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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第3章 襄陽の激闘編

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27話 連撃

 アイが俺の前に立った。


「待て」


「どいてくれ」


「どかない」


 アイが腕を広げた。俺の行く手を塞いでいた。


「左肩はまだ完治していない。一昨夜の治癒で動けるようにはなったが、全力は出せない状態だ」


「分かっている」


「分かっていない」


 アイの目が真っ直ぐ俺を見ていた。


「一昨夜、ドウサイとショカツと三人がかりで仕掛けた。それで勝てなかった。今日一人で行って何になる」


「一人じゃない」


「ドウサイもショカツもまだ傷が残っている。お前もだ。同じことをもう一度やるだけだ」


「同じじゃない」


 俺はアイの目を見た。


「リュウロウシ将軍が一緒に出る。それに、今度はあいつの弱点が分かっている」


 アイがしばらく俺を見ていた。それから小さく息を吐いた。


「左肩に無理をかけるな。それだけ約束しろ」


「......ああ」


 アイが道を開けた。それ以上は何も言わなかった。だがその目が、俺の背中をずっと追っているのが分かった。


 ハンリョウの遺体が運ばれていった。

 西府の兵が後退していく。シュカが陣を立て直しながら、リュウロウシのところへ馬を寄せてきた。


「リュウロウシ将軍。申し訳ない。ハンリョウが無謀な突撃を……」


「構わない」


 リュウロウシが遮った。


「次は北府が前に出る」


「しかし……北府は一昨夜の夜襲で損害が」


「五百人隊が襲撃された程度だ。問題ない」


 シュカが口を閉じた。リュウロウシの目を見て、それ以上は言わなかった。

 リュウロウシが俺を呼んだ。


「ユウ」


「はい」


「先陣を命じる。あの女将軍を引き出せ」


「……引き出してどうします」


「俺が続く。二人で相手をする」


 俺はリュウロウシを見た。一昨日の一騎打ちを思い出した。あの老将がカクレンをいなした時の槍さばきを。


「分かりました」


 リュウロウシが小さく頷いた。それから静かに言った。


「お前の読みを信じる。左の振りが遅いんだろう」


「……はい」


「俺が右から圧力をかける。左を空けるように見せる。カクレンが右の鉄鞭で踏み込んだ瞬間、左が一息遅れる。そこにお前が入れ」


「分かりました」


 単純だった。だがそれだけに、どちらかが一瞬でも読みを外せば終わりだという緊張感があった。


 後秦の陣からカクレンが出てきた。

 昨日と同じ黒い鎧。両腰の鉄鞭。馬上から東晋軍を見渡した。

 俺の姿を見つけた。


(また来たか)


 カクレンの目が細くなった。一昨夜叩き潰したはずの男が、まだ立っている。左肩の動きが鈍いのは分かる。それでも来た。


(しぶとい。だが今日こそ終わらせる)


 カクレンが馬を進めた。


「死に損ないどもが」


 カクレンが静かに言った。

 俺の隣にドウサイとショカツがいた。二人とも包帯を巻いている。それでも武器を手にして立っていた。


「まとめて相手してやる」


 ドウサイが斧を担いだ。


「望むところだ」


 カクレンが右の鉄鞭を振った。ドウサイが斧で受ける。弾かれながらも踏ん張った。ショカツが大剣で横から切り込む。カクレンが左の鉄鞭で払う。


 俺が棍棒に魔力を流した。右から踏み込む。カクレンが体を半回転させて対応した。三方向からの攻撃をさばきながら、それでも余裕がある。


「隊長!」


 ドウサイが突然、カクレンの馬めがけて走った。


「ドウサイ!」


 止める間もなかった。ドウサイが馬に飛びついた。巨体で馬の首にしがみつき、そのまま体重をかけた。


 馬が傾いた。


 バランスを崩した馬が横に倒れた。カクレンが飛び降りた。ドウサイは馬の下敷きになった。


「ドウサイ!」


「……問題ない!やれ!」


 くぐもった声が返ってきた。

 カクレンが地に降りた。鉄鞭を構え直した。


「馬を道連れにするとは」


 初めて感心したような声だった。


「だが地の戦いでも、お前らには負けん」


 俺は馬上から棍棒を振り下ろした。同時にショカツが大剣を横に薙いだ。上下から挟む形だ。

 カクレンが両の鉄鞭を交差させた。上の棍棒を受け、下の大剣を踏み込んでかわした。


「くっ……!」


 ショカツが体勢を崩した。カクレンが左の鉄鞭を素早く振った。ショカツの大剣が弾き飛んだ。そのまま右の鉄鞭がショカツの胴を打った。

 ショカツが吹き飛んだ。起き上がらなかった。


「ショカツ!」


 矢が来た。カンシュクだ。


 カクレンが右の鉄鞭を振った。矢を叩き落とした。

 シャカイの風が来た。刃のように鋭い風の剣だ。ボクシの火が続く。


 カクレンが鉄鞭を旋回させた。風を切り裂き、炎を散らした。


「……やるな」


 カクレンが俺を見た。

 俺は馬首を返して突っ込んだ。棍棒を連続で振る。左、右、上、下。手数で押した。


 カクレンがひとつひとつ鉄鞭でいなした。一歩、また一歩と後退しながらも崩れなかった。


 突然、カクレンが踏み込んだ。俺の攻撃の間隙を縫って内側に入った。鉄鞭の先端が俺の右腕を掠めた。

 棍棒が手から離れかけた。


 カクレンが横に動いた。シャカイへ向かった。


「シャカイ!」


 鉄鞭がシャカイの足を払った。シャカイが倒れた。カクレンが鉄鞭を持ち上げた。止めを刺そうとした。


 その瞬間、石礫が来た。

 カクレンの顔面すれすれを飛んだ。目眩しだ。ドウキだ。

 カクレンの動きが一瞬止まった。鉄鞭の軌道が僅かにずれた。シャカイへの一撃が外れた。


「……!」


 カクレンが石礫の来た方向を見た。ドウキが次の石礫を握っていた。

 俺は棍棒を握り直した。限界だった。腕が震えていた。左肩が悲鳴を上げていた。それでも動いた。


 だが踏み込む力がなかった。


(終わりか)


 その瞬間、右から馬蹄の音が来た。

 リュウロウシだった。

 槍を構えて一直線に突っ込んできた。


「カクレン!」


 カクレンが右の鉄鞭で槍を受けた。重い衝撃だった。カクレンの体が右へ流れた。


 左がガラ空きになった。


「……っ!」


 カクレンが気づいた時には遅かった。

 俺の棍棒が左側から叩き込まれていた。

 カクレンが鉄鞭で防いだ。それでも衝撃は殺しきれなかった。体が大きく吹き飛んだ。


 地面に転がった。

 すぐに立ち上がった。

 鎧が砕けていた。左腕が痺れていた。口の中に血の味がした。


 カクレンは自分の左手を見た。鉄鞭を握ったまま、その手が小刻みに震えていた。


(弾き飛ばされた)


 初めてだった。これほどの衝撃を受けたのは。ケイとの戦いでも、ここまでは。


 目の前の男を見た。リュウユウ。左肩が限界のはずだ。それでも立っている。棍棒を構えている。目が死んでいなかった。


(厄介だ。本当に厄介な男だ)


「……やるな」


 低い声が出た。

 カクレンが周囲を見た。

 配下の兵が押されていた。北府の各隊がカムキを中心に左翼を崩し、中央を突いていた。カンシュクの矢が後秦の指揮官を狙い撃ちにしていた。カクレンが二人に集中していた間に、戦況が変わっていた。


 このままでは部隊が壊滅する。


(今日はここまでだ)


 悔しくはなかった。いや、悔しかった。だがそれより先に、この男への評価が変わっていた。

 後秦の陣から配下の兵が馬を引いて駆けてきた。


「カクレン様!」


 カクレンは馬に飛び乗った。一度だけ振り返った。

 リュウユウを見た。


(興味深い男だ。従わせたい.......)

 

 感情が昂ってくるのを感じた。体の奥底が熱い。こんな気分になったのは初めてであった。


 カクレンは馬腹を蹴り、後秦の陣へ消えていった。


 戦場が静まり返った。

 俺は棍棒を地面についた。体を支えるためだった。左肩が燃えるように痛かった。

 リュウロウシが馬を寄せてきた。


「よくやった」


「……将軍の読みが正確でした」


「お前が弱点を掴んでいたからだ。俺はそれを使っただけだ」


 俺は何も言えなかった。


「ユウ」


「はい」


「あの女将軍、また来る」


「……分かっています」


「次はもっと手強くなる。今日の戦い方を覚えているからな」


 リュウロウシが俺を見た。


「それでも戦えるか」


「戦えます」


 リュウロウシが短く頷いた。それだけだった。

 アイが走ってきた。ドウサイ、ショカツ、シャカイのところへ次々と向かっていく。怒りと安堵が混ざったような顔をしていた。

 俺のところへ来た時、一言だけ言った。


「約束、守ったな」


「ああ」


「……無理はするな」


 アイが俺の左肩に手を当てた。光が滲んだ。

 漢水が静かに流れていた。


 対岸の襄陽の城壁が夕日を受けて赤く染まっていた。

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