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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第2章 南燕編

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23話 落としてみせますわ

 船団が京口の港に入った。岸に近づくにつれて、人の気配が増えていった。


 兵だった。

 港の周囲に、見慣れない旗が立っている。北府の旗ではない。西府の旗だ。


「カンゲンの軍だ」


 ボクシが静かに言った。


 船が岸に着く前から、もう岸では兵が待ち構えていた。金を陸送するための部隊だ。荷馬車が何台も並んでいた。準備が良すぎる。


「いつから待っていたんだ」


「俺たちが広固を出た時には、もう動いていたんだろう」


 ボクシの声に温度がなかった。


 金千斤が船から卸される。西府の兵が手際よく荷馬車に積み込んでいく。一台、また一台。荷が運ばれていくたびに、その金が建康へ向かうことが分かった。


「俺たちには何も入らないのか」


 ドウキが低い声で言った。


「一銭も入らない」


 ボクシが答えた。


「広陵を解放した。南燕と戦った。人が死んだ。なのに金は全部カンゲンのところへ行く」


 誰も何も言わなかった。


 数日後、皇帝からの褒章が届いた。


 リュウロウシがそれを読み上げた。広陵解放の戦功を称え、金品を下賜する。その額を聞いた瞬間、その場が静まり返った。


「……これだけか」


 カムキが低く言った。


「これだけだ」


 リュウロウシの声は平静だった。だがその目は違った。


「カンゲンめ……」


 シャカイが珍しく感情を露わにした。


 俺はリュウロウシの顔を見た。


 この人は怒っているのだろうか。それとも諦めているのだろうか。どちらでもなかった。ただ静かに、次を見ていた。


 シャアンに言われたことを思い出した。カンゲンだけは阻止しなければならない、と。


(あの男は本当に厄介だ)


 戦場にいない男が、戦場の結果を全部持っていく。



 数日後、リンシが広陵へ戻ることになった。


 荷馬車に荷を積み、家人たちを引き連れて出発の準備をしていた。俺は見送りに来た。アイも来ていた。ボクシも、カムキも、なぜか全員が集まっていた。


「お世話になりました」


 リンシが一礼した。それから俺を真っ直ぐ見た。


「ユウ」


「なんだ」


「次にお会いする時は、必ず落としてみせますわ」


 その場が静まり返った。


 ドウキが固まった。ボクシが片眉を上げた。カムキが咳払いをした。


「……今、何と言った」


 アイが低い声で言った。


「落としてみせると言いました」


 リンシが微笑んだまま答えた。堂々としていた。悪びれる様子が全くない。


「そうはいかない」


 アイが一歩前に出た。


「あら。それはどういう意味ですか」


「言葉の通りだ」


 二人が向き合った。笑顔と真顔が対峙していた。


 俺は何も言えなかった。


「ふふふ」


 リンシが先に笑った。アイを見て、それから俺を見た。


「楽しみにしていてください」


 踵を返して歩いていった。


「待て」


「また今度」


 振り返らなかった。その背中を、全員が黙って見送った。しばらくして、ドウキが俺の背中を叩いた。


「隊長……大変なことになってきましたね」


「うるさい」


 モウチョウが口笛を吹いた。


「両手に花どころじゃないな」


「黙れ」



 港の端で、リンシがチョウセキと話していた。


 荷馬車から小さな箱がいくつか取り出されている。南の産物だ。香辛料、薬草、絹の端切れ。


「これは北では珍しいものばかりですよ。高く売れます」


「ほう。どのくらいで売れる」


「倍以上は固いですわ。産地が違いますから」


 チョウセキが箱の中身を確かめながら唸った。


「……これは確かに北では見ない」


「私の商会を通せば、山東一帯に流通させることができます。定期的に仕入れますか」


「乗った」


 あっという間だった。


 船旅の間にいつの間にか話を詰めていたらしい。リンシはチョウセキの船団を物流に使い、チョウセキはリンシの商品を北で売る。


「あの女……いつ話を進めていたんだ」


 カムキが呆れた顔で言った。


「船の上だろ。俺たちが船酔いで死にかけている間に」


 チョウセキが俺のところへ来た。


「リンシという女、只者じゃないな」


「そうだろ」


「惚れそうだ」


「やめておけ。面倒なことになる」


 チョウセキが大きく笑った。


「そういうあんたも、なかなか面倒なことになっているようだが」


「余計なお世話だ」


 チョウセキがリンシの荷馬車が遠ざかっていくのを眺めた。


「また頼むことがあれば声をかけてくれ。あんたらと仕事をするのは悪くない」


「ああ。頼む」


 チョウセキが港へ戻っていった。



 南燕との3年の不可侵条約が結ばれた。しばらくは南の方向に大きな戦はない。だが東晋の北の脅威は変わらない。後秦がその筆頭だ。


 リュウロウシが将校たちを集めた。


「次の戦の準備を始める。相手は後秦だ」


 地図が広げられた。関中の地形が示された。長安。洛陽。黄河。


 俺はその地図を見ながら思った。


(舞台が変わる)


 南燕は一段落した。広陵を守った。金は取られた。だが終わっていない。


 カンゲンがいる。後秦がいる。シャアンの病は進んでいる。


 やることは山ほどある。


「ユウ」


 リュウロウシが俺を見た。


「はい」


「後秦に備えろ。戦はすぐに来る」


「分かりました」


 地図の上に、新しい戦の影が伸び始めていた。

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