからだろう。後秦の内部事情だ」


 俺はカクレンが消えていった方向を見た。何も言えなかった。


 戦場から去っていく背中を、俺は見送った。


 ◆


 翌日、後秦の陣から新しい部隊が出てきた。


 先頭に立つ将軍は丸々と太っていた。鎧が体に合っていない。馬の上で揺れていた。


「あれが新しい指揮官か」


 ドウキが呆れた顔で言った。


「ヨウキという男だそうだ。ヨウソウの一族らしい」


 カムキが言った。


「あの体格で戦えるのか」


「さあな......戦えないなら討つだけだ」


 ボクシが静かに言った。


 ヨウキが怒鳴った。


「東晋の雑魚どもめ!我が出れば百人力ぞ!かかれ!」


 後秦の兵が突撃してきた。


「北府、前へ」


 リュウロウシの号令が飛んだ。


「カムキ、左翼を崩せ。各隊、続け」


 北府の陣が動いた。


「中央を突くぞ。無理はするな」


 ボクシが五百人隊に声をかけた。


 激突した。


 だがカクレンがいない後秦は別の軍だった。連携が取れていない。指示が遅い。ヨウキが後方で怒鳴るだけで、前線に何も伝わっていない。


 カムキの隊が左翼を崩した。中央に俺の五百人隊が突っ込んだ。ドウサイとショカツが暴れる。


 あっという間だった。


 後秦の陣が崩れた。


「退け!退けぃ!」


 ヨウキが馬を返した。配下の兵も続いた。逃げ込んだ先は襄陽の城門だった。


 ◆


 城壁の上でヨウソウは見ていた。


 カクレンを更迭してから、こうなることは分かっていた。だが分かっていても、実際に目の当たりにすると言葉が出なかった。


 ヨウキが城門をくぐってきた。息を切らしていた。鎧が乱れていた。


「ヨウキ」


 ヨウソウが静かに呼んだ。


「も、申し訳ありませぬ!東晋の兵が予想以上に……」


「黙れ」


 ヨウソウの声に温度がなかった。


「カクレンを更迭してお前を寄越した。その結果がこれだ」


「し、しかし……」


「一族に甘い顔をするつもりはない」


 剣が抜かれた。


 ヨウキが目を見開いた。


 それだけだった。


 ヨウソウは剣を鞘に収めた。周囲の将校たちを見回した。


「残った兵力を確認しろ」


 しばらくして報告が来た。


「五万でございます」


「そうか」


 ヨウソウは城壁の上から東晋軍を見下ろした。10万の軍が襄陽を取り囲んでいた。


「籠城する。一兵たりとも無駄死にさせるな。この城を落とさせるな」


「はっ」


「カクレンがいなくても、この城は落ちない。それを証明する」


 ◆


 夕方、京口からの使者が来た。


 リュウロウシが書状を受け取った。開いた。読んだ。


 その顔が変わった。


「……」


 リュウロウシが目を閉じた。長い沈黙だった。


「将軍、どうされましたか」


 副官が声をかけた。


「シャアン様が……逝かれた」


 その場が静まり返った。


 知らせは瞬く間に広がった。北府の兵の間にざわめきが起きた。シャアンは北府の象徴だった。北府を作った人間だった。その柱が折れた。


「シャアン様が……」


「もう終わりだ」


「北府はどうなる……」


 リュウロウシが全軍の前に出た。


「聞け」


 声が響いた。静かだが、よく通った。


「シャアン様は逝かれた。だが北府はここにある。嘆くな。泣くな。戦え。それがシャアン様への唯一の返答だ」


 誰も何も言わなかった。


 だが、ざわめきが止まった。


 ◆


 俺は一人で漢水を見ていた。


 川が静かに流れていた。さっきまで戦っていた戦場が嘘のようだった。


(約束を果たせなかった)


 カンゲンを止めろと言われた。いつかと答えた。シャアンはそれを信じてくれた。だがシャアンはもういない。約束の相手がいなくなった。


 それでも約束は消えない。


 ボクシが来た。黙って隣に立った。しばらく二人で川を見ていた。


「……シャアン様が死んだ」


「ああ」


「お前はどうする」


 俺は少し考えた。


「変わらない」


「そうか」


「シャアン様に言われた。カンゲンを止めろと。それはまだ終わっていない」


 ボクシが黙った。


「お前らしいな」


 それだけだった。


 二人で漢水を見ていた。対岸に襄陽の城壁がそびえていた。10万の軍に囲まれても、城は揺るがなかった。灯りが点り、旗がはためいていた。


 まだ終わっていない。

 ヨウチョウ(姚萇)は前秦の符堅を殺し後秦を建国した人物です。前作から引き続き登場してますが、なかなかのクズキャラですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ