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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第3章 襄陽の激闘編

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26話 襄陽の戦い③ 老将の意地

 翌朝、ハンリョウが俺のところへ来た。


「昨夜は災難だったな、白紙将校」


「……」


「今日は俺が前に出る。北府が情けないから俺が終わらせてやる。せいぜい後ろで見ていろ」


「ハンリョウ将軍」


 カムキが口を開いた。


「あの女将軍は昨夜、五百人隊を単独で壊滅させました。五千では足りないかもしれません」


「黙れ。北府の雑魚と一緒にするな」


 ハンリョウが馬を返した。五千の兵を引き連れて前線へ向かっていく。


「止めなくていいのか」


 カムキが低く言った。


「止められない。あの男はカンゲンの配下だ」


「……そうだな。動ける者は準備しておけ」


 後秦の陣からカクレンが出てきた。

 昨夜と同じ黒い鎧だ。馬上からゆっくりと西府の陣を眺めた。


「また来たか」


 カクレンは小さく呟いた。

 今度は昨夜の男ではない。別の部隊だ。突っ込んでくる勢いは悪くない。だが隊形が雑だ。指揮官が前のめりになっている。


(御しやすい)


 カクレンは馬を進めた。

 ハンリョウが怒鳴った。


「俺がカクレンとやらを討ち取る!かかれ!」


 西府の五千が突撃した。ぶつかった。乱戦になった。

 ハンリョウが単騎でカクレンへ向かった。大刀を大きく振りかぶっている。


「女将軍とやら!俺の大刀を受けてみろ!」


 カクレンは動じなかった。馬を止めて待った。

 大刀が振り下ろされた。

 右の鉄鞭で受けた。金魔法の光が弾けた。

 ガキンという音がして、大刀が真っ二つに折れた。


「な……!」


 ハンリョウが目を見開いた。

 カクレンの左の鉄鞭が横から来た。

 ハンリョウが馬ごと吹き飛んだ。地面に叩きつけられ、転がった。起き上がらなかった。


「将軍が落とされた!」


「逃げろ!」


 西府の兵が崩れ始めた。前列から雪崩を打って後退する。


「止まれ!」


 シュカの声が飛んだ。

 潰走する兵の前に馬を乗り出す。


「逃げるな!陣形を立て直せ!右翼は後退するな、左翼は弓を構えろ!」


 短い言葉が次々と飛んだ。

 走っていた兵が止まり始めた。少しずつ陣が形を取り戻していく。

 カクレンはそれを見ていた。


(やるな)


 追撃しなかった。西府の陣形が整い始めると、静かに馬を返した。

 西府の軍は沈黙するしかなかった。


 リュウロウシが槍を手に取った。


「将軍!」


 副官が声を上げた。


「下がっていろ」


 それだけ言って馬を進めた。

 カムキが即座に動いた。


「左翼、展開しろ!」


 別の隊長が右から動いた。


「右から回り込む!」


 命令があったわけではない。将軍が前に出た。ならば俺たちが支える。北府の各隊が自然にそう動いた。

 カクレンがリュウロウシを見た。


(老将か)


 白髪混じりの髪。だが馬上の姿勢が違う。長年戦場に立ち続けた者の気配がある。


 カクレンは馬を止めた。

 二頭の馬が向き合った。


「カクレンとやら」


 リュウロウシが静かに言った。


「お前の強さは本物だ」


「……」


「だがここまでだ」


 リュウロウシが槍を構えた。カクレンが鉄鞭を持ち上げた。

 動いたのはカクレンが先だった。

 右の鉄鞭が来た。リュウロウシが槍で受け流した。力ではなく、流した。カクレンの一撃が空を切った。


(受け流した?)


 カクレンが目を細めた。

 リュウロウシが槍を突いた。カクレンが横に身をかわした。紙一重だった。


「……やるな、老将」


 また鉄鞭が来た。またリュウロウシが流した。


「隊長、見てください」


 ドウキが俺の袖を引いた。


「リュウロウシ将軍が押しています」


「ああ」


 俺は黙って見ていた。力では劣る。だがカクレンの動きを読んで、いなして、隙を突いている。

 その間にも北府の各隊が動いていた。


 カムキの隊が左から圧力をかける。別の隊が右に回った。カンシュクが弓を引き絞った。ドウキが石礫を握った。


 カクレンが周囲を見た。


(囲まれた)


 リュウロウシ。展開する北府の各隊。弓を構えるカンシュク。


 カクレンは一瞬だけ目を閉じた。


(今日はここまでだ)


 馬を返した。包囲が完成する前に、隙間を突いて離脱した。

 誰も追わなかった。

 戦場が静まり返った。


 俺はカクレンの背中を見送った。

 リュウロウシが馬を寄せてきた。


「ユウ」


「はい」


「次はお前が出る番だ。準備しておけ」


「……分かりました」


 漢水の向こうに襄陽が見えていた。

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