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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第3章 襄陽の激闘編

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24話 襄陽の戦い①

 建康から使者が来たのは、秋の終わりだった。


 リュウロウシが使者を引見した。その場に俺も同席していた。シャアンに言われた通り、最近は将校会議に呼ばれることが増えていた。


 使者が勅令を読み上げた。「後秦討伐。西府軍主導。北府軍は援軍として参加し、西府の指揮下に入れ」


 リュウロウシの顔が変わった。変わったのは一瞬だった。すぐに元の表情に戻った。だがその一瞬を俺は見ていた。


「……承知した」


 使者が去った後、部屋が静かになった。


「西府の指揮下か」


 カムキが低く言った。


「勅令だ。従うしかない」


 リュウロウシが静かに答えた。


「カンゲンめ……また北府を使い捨てにするつもりか」


 シャカイが珍しく声を荒げた。


「シャカイ」


 リュウロウシの一言でシャカイが口を閉じた。


「感情で動くな。今は戦の準備をしろ」


 将校たちが下がっていく。俺も続こうとした。


「ユウ。残れ」


 リュウロウシが言った。


 二人になった。


「お前はシャアン様から何か言われているか」


 俺は少し考えてから答えた。


「カンゲンを止めろと言われました」


「そうか」


 リュウロウシが窓の外を見た。


「この戦はカンゲンの戦だ。西府が主導し、北府が働き、手柄はカンゲンが取る。いつも通りだ」


「……はい」


「だがそれでも戦わなければならない。後秦を叩くことは東晋のためになる。北府のためにもなる」


 リュウロウシが俺を見た。


「お前は戦えるか」


「戦えます」


「理由を聞こうか」


「戦わなければ強くなれない。強くならなければ、いつかカンゲンを止められない」


 リュウロウシが少し間を置いた。


「シャアン様の言葉を、ちゃんと聞いていたのだな」


 それだけ言って、リュウロウシは部屋を出た。



 出陣の前日、シャアンの部屋を訪ねた。


 リュウロウシに言われたわけではなかった。ただ、行かなければならない気がした。


 部屋に入ると、香の匂いがした。薬の匂いも混ざっていた。シャアンは床に横たわっていた。以前より小さく見えた。顔の肉が落ちて、骨の形が浮き出ていた。それでも目だけは生きていた。


「ユウか」


「はい」


「座れ」


 俺は床に腰を下ろした。シャアンがゆっくりと俺を見た。


「後秦へ行くそうだな」


「はい」


「カンゲンの戦争だ」


 シャアンの声に温度がなかった。


「分かっています」


「分かっていても行かねばならない。それが今の北府の立場だ」


 シャアンが目を閉じた。しばらく間があった。呼吸が荒かった。


「ユウ。一つだけ聞け」


「はい」


「戦功はカンゲンに取られる。金も取られる。それでもお前は戦えるか」


 俺は少し考えた。


「戦えます」


「なぜだ」


「シャアン様がいつかカンゲンを止めろと言った。そのためには俺が強くならなければならない。この戦はその機会です」


 シャアンが目を開けた。


「……そうか」


 かすかに笑った気がした。


「お前は馬鹿だが、筋は通っている」


 それだけだった。


 翌朝、出陣した。シャアンの部屋の前を通ると、中から咳の音がした。



 北府軍が京口を出た。五万の兵が隊列を組んで進む。鎧の音、馬蹄の音、人の足音が重なって地面が揺れるようだった。


 ボクシが馬を並べてきた。


「カンゲンは建康に残って動かない。今回の西府主将はシュカという男だ」


「どんな男だ」


「策略型だと聞いている。荊州で長く政務をやっている。カンゲンの腹心だ」


「副将は」


「ハンリョウ。猛将だ。突撃戦を好む。北府の戦い方を馬鹿にしているらしい」


「やりにくい相手だな」


「敵は後秦だけじゃない。この戦は味方も敵だ」


 ボクシが静かに言った。


 アイが俺の右側に馬を並べてきた。


「無茶はするなよ」


「ああ......」


「約束しろ」


「約束する」


 アイは何も言わなかった。それだけで十分だった。



 荊州で西府軍と合流した。


 西府の旗が並んでいた。北府とは違う色だ。鎧の作りも違う。金がかかっている。カンゲンが荊州で蓄えた富が軍装に出ていた。


 シュカが馬を進めてきた。四十がらみの男だ。細身で目が細い。笑っているような顔をしているが、笑っていない目をしていた。


「リュウロウシ将軍。此度はご協力いただき、恐悦至極」


「カンゲン殿のご命令とあらば」


 リュウロウシの声は平静だった。


 シュカの目が後ろに動いた。北府の将校たちを見ていた。俺の顔で止まった。


「君が噂のリュウユウか。筆記試験を白紙で出して北府に入られたとか」


「そうだが」


「面白い男だ」


 シュカはそれだけ言って馬を返した。笑っているような顔のまま戻っていった。


 ハンリョウが代わりに来た。三十がらみの大柄な男だ。体格はいい。目つきが悪い。


「お前が白紙将校か」


 値踏みするような目だった。


「そうだ」


「北府はこんな字も書けない男を将校にするのか。ずいぶんと人材に困っているようだな」


 俺はムッとした。


 隣でカムキが小声で言った。


「今は堪えろ。戦が始まれば結果で示せ」


 俺は黙った。ハンリョウが鼻で笑って去っていった。



 漢水が見えてきた。


 川幅が広かった。対岸に城壁が見える。高い。分厚い。南に山が迫り、北に漢水が流れる。水と山に守られた城だ。


「襄陽か……」


 ドウキが呟いた。


「あれが荊州の要か」


 モウチョウが口笛を吹いた。


「あんな城、どうやって落とすんだ」


「落とさなくていい」


 ボクシが言った。


「城を落とすのは西府の仕事だ。俺たちは野戦で後秦軍を叩く。守将が籠城している間に、外に出てくる野戦部隊を叩き続ける」


「野戦部隊の指揮官は」


 ボクシが少し間を置いた。


「女の将軍だそうだ。後秦に仕える匈奴の女。名はカクレン」



 翌朝、北府5万が先鋒となって漢水沿いに布陣した。


 後秦側から部隊が出てきた。2万ほどだ。隊形が整っている。練度が高い。


 その先頭に女がいた。


 黒い鎧を着ていた。背が高い。両腰に鉄鞭を下げている。馬上から東晋軍を見渡していた。遠くからでも分かる。ただ立っているだけで場の空気が変わるような存在感があった。


「あれが指揮官か」


 カムキが言った。


「女だ」


 ドウキが呟いた。


「強そうだ」


 ショカツが珍しく真顔で言った。


 戦端が開いた。


 カクレンの2万が突撃してくる。繰り返し、繰り返し、波のように。北府の陣形が押される。押し返す。また押される。消耗戦だ。互角だった。


 そこへカクレンが自ら動いた。


 馬を駆けさせながら、両腰の鉄鞭を抜いた。二本の黒い鉄の棒だ。それぞれが人の腕ほどの太さがある。カクレンはそれを軽々と振り回しながら前線へ突っ込んだ。


 鉄鞭に金色の光が纏わりついた。金魔法だ。武器に属性を付与している。


 一振りで三人同時に吹き飛ばした。


 ケイシャンの騎馬隊が突っ込んでくる。


「カクレン!覚悟!」


「ケイシャン待て!」


 止める間もなかった。ケイシャンが馬を駆けさせてカクレンに向かった。槍を構えた。


 カクレンが鉄鞭を振った。


 ケイシャンの槍が折れた。馬ごと叩き落とされた。どさりと地面に落ちる音がした。


「ケイシャン!」


 俺は棍棒を握り直した。ドウサイとショカツが横に並んだ。三人で同時に前へ出た。


 カクレンが俺を見た。


 初めて目が合った。


 静かな目だった。怒りでも興奮でもない。ただ、冷静に相手の強さを測るような目だった。


 カクレンが馬を止めた。俺たちを待った。


 俺は棍棒に魔力を流した。木系統の身体強化が全身に広がる。


 踏み込んだ。


 カクレンが鉄鞭を振った。受けた。両腕に衝撃が走った。重い。今まで感じたことのない重さだった。弾かれた。


 ドウサイが斧で横から入った。カクレンが片方の鉄鞭で受ける。ドウサイが吹き飛んだ。


 ショカツが大剣で切り込んだ。カクレンがもう一方の鉄鞭で打ち払った。ショカツが後退した。


 俺が再度踏み込んだ。


 カクレンの目が光った。鉄鞭が二本同時に来た。受けきれなかった。横に跳んで半分だけかわした。それでも右肩に一撃をもらった。痺れた。


(速い。重い。そして……強い)


 日が傾いてきた。


 カクレンが馬を返した。後秦の陣へ戻っていく。その背中を見ながら俺は立っていた。息が荒かった。


 アイが走ってきた。


「ケイシャンは!」


「重症だ。早くみてやってくれ」


 アイが俺の右肩を見た。


「あなたも」


「後でいい。ケイシャンを先に」


 アイが俺を一瞥して、ケイシャンのところへ走っていった。


 ボクシが来た。夕日を背にしていた。


「どうだった」


 俺は漢水を見ながら答えた。


「強い。今まで戦った誰とも違う」


「魔法か」


「魔法もある。だが本質は違う。あの女、魔法なしでも化け物だ」


 ボクシが黙った。


「鉄鞭の振り方を見ていた。左の振りが右より一息遅い。次はそこを突く」


 ボクシが少し笑った。


「それがお前の強さだな」


 俺は答えなかった。


 夜の帳が下りてきた。対岸の襄陽に灯りが点り始めた。漢水が黒く光っていた。

カクレン(赫連勃勃)は匈奴の王です。史実ではもう少し後の時代に出てきます。そして自分の女体化センサーが反応してしまい、女性にしてしまいました。前作にも登場する人物で、今作でも主人公に立ちはだかる強敵となります。

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